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6.思い出のパン屋

昔住んでいた家の近くのスーパーにあったパン屋さん。
小さいお店だったが、私が小学生だった当時はとても賑わっていた。

特に大好きだったパンが2つある。
カンパーニュとマフィン。
楕円形の香ばしいカンパーニュにはレーズンやクリームチーズがたっぷり。初めてのハードパンだったと思う。
噛みごたえがあって大きいが、まるまるペロッといけてしまう。
銀紙に包まれたマフィンは、素朴で優しい甘さが口いっぱいに広がって、何度食べても飽きなかった。

大人になってから、美味しいパン屋さんにはたくさん訪れたけれど、あの味が恋しいと思うことがある。

少し前に、久しぶりにそのパン屋を訪れた。
時間帯かもしれないが、閑散としていて種類も少なく、昔のような活気はなかった。
しかし私のお目当て、カンパーニュとマフィンはそこに変わらず並んでいた。
すぐさま手に取ってレジへ向かう。

自転車のカゴにパンを乗せて、実家までの坂道を登る。その日は晴れていて、気持ちのいい日だった。
昔の記憶を、たくさん思い出した。

お母さんに連れられて買い物に行ったこと。
小学校、中学校の通学路、
自販機で買ったサイダーを振って爆発させたこと。
わいわい恋バナをしながら歩いたこと。
友達関係に悩み泣きながら帰ったこと。
散歩中の犬たちと戯れたこと。
雪の日に友達と手を繋いで坂を登ったこと。
ケサランパサランを捕まえるのに必死だったこと。
この道を通って、こんなことを思っていたなぁと、意外と色々と覚えていた。

楽しかった思い出も、苦い思い出もすべてまるめて、
このパンと一緒にパクっと食べてしまおう。

そんなことを思いながら、美味しい2つのパンは、
たっぷりの紅茶と一緒に私の胃袋へ吸い込まれた。

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