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アンラッキー777(読書記録22)


■舞台は新幹線から高級ホテルへ

前作『マリアビートル』では新幹線という移動する密室の中でアクションや陰謀が張り巡らされていたわけですが、今回は高級ホテルというまたしても閉鎖的な空間が舞台に。
主役の天道虫はただホテルから出たいだけなのに、生来の不幸体質がそれを許さない。
部屋を間違えれば業者に出くわし、エレベーターに乗れば因縁のある業者が乗っていて、不幸な女性に助けを求められ。ただホテルから出ることが、困難な任務へと早変わり。
前作と違ってエレベーターや階段という縦の移動手段が登場したことで、行動範囲が広がってはいますが、敵も味方も防犯カメラの映像を駆使するため、自由なかくれんぼとはならず、比較的すぐ居場所を特定されます。そのため、物語の展開は中だるみせず、一気に突き進んでいきます。

■アンラッキーなのは誰だ

今回の読書記録は伊坂幸太郎著:『777』。
伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ(『グラスホッパー』、『マリアビートル』、『AX』)といえば、魅力的な登場人物、業者たちは避けて通れません。
グラスホッパーの鯨や蝉、押し屋や、マリアビートルの蜜柑と檸檬や、主人公である天道虫、AXの主役、兜。ユニークなコードネームをもつ彼らは、その言動で物語を多彩に染め上げます。

今回の『777』では、『マリアビートル』に引き続いて不運を呼び寄せる特異体質の業者、天道虫こと七尾が主役を務めます。彼の不運ぶりは相変わらずで、子どものお使いのような簡単な仕事がミッションインポッシブルになってしまうのはお約束。しかしその不運を逆手にとって、起こってほしくないことが起こる点から攻め、不意をついて電光石火、相手を仕留めるのは凄いのか何なのか。

他の業者に「マクラとモウフ」、「エド、センゴク、カマクラ、ヘイアン、アスカ、ナラの六人組」、「高良と爽田(コーラとソーダ)」、そして「業者殺し」の異名をもつ謎の人物。

これら多彩な業者たちが入り乱れて、高級ホテルに死体の山が築かれていくことになる。

果たしてアンラッキーだったのは、七尾か、それとも他の誰かか。

■業者、という呼称

暗殺者を業者、と呼称すること、これが私はすごく好きです。業者、という様々な仕事を含んでいそうな包括的な部分と、詳細をぼかすような曖昧さとの塩梅が絶妙だと思います。
私も自分の小説で使ってみたかった……。なので今は、業者に代わる呼称が何かないかなと考えているところです。

業者はみな個性的なのですが、私の中では蜜柑と檸檬を超えてはこなかったなという感じです。『マリアビートル』の中で大暴れした彼らですが、機関車トーマスを愛好していたり、護衛対象の御曹司を殺されてしまって、操り人形のように死体を動かして生きているように見せかけたりと、ユニークな場面が目白押しです。

今回『777』で二人組、として出て来たのは「マクラとモウフ」ですが、二人とも女性で、シーツというおよそ武器になりそうにもないものを使って他の業者を無力化する凄腕でもあります。彼女たちは学生の頃からの知り合いで、小柄ながらバスケットボールに励み、技術を磨いたものの、身長差から試合では使ってもらえず、鬱屈していた者同士出会って、問題に巻き込まれ、否応なく業者になった経歴の持ち主です。顔がよかったり、人生楽に生きていけそうな人をスイスイ人と呼んで、自分たちとは違うと僻んでいます。

この二人が中心になっている物事に関わりそうで、関わってこない。天道虫と六人組の激闘の中になかなか巻き込まれていかない。でも、物語の裏で確実に動いていて、その動きの意味が明かされると、ああ、なるほど、と納得させられてしまいます。「マクラとモウフ」、キャラクターも憎めなくて、いい味が出ているんじゃないかと思いました。

■堅実なアクション

伊坂幸太郎のアクションシーンは、細かいところまで書かれているような気がします。私もアクションシーンを書くとき、体の色々な箇所にフォーカスして、動きを伝えようとするのですが、伊坂幸太郎が書くアクションも、細かいところにまでこだわっているなと思います。

シーツの両端を二人で持ったまま、男に近づく。広げながら迎え撃つように、頭部を含めた上半身を覆う。男はとっさのことに動けない。シーツの端をまたマクラに投げる。受け取ったマクラがすぐにまた端を放ってくるため、受け取る。繰り返しながら、即席でミイラにするかのように男をぐるぐる巻きにする。

『777』より抜粋

この後マクラとモウフは、男の頚骨をへし折る。「梃子の原理に感謝」という決め台詞とともに。

シーツを武器にしても無理なく成立するようにアクションシーンが描かれています。映像で容易に頭に浮かびます。

その他アクションの見どころとしては、やはり天道虫の格闘シーンでしょうか。彼の行くところ死体の山が築かれる……。

■感想

『マリアビートル』を読んだ方にとっては、再び天道虫の活躍が見られる、とあって面白く読めると思います。それ以外にもちょこっと『マリアビートル』の内容に触れるところもあるので。他のシリーズは読んでいなくても、あまり触れられないので大丈夫です。
もちろん、この作品から入っても楽しんで読めます。が、お勧めはやはり『マリアビートル』から読んでいただくことでしょうか。

なお、『グラスホッパー』は邦画で、『マリアビートル』はハリウッドで『ブレットトレイン』として映像化されていますが、映像作品よりも先に原作の方を手に取っていただいた方がいいかなと思います。

『777』もいつか映画化されそうですね……。

伊坂幸太郎特有の軽妙な会話に、息もつかせぬアクションが魅力の『777』、ご興味がありましたら、ぜひご一読を。

結びに、七尾も繰り返し呟いたこの言葉を。

リンゴはリンゴになればいい。バラの花と比べてどうする。

『777』、爽田と高良の会話より


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