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現実逃避って悪いこと?

改めて聴いてみました。

いいですね。悲しみを克服するためにあえて吐き出すプライマル・スクリーム調(ここではバンド名ではなく、抑圧してきた感情を解放する精神療法の意)のヴォーカルが刺さりました。

歌詞も素晴らしい。否定すればするほど断ち切れない未練の深さが窺い知れます。世界観は異なりますが、中学生のときに何度も聴いたTHE 虎舞竜「ロード」を思い出しました(「何でもないような事が幸せだったと思う」というフレーズをこのご時世に噛み締めると眼球がひりひりします)。

でもこの「香水」で話題になるのは決まって「ドルチェ&ガッパーナ」の部分。あと「3年間会ってない女から夜中にLINEが来ても、普通は会いに行かない」「過去に囚われて成長していない駄目男」などの冷ややかなツッコミが目立ちます。

でもよくよく考えると、この主人公けっこうすごいですよ。だって承認欲求&自己美化ブームの真っ只中で、己を全く擁護してないんですから。「クズになった」「人を傷つけて泣かせても何も感じ取れない」「嘘ついて軽蔑されて涙ひとつ流せない」虚無、虚無、虚無。

この主人公は彼女に振られてから人生のどん底が続いているのではないでしょうか。そしてまだ気持ちが残っている。と同時に、上手くいかないこともわかっている(タバコに関する件でそれを再確認する)。だからこそ、決して戻れないあの頃を懐かしむに留めている。留めざるを得ない。

以前読んだ本に次のような趣旨のことが書かれていました。「現在にも未来にも希望を見出せないなら過去を見ろ」「過去は最も確実な存在である」。ノスタルジーに浸ってもただの現実逃避で何も解決しないと笑う人もいるでしょう。でも現実逃避は、現実と向き合う前段階でもあるのです。そもそも本当に逃避したらそれは死を意味します。生きたい、前に進みたいという気持ちがまだ残っている。その証が現実逃避なのだと私は考えます。

この主人公もちゃんと現実と向き合っています。楽曲にして歌うことでそれを可能にしたのかもしれない。自分を躊躇いなく「クズ」と呼べる人は本当のクズではありません。3年間成長が止まっていたとしても、動き出す準備はもうできている。そんな「這い上がる弱者」の密やかな胎動を感じ取れるところに一抹の共感と励みを覚えるのです。


作家として面白い本や文章を書くことでお返し致します。大切に使わせていただきます。感謝!!!