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とりとめのないこと2022/04/04,05

目が覚めると妻のシモーヌ仮称大佐はいつもみたいに大の字になっておらず、丸まっていた。それでいていつも通りタオルケットをベッドの下に落としていた。
僕は彼女が風邪を引かないようにタオルケットをかけ直して、リサ仮称少尉の眠りも確認した。
そのあとSNSを開いて、遠くの国の戦況で何かないか探した。昨日の夜とあまり変わらず、不条理まみれのニュースだらけだった。

昨日は朝から夜までずっと雨が降り続けていた。仕事の帰り際に大佐と電話で口論になり、僕は腹を立てて、帰ってきてから暫くふたりとも口を聞かなかった。リサ少尉と風呂から上がってふんぞりかえって不貞腐れていると、夕ご飯ができたと彼女が上目遣いで言ってくれた。僕は幼稚な自分に腹が立ち、全部ハゲかけのウラル山脈のやつのせいだと思うことにした。

全力で僕は食器を洗い、洗濯物を畳んで、そのあと僕は洗面所で自筋撮りをし、胸筋がむちむちし始めたのをおどけてストーリーに載せた。大佐は呆れながらも笑い転げてくれた。それで僕は大佐に仲良くしてもらい、そのまましばらく海の向こうのことの心配を僕に話始めた。

僕らは裸のままベッドでジャンプしてみた。
「サルトル仮称、逆立ちしてみて」
「なんで?」
「世界が逆さまになるから」
「わかった、まかせろ」
僕は逆立ちし、シモーヌとリサも逆立ちした。
裏山でタヌキたちの縄張り争いの叫び声が聞こえた。シモーヌはその叫びを合図にし、「逆立ち、なおれ!全員、再勃起!」と言うと、真っ直ぐにピアノの部屋へと向かう。僕らもそのあとに続き行進しながらレッスン室の扉を開けた。ベートーヴェンのディアベッリ主題変奏曲ハ長調120-24アンダンテを大佐が弾き、僕は勃起したままリサ少尉はぬいぐるみのミニーを振り回しながら大佐に向かって敬礼した。

そうして僕ら3人は裏山へと向かった。海が広がり街が一望できる悲しくなったらいつも大佐が登る場所だ。そこへは僕と少尉は大佐の許可なしで立ち入ってはいけない場所でもあった。
雨は止み、少し乾いた砂利を踏しめると、砂埃と草の柔らかい匂いに混じって、沈丁花の香りがした。

大佐が涙を拭うと、その涙から秘密の扉ができた。

僕らはその扉の向こう側で暴れる冷酷な70歳くらいの独裁者をやっつけた。僕らは崩れ落ちたビルの残骸を獅子座製の特殊なアロンアルファでくっつけて元通りにした。僕らはそのまま沈黙の人びとを眠りから起こしてあげて、笑い転げてもらうために、僕はおどけて、大佐と少尉も笑いの輪に入った。僕らはお腹を空かせたままの人びとにプロテイン・バーと温かいカレーライスを作って食べてもらい、大佐は指揮棒を魔法の杖みたいに振って、あたり一面に花を咲かせた。少尉は同じくらいの小さな人たちとおててを繋ぎ歩いたり、まだハイハイしかできないひとに歩いてみせた。すると小さなひとたちも歩きはじめた。僕らはみんなにさよならをして、僕はヴォルフガング・アマデウス・ヒロになった。僕らは許可なく置き去りの地雷を無効化し、大砲を宇宙に飛ばして、ロケットも飛ばした。僕らはそのままロケットに乗り込み、いつもの獅子座経由ではじめの秘密の扉の側に戻った。やっつけた独裁者を僕らはそのまましばらく眺めて、僕らの乗ってきたロケットに乗せた。艦内放送でバタイユ隊長が「皆さま、本日は当機ペソア号にご搭乗、誠にありがとうございます。当ロケットはサザンクロス行きとなります。座席のシートベルトをしっかりとお閉めください」と言うのがあたり一面に響いた。僕ら3人だけに聞こえる爆音と共に、ロケットはサザンクロスへと発射した。

どこからともなく鳴り響く声にならない声が聞こえてくる。
呼応して僕も叫ぶ。

私は太陽である、と。

僕は逆立ちしなおし、大佐は少尉を抱きながら秘密の扉を丁寧に閉めた。

僕はぎゅっと目を瞑りなおし、世界をよく見るために、また目を開けた。
今日の天気の何度目かの確認をする。
窓の外は少しぎこちなく白んでいる。
火曜日、曇り時々晴れ。

少しでも良いニュースがないか探した。
もう少ししたら、大佐がきっと目を覚ます。

トントンって肩たたいてくれたら、どうしたの?って聞いてあげられる。
本当はみんな優しくされたいに決まってる。

僕は大佐の丸いおでこを撫でて、「ごめんね」と呟いた。

※これはフィクションです


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