沼地のある森を抜けて(著:梨木香歩)

先祖代々伝わる家宝のぬか床が呻く。そのぬか床から卵が産まれ、人になっていく。
ぬか床にまつわる一族のルーツの謎解き。そして、おそらく一番始めに有性生殖を行った細胞を擬人化した孤独と勇気の物語。この2つが協奏する。 “おそらく”としたのは、こっちの物語全体が何かの比喩なのだ。少し難解なので、こっちの話はいろんな解釈がありそう。読み飛ばして後でまとめて読んだほうが分かりやすいかもしれない。

全体的にとんでも設定だが、主人公はいたって現実的。これに苦悩しながら謎を紐解いていくため、SF系やファンタジー系が好きではない人でも、入り込みやすいのではないかと思う。
ぬか床の奇妙な話から始まり、命の連鎖までをも感じさせるスケールのある結び。

梨木さんの作品はどれも、自然が放つ空気感の描写にとてもリアリティーがある。
植物の生命力やそこに広がる土の香り、むわっと沸きあがるような湿気感... 息遣いが感じられるようで、まるでそこにいるかのようで、とても幻想的。

本書は2005年に発売されている。
久しぶりに再読したら、ブルゾンちえみwithBの「細胞レベルで恋してる?!」が、天の声のようにふっと降りてきた(苦笑)


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