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夏だから、怖い話を

ある若い男性が、通勤途中にあるマンションの上階から外を眺める女性に気がついた。
毎朝毎夕、彼女は外を眺めている。
もしかすると、僕の通勤帰宅に合わせてる……?
今日も、こっちを見ている。
さっき、手を振られたような気もする。

そう考えた彼は仕事帰りに部屋を訪ねてみたが、呼び鈴を押しても誰も出てこない。
そして、部屋からは、かすかに異臭が漏れてくる。

彼はハッと気づいた。

マンションの上階にいる人の姿が地上から見えるなんておかしいじゃないか。

踏み台に乗っているのならまだしも……。
あるいは首を……天井からぶら下がって……。

そう気づいた彼はすぐに警察へ通報した。

やはり女性は首を吊っており、亡くなってからだいぶ経っていたようだ。
あのとき、手を振られたような気がしたのに……。


この話をしてくれた友人は、最後にこう言っていた。


これね、女性が首を吊っていたとか、死んでいるはずの人が手を振ったとか、そういうのが怖いって話じゃないんだ。

考えてもみてくれよ。
怖いのはさ……。

通勤途中にあるマンションで、たまたま朝夕に見かけるというだけの理由で、女性が自分に思いを寄せていると思い込んで部屋を訪ねる、その男の思考と行動だよ……。

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