いちは(精神科医)

3人娘(小5、小2、5歳)と男児(0歳)の親。精神科での学びを育児に、育児での着想を臨床に。本の紹介→https://note.com/booooooks Twitter→https://twitter.com/BookloverMD

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    最近の記事

    あの時かすかに交わったはずの健くんを偲ぶ

    37年前の今日、小学4年生の私は生まれて初めて飛行機に乗って、一人で東京に行った。 親戚の家に到着してテレビを見ていると、飛行機墜落のニュース速報が流れた。 その飛行機には小学3年生の男子が一人で乗っていた。私と同じく生まれて初めての飛行機。甲子園を見るためだったという。 もしかすると、羽田空港ですれ違ったかもしれない。少なくとも、同じ時間帯で、彼と私は羽田空港にいたのではないか。 この季節になると、毎年必ず思い出す。 互いに見ず知らずの彼と私は、同じような年齢で、

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      • 沈黙に「耐える」から、沈黙の「共有」へ

        実習にきている作業療法の学生が「受け持ち患者さんついて知りたい」というので、診察室で話し合ったときのこと。いくらか言葉のやり取りをしたあとに、ふっと沈黙が訪れた。 「……」 「……」 「……」 「……」 「いま、沈黙に耐えた?」 「耐えました」 「よく耐えたね。俺も耐えた(笑)」 「(笑)」 「これが、仲が深まれば沈黙の『共有』になる」 「はい」 「患者さんとの沈黙も、最初は耐える感じになるよ。でもそこから、だんだんと『共有』を目指す」 「なるほど」 「沈黙を共有できれば

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        • 患者さんに必要とされることがある幻聴や妄想という「痛み止め」

          幻聴も妄想も、その人が脳で作り出したものである。思いつかないことは幻聴にも妄想にもならない。これを忘れずにいれば、患者さんがどうしてそんなことを思いついたのか、そのキッカケはなにかなどを探すことができる。そして、(稀ではあるが)的確に捉えられれば、その人の苦悩をすごく理解しやすくなる。そうすると、治療関係も良好になる。 幻聴や妄想は、その人の生活をかき乱す症状ではあるのだが、人によっては実はそれらの症状が「もっと辛い苦悩に対する痛み止め」「苦悩から気をそらすための目くらまし

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          • コロナ初期の激しい差別と陽性者1日20万人の現状から考える疾患差別

            コロナ禍の初期、田舎での初感染者は家に石を投げられて窓ガラスが割れ、一家は怖くなって引っ越した。 感染した一人暮らしの学生は、郵便受けに「出ていけ」という紙を入れられ、やはり引っ越した。 あのとき石を投げた人は、今も未感染だろうか? 紙を入れた人の家族は、今もみんな未感染だろうか? 1日20万人の陽性者がいる現在、身の回りでは毎日のように職場の誰か、あるいは誰かの家族が陽性になっている。コロナはもう、身近で感染者がでても驚かない病気になった。でも、ほんの2年前には、上記

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            • 60%の力で、全力投球

              日常業務は60パーセントの力でこなす。 これがモットー。トラブル発生時のための余力を用意しておくためだ。同時に「平時の日常業務くらいは60パーセントの力でこなせるようになろう」と心がけることでもある。 「平時の日常業務は60パーセントの力でって、少なくない!? それって、サボってない!?」 そう感じる人もいるだろう。ただ、自分の仕事を思い出してほしい。丸一日まったくなんのトラブルもないということは、きっとほとんどないはずだ。60%を意識していても、小さなトラブル(ある程

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              • 育児の役割を固定化しないよう強く意識すべし

                何人かいる子どものうち一人に障害があるという女性が、こんなことを言っていた。 「ふとしたとき、たとえば外食や旅行での入浴で、夫がいつも、当たり前のように、『障害のない子たち』の隣に座るし、彼らを風呂に入れる。障害のある子のケアは、常に私。とても良いパパではあるんだけど、そういうことの小さな積み重ねで、私は地味に削られていく……」 これは障害の有無にかかわらず、強く意識しないといけないことだと思った。 育児での役割は、無意識のうちに固定してしまう。そして、「主担当」「副担

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                • 音を愛でる人の思い出

                  精神科医1年目のとき、統合失調症を患う音楽家が入院していた。 若い頃に発症し、処方薬を飲まず、重症化して日常会話はできなかった。 その人のお気に入りは病棟のピアノで、しかしもう演奏はできず、一つの鍵盤を人差し指でそっと押しては、響く音を愛でるかのように、幸せそうな表情で目を閉じるのだった。 受け持ちではなかったので詳しいことは分からない。ただ、音楽家にとって、向精神薬、特に抗精神病薬は、指の動きや、視覚・聴覚などの感覚に影響が出てしまい、とても飲みたくないものだったのか

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                  • 平和のためにできること

