成瀬という衝撃(読書記録7)
■読むに至ったキッカケ
タイトルと表紙で、まず手を出さないな、という作品ですかね。タイトルはそれなりに印象的ですが、ピンとくるものがないというか。
ただ、X(旧Twitter)を見ていると次々と絶賛する読了ポストが流れてくるので、ほうほう、そんなに面白いのか、とまんまと興味をそそられまして。
図書館でたまたま見かけたので借りて読んでみようと思って手に取りました。
読む前は、タイトルと前評判から、成瀬という女の子が作中で縦横無尽、八面六臂の大活躍をする話だと思ってました。読了ポストや続編の広告を見るに、ご当地ネタも多いのかなという印象で。
ぱらぱらと目次を見て連作短編っぽいなーっとは思って、ただページ数がどの話も短めなので、これは、と思ったのです。
■主な登場人物
〇成瀬あかり 作品を貫く中心人物。最後の短編だけ彼女が主体です。三人称なので語り手ではないので、彼女が語り手になる話は基本的にありません。設定上はやたらすごい女の子。
〇島崎みゆき 成瀬に巻き込まれる人その1。幼馴染ということもあってか、成瀬のことをよく理解している。なんだかんだ好きで巻き込まれている節がある。
〇大貫かえで 成瀬に巻き込まれる人その2。島崎とは違い、成瀬に巻き込まれることを嫌がっている。高校デビューに失敗し、東大を目指すようになる。
〇西浦航一郎 成瀬に引き寄せられた人。かるた部で広島県代表高校の一員。大会で成瀬を見かけて気になる存在になり、友人の助けを得て声をかける。
■ストーリー
連作短編なので、一話一話で話が完結します。西武の閉店にまつわる、成瀬の奇行に始まり、M1グランプリを目指して島崎と漫才を始めると、後半の短編で街のお祭りの司会を任されたりとか、前の話が繋がってくる部分はあります。以下が短編の一覧です。
〇ありがとう西武大津店
西武大津店の閉店に伴って、びわテレビが毎日西武を撮影すると知った成瀬は、毎日所定の位置でテレビに映るという奇行を始める。
〇膳所から来ました
突如としてM1グランプリに出場し、お笑いの頂点を取ると宣言した成瀬は、島崎を巻き込んで漫才を始める。
〇階段は走らない
成瀬がほぼ出ない短編。西武の閉店にまつわる人々の悲喜こもごも。
〇線がつながる
語り手を大貫かえでに変えて、成瀬の高校生活を描く。大貫は成瀬に会いたくないが、班活動見学や大学見学と、尽く遭遇する。
〇レッツゴーミシガン
かるたの全国大会で変わったフォームでかるたをとる成瀬を見かけた西浦は、彼女のことが気になり、声をかけて、束の間交流する。
〇ときめき江州音頭
大学受験を控えた成瀬は、ある日島崎から引っ越す話を打ち明けられ、ショックを受け、何も手につかなくなり、やることなすことうまくいかなくなる。
■感想
うーん、なんというか、読書に慣れてない中高生が読むにはいいきっかけになる本なのかなとは思ったのですが。
文章自体が平易な文章ばかりでしたし、難しい比喩表現なんかもまったくありません、ので、読みやすいと言えば読みやすいですよ。
でも、大学の頃も言われました。作家兼教授の先生に。「読みやすい作品がいい作品とは限らない」と。
読みやすさを重視するなら、明治期の文豪の作品なんか紙屑扱い(すみません)ですよね。尾崎紅葉とか絢爛で流麗な美しい文章ですけれども、読むには大変な苦労を伴う、読みにくい文章です。
小説って、作品の中に読者が「え?」でも「お!」でもいいですけど、引っかかるものが必要なんです。作家さんによってはその引っかかるものをフックと呼んだりしますね。
読みやすい作品で、流れるように読み終わってしまうものって、そのフックがないんです。流れて終わって、何も残らない。
成瀬ってフックになる文章がないんです。地の文でも、セリフでも。読みやすさを重視して地の文を平易なものにするのは百歩譲っていいとして、「成瀬」というキャラクターを押し出していきたいのならば、彼女にフックになるセリフを言わせる、言わせる展開を散りばめる。それが必要だったと思うんです。
それから、私にはこの作品で作者が本当に言いたかったことって何だろうということが、分かりませんでした。
ご当地ネタで、地元愛を推していきたいのか、成瀬という個性的なキャラクターを読ませたいのか。
どちらだったとしても、中途半端じゃないかなという印象が拭えないのです。
成瀬は設定上はいかにも凄そうな女の子として書かれてますけど、実際はちょっと変わった、優秀な女の子です。単に。まあ、その辺にでもいるんじゃないかなという。爆発するような、ヒロイックな個性というものは作品からは読み取れず。
じゃあ成瀬を取り巻く人たちの心情を描いているかというと、特に心理描写に長けた部分もないので、それも違うのだろうと。
これでいいんだ、このありふれた感がいいんだ、と主張されてしまうと、こちらとしては「そうですか~」と愛想笑いで後ずさるしかなくなるんですが、どうなんでしょうかね。Xなんかで絶賛されているところを見ると、これぐらいの方が受け入れられやすいってことなんでしょうかね。
私としては、豚汁だよ、と出されたけれど、だしの味もしなければ、汁も水でのばしたように薄い、あまつさえ豚肉が入ってない、豚汁に似た「何か」を食べたような気分です。
■結びに
ここまでつらつらと書いてきましたが、一個人の感想でして、成瀬が好きな方の否定をするものではありませんので、ご留意ください。
なるべく、客観的に読んだつもりではありますが。
個人的には、成瀬というキャラクターにはもっとぶっとんでいてほしかったです。「天下を取りにいく」というタイトルが霞まないよう、突出した、際立ったキャラクターであるべきだったと思うのです。誰もがもつ凡庸性など振り切った人物造詣ならよかったのにと思います。
私にとって「成瀬という衝撃」はあまりにも弱く、期待してたほどのインパクトがないものでした。残念ながら。
次はまた別の読書記録でお会いしましょう。
それでは、成瀬が天下をとれるようなキャラクターになることを祈りつつ。
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