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地球の裏側へ|世界遺産の至宝ペルー・マチュピチュに向かって3泊4日標高4,000メートル越えのトレッキングに挑戦

毎年毎年、世界のいたるところで増え続ける「世界遺産」。そして、その数が増えれば増えるほど、さらに注目が高まり世界中からより多くの人を集めるのが、the 世界遺産 of 世界遺産、とでも呼ぶべき限られた場所だろう。そんなひとつが、ペルーのマチュピチュであることに異論は少ないと思う。なにしろ、TBSの長寿番組「世界遺産」の、記念すべき第1回がまさにそのマチュピチュ遺跡だったのだから。


そんなマチュピチュに僕が行ってみたいと思ったのは、子供のときに観たNHKアニメ「太陽の子エステバン」がきっかけなんだけど、共感してくれる人いるかしら? 三つ子の魂百までって言うだけに、当時3歳よりは上だった僕はもうこのアニメに夢中になってしまい、今もその思いを胸に抱えて生きているのだ。アニメの中に出てくる、黄金郷エル・ドラード、ナスカの地上絵と巨大コンドル、そしてマチュピチュという、あまりにもエキゾチックなパワーワードの数々は、子供心を魅了するには十分過ぎるほどであり、主人公の男の子エステバンと、運命の少女シアが、ふたりが別々に持っていたペンダントを合わせて重厚な扉を開くシーンなんて感動で打ち震えたよね、子供ながらに。覚えてます、あの場面?


これが幼心に強烈に焼き付き、将来おおきくなったら絶対にこの土地を訪れるぞと誓ったわけだ。だから、あれから十数年の時を経て、本当にマチュピチュに到達したときには、それこそあの時以来の涙が溢れてくるのを止めることはできなかった。

大学を卒業してサラリーマンになる春、ひょっとするとこれが長期間にわたって海外に行く最後のチャンスになるのかも知れない、そう思った僕がひとり卒業旅行に選んだのがマチュピチュだった。なにしろ、日本から遠いこと、途中ロサンゼルスに立ち寄り、そこからもさらに遠く、ペルーに到着するだけでどっと疲れが出るほどだ。首都リマを歩きながら初めてやってきた南半球の気候や空気に自分の体を馴染ませながら、そしていよいよインカ帝国の拠点クスコに向かった。


クスコは、スペイン植民地時代のコロニアル建築が残り、当時の面影をいまに伝える町並みが印象的だ。広場を中心とした都市計画、荘厳なカテドラル、そして庶民が集う市場があり、現代に歴史が自然と溶け込んでいる。しかし、よくよく観察してみれば、インカ帝国が当時世界でも最先端の石工技術を有していたと言われるように、まさに紙一枚も入る隙間もないほどに、びっしりと、そしてぴったりと積み上げられた石壁がじつに美しい。

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そんな、まだまだ歩いていたいほどの魅力があったクスコだが、僕の目的はまだこの先にある、そう自分を奮い立たせて僕はマチュピチュに向かうのだった。ちなみに、マチュピチュはその景色からアンデスの山奥にあるのは誰の目にも明らかなのだが、標高は2,430メートル程度なのである。もちろん、これでも十分に高地なのだが、じつは意外かも知れないが、標高3,399メートルの街クスコの方がずっと高いところにあるのだ。つまり、マチュピチュへの拠点クスコからは、実は標高をくだって向かっていくという旅路になるのである。

それにしても、クスコは富士山頂上と同じくらいの高さなのである。しかも、首都リマは海岸沿いの街だから、クスコに向けて一気に標高が上がることになり、その結果、クスコでは高山病にかかる人も多いと聞く。実際に僕も、クスコ到着初日は体が重くて歩くとすぐに疲れがでて、こんなときに当時頻発していた首絞め強盗になどあったら、それこそ走って逃げることもできないぞと、気を引き締め直したのを思い出す。


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いよいよマチュピチュに向けて旅立つ日がやってきた。長年夢みたあの場所へ。だから僕は、観光客の大多数が選ぶ電車&バスというルートでいいのかどうか、最後の最後まで悩んでいた。だって俺、エステバンのアニメからどれだけ時間かけてこの日を迎えたと思っているのよ? もう十数年になるのよ。みんな、それくらい待ちに待ってる? じゃないと、電車やバスでさくっと行ってちゃちゃっと帰ってくる、なんて出来るわけないでしょ!

というわけで僕は、インカ帝国の時代から人々が使っていたインカ道を、時間をかけて歩いて向かいたい、という気持ちを強くしていたのだ。だから、そのときの問題は、どうやってその道のりを辿るか、であった。選択肢はふたつ、1つ目はイージーだけれども、クスコ出発の多数ある有料ツアーに参加して、このインカ・トレイルに挑戦すという選択肢。もうひとつは、自分で仲間を見つけ、4日間の食料やトレッキング道具を自分たちで揃えて、自らのプランを実行にうつす、ということだった。

だったら当然、自分で仲間さがしするよね、だって俺、金ないし、だけど時間たっぷりあるし。というわけで、僕はまさにドラクエのように、まずはパーティ集めから始めることにしたのだ。幸いにして、自分が泊まっていた宿にあったメモ帳には、これまでここに泊まった人たちからのメッセージに溢れている。だから僕は、その経験と助言に従い、みずから仲間を募って、最後のダンジョンであるマチュピチュ攻略を目指すことにしたのだ。そして後々僕は気づくのだ、あのとき最高の仲間3人を見つけることができたからこそ、みなで難敵を攻略し、険しい山道を乗り越え、そして目指すラスボスが潜むマチュピチュにたどり着けたのだと。

あの最高峰の世界遺産マチュピチュを前に、足腰がふるえるほどに緊張しながらも、ドラクエのように仲間を集め、同じゴールに向かって徒党を組んだ僕たちの気分は、それこそ天空に昇るようでもあり、だからこそ誰にも負けるはずはない、そういう圧倒的な自信に満ちあふれていたのだ。ただ、その根拠なき自負は、出発直後からこっぱみじんに砕け散ったのだけれども。ドラクエなんかよりずっとレベルが高かった僕らの挑戦と困難は、こうして始まったのだ。つづく。



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