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城塚翡翠は霊媒師か探偵か(読書記録24)


■霊媒探偵って、霊媒と探偵は別なの?

 今回の読書記録は相沢沙呼著:『霊媒探偵 城塚翡翠 medium』です。
 興味はあったのですが、これまで手を出せていなかったので、ようやく手に取ったか、という感じです。ドラマ化、とか映画化、となってしまうと読む気がしゅんと萎えてしまうところがあって。映像を先に見てしまうと、自分の中で作られるはずの映像、この作品では城塚翡翠像が、役者さんで固定されてしまうというか……。それを避けるためには話題作は常に先んじて読むようにしないとならず、読書ペースが追いつきません。

 この『霊媒探偵 城塚翡翠medium』は推理作家香月史郎が霊媒師城塚翡翠と出会うところから始まり、この二人がコンビを組んで様々な難事件を霊媒の力と推理の力を使って解決していく物語です。

 読み始めてその構図を知ってすぐ、私は「うん? 霊媒探偵って、霊媒と探偵は別人が担うのか」と少々の驚きと興ざめな感想を抱いたのですが、最後まで読んでみて、ああ、なるほどな、と思わせられる仕掛けとなっておりました。

 後は城塚翡翠が深窓の令嬢めいた雰囲気で、女性の作家には珍しく、男性作家が理想の女の子、を描いたような感じがあってあまり好きではなかったのです。それも最後まで読んでみて、「ああ、やっぱりそうだよな!」と腑に落ちて、城塚翡翠への気持ちの悪さのようなものは払拭されたので一安心でした。

 ミステリ、ということでネタバレは避けながら感想、という難しい形ですが、実力派エッセイストの霊でも降霊して執筆することにでもしてみます。

■ミス・ディレクション

第1話 泣き女の殺人
第2話  水鏡荘の殺人
第3話 女子高生連続絞殺事件
最終話 VSエリミネーター

 上記4話構成になっています。それぞれの話の間にはインタルードが差し込まれ、物語冒頭から、世間を賑わせていると語られる、連続殺人鬼と思しき人物の短い描写が描かれます。

 第1話から、どこかオカルトチックな香りがするタイトルです。2話以降はミステリにありがちな、というか定番のタイトルのようなものなので、読者を心霊の世界に誘うには「泣き女」という怪異の存在はうってつけだったと思います。

 余談ですが、作者の相沢沙呼さんはアマチュアのマジシャンでもあるそうです。マジシャンのテクニックは、いかに人の心理の空白をつくか、というところにあると思います。その空白をつかれたとき、人は見えているはずのものであっても見えていないということが起こりえるのです。
 たとえば、あなたは今日会った同僚や上司がどんな腕時計をしていたか、そもそも腕時計をしていたかどうか、覚えていますか?
 これが、見ているはずなのに見えていなかったという事象です。マジシャンはこれを巧みに操ります。観客が引いたカードをぴたりと当てるのも、コインが手の中で増えていくのも、人間の常識という思い込みの盲点をついたものなのです。

 そうした観点からこの作品を読むと、また違った楽しさがあるかもしれませんね?

 それぞれの事件の解説はとくにしません。お読みいただく楽しみを削いではいけないので、どうぞお手に取ってみてください、ということだけ。

 さて、翡翠はその力で冒頭から話題に上がっている連続殺人鬼と「VSエリミネーター」で決戦となるわけですが、か弱い彼女はいかにして凶悪な殺人鬼との戦いに勝利を収めるのか、必見です。

 ご安心を。私の小説のように凄腕の女暗殺者が登場して、連続殺人鬼を蹴散らしてしまう、などという安易な展開は描かれませんので、どうかこの一冊で超常の力と、それに比肩する推理の力を存分にお楽しみください。

■あなたなら、わかってくれるかなって、そう思って

 上記の見出しは、ある事件の殺人犯が、推理作家香月史郎に向けて言った一言です。私はこの言葉が、この作品の仕掛けの根底にあると感じました。
 なぜ、殺人事件を数多見てきている刑事ではだめなのか。
 なぜ、霊媒師城塚翡翠ではだめなのか。
 なぜ、推理作家香月史郎だけだったのか。
 読み終えてすべてを理解したとき、この一言に立ち戻って考えると、うすら寒くなるものがあります。

 それでは、一観客に過ぎない私は口を噤むこととしましょう。
 ぜひ、城塚翡翠のステージを、ご堪能あれ。


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