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読書メモ:新規事業の実践論

起業の失敗大全』を読んだときにも書いたが、起業家のストーリーは自己啓発的にいい、というかモチベーションが上がる効果が少なくとも私には認められる。映画で成功ストーリーを観るのと一緒ですよね、多分。『起業の失敗大全』についてはベンチャーの成功譚ではなく、ストーリーは入っているけど基本的にはアカデミックな本なので、気持ちが上がるとか下がるとかではなかったですけど。

私は出版社に勤めているのですが、なかなか将来的に成長性があるとはいわれていない業界に属していて、なので「新しいことをやらなくちゃね」というのはもう、昔っからみんな口にはしていた。同業他社でこんな事業を始めた、とかデジタルがらみでこんな取り組みを始めた、などの業界ニュースを耳にすると、すごいな、いいな、どうやったんだろうとうらやましがりつつ、どうせうまくいかないであろうという呪いをかけたのち、記憶から消去するという下卑た考えをしていたことも、なかったとはいえない。ごめんなさい、ニューズピクスアカデミアさん他。

もちろんパソコンの普及に始まって業務環境もがらっと変わった。編集もデジタルデータを直接やりとり、さらには同期して作業ができるようになった。流通・販売に関わる数字もそれまでよりリアルタイムかつ精緻になった。それは道具が便利に、高度になるのにつられていったわけだが、新しい事業となると話は別で。新サービスといってはみたものの、これ要するに派生商品だよね、としかいえないようなものだったりした。

なんでこんなにヘタクソなんだろう、やはりエンドユーザーと直接つながりがないからではないかといってみたり、商品の性格的にリピート購入してくれるものではないのでブランドができにくいのではないか、とか一生懸命できない理由を考えていたような気がする。普通に考えてそりゃいかんですよね。加えて、その時は思わなかったけど『多様性の科学』にもあったように出版が好きでこの業界に入ることができて、よかったね、って思っている人が集まっているいわば単一性の集団の弱さ、みたいのもあったんだろうな。出版に興味があって出版社を受けて入社したのに、わざわざそこからはみ出した仕事を志すのは、そもそも論としてハードルが高く、なるわなあ。

そういうコンプレックスとか、あせりとかがありながら、同じテーマの本を続けて読む流れでこの本を見つけたわけです。ニューズピクスブックスだったのはたまたまで、私の贖罪の意識で選書したわけではありません。当たり前ですが。

本書はまさに社内で新規事業を起こすことについての実践書という一冊です。著者はリクルートで自ら立案した新規事業を立ち上げ、以来プレーヤーとして、経営者として、そしてアドバイザー・コンサル・エンジェルと一貫して新規事業立ち上げに関わってきた人物。武勇伝も数多くあるでしょうが、本書は事業のスタートをフェーズに分けてすべきこと、すべきではないことを指南。このフェーズでこれをやってはいけない、その理由とは。大きいことも、細かいことも、おそらくそこでつまづくケースが多いんだろうな、というポイントが押さえられている。特に社内上層部へのプレゼンの項は、プレゼン側の言い分、経営者側の言い分、それぞれの立場が描写されており、生々しく解像度が高い。ここは、著者の優しさを感じました。

とにかく最初は客に聞け、は金言。いやほんと、言葉になっていてすごいや。

利用サービス:Audible


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