                    小5長女「パパ、平和のために何ができるの?」 「ん? どうした急に?」 「宿題」 あ、宿題か。 何もできない、とは言えないな……。 私「平和のためにねぇ……」 「そう、ロシアで戦争あってるんでしょ」 「よく知ってるね。じゃ、戦争に対して何ができそう?」 「分かんない」 「だよね。えっと、長女ちゃんには戦争を止められるかな?」 「むり」 「そうだね。戦争で困っている誰かを助けに行くのは?」 「行けない」 「じゃ、戦争について勉強するのはどうだろう?」

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                    • 妻と母と私のこの10年、あるいは未来のいつの日か

                      妻と私の母の仲が悪く、いわゆる嫁姑の関係が私の人生における唯一の、そしてひどく大きなストレスだった。 妻と二人で母の話題になるとき、妻は「お義母さん」ではなく〇〇さんと名前で呼んだ。そのよそよそしさが嫌だった。でも、それを妻に嫌とも言えないのが私の弱さで、そのせいでストレスはさらに深まった。 いっそのこと母が病気か事故で死んでくれたら、この強いストレスから逃れられるのではないか……と思ったことさえ、数えきれないくらいある。それほどに、無力感と虚無感と腹立たしさと苛立ちとが

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                      • 自宅を訪ねてきた患者さんの思い出

                        僻地勤務時代、どこで知ったのか、ある男性患者さんが私の不在時に自宅を訪れ、農作物や海産物を妻に手渡して帰るということがあった。 当時は戸惑い、少し不快にもなった。住所を教えてもいない患者さんが家を訪ねてくるのを喜ぶ精神科医は少なかろう。 しかし、今なら、なんとなくだが、その人の気持ちが分かる。 充分に社会常識のある人だったので、その人も医師の自宅を訪問することが常識的な振る舞いでないことは分かっていたはずだ。 それでもなお、そうせざるをえないくらい、その人が心細くてし

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                        • 妻との「会話」で反省したこと

                          小2次女が学校に行かないというときは、自分で学校に電話させている。 挨拶、学年、クラス、名前を告げ、「今日はオンラインにします」と伝えるのだが、電話に出た先生から「分かりました、ではお父さんかお母さんにかわってください」と言われる。 これに対して、妻が「面倒くさいよね」とグチった。 それでつい、こう返してしまった。 「公衆電話から休むって電話する子がいるかもしれないからね。そうなると、親は登校したと思ってる、学校は家にいると思ってる、でも本人は街に出かけて遊んでる、なんて

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                          • 自殺願望を語る人に何をどう伝えるか

                            数年前、ある人が外来で自殺願望を語った。 そこで、こんなことを話した。  これに同意が得られたので、とりあえずの危機は去った。 もしも、そんな約束はできないと言われていたらどうしたか。 それは分からない。 やっぱりそのときは必死になって頭を悩ませるだろうし、なにか見つかっていたはずだ。現場には、そういう力がある。 逆に、遠目で冷静にああでもないこうでもないと考えても、きっと大したものは出ない。 その人と築いてきた関係があるからこその「こちらの頭の中の開示」で、こ

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                            • 登校しぶりの小2次女のために「したこと」と「しないよう心がけたこと」

                              小2次女の登校しぶりが続き、どうしたものかと考えてあれこれ試した。今のところニコニコ登校が続いているが、まだまだ油断はしていない。とはいえ、「したこと」「しないよう心がけたこと」について、ここで共有しておけば、同じ悩みを抱える誰かの参考になるかもしれない。 対応の基本として考えたこと。 ・無難である ・費用がかからない ・継続できる ・やめやすい これらを満たすのは、そう多くない。我が家の場合、中心となるのは「Alexaで次女が好きな音楽をかける」だった。yoasobi

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                              • コロナが奪った「評価ツールとしての面会」

                                コロナ前、興奮する高齢者を入院させた場合、家族は時々の面会を通じて変化を「少しずつ」感じとり、その都度、「これなら家でみれるか」を検討できた。 コロナ禍は、この家族面会の機会を奪った。 患者さんは入院時から少しずつ変化しているが、しばらくぶりに会う家族にすれば「激変」である。 「ここまで大人しくさせられるとは思わなかった」 「こんなに進行するなんて……」 そういう不安や不満を口にされる。 治療に期待するものは、家族により様々だ。適宜の面会で「まだ怒りっぽい」「そろそ

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                                • “It's not your fault.” 酒と過去から解放されるまで

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                                  • 子どもの夜間の腹痛で考えたこと

                                    22時の寝る直前、小2次女が腹痛を訴え泣き出した。小児科は素人なりに医師スイッチをオン。 問診、視診、聴診、触診。 心窩部からMcBurney点にかけて圧痛……、 え? 虫垂炎? 病院受診を検討しながらお腹をさすると、それだけでだいぶ緩和されるみたい。重篤感もないし、経過をみることに。そうと決まれば、医師スイッチはいったんオフ。 かわりにパパスイッチをオンにして、「手当て」に集中。 お腹をさすると安心するのか、スヤスヤと寝始めた。私も一緒にリビングで横になり、お腹

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