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千切れる

つい先日旅行に行ってきた。
一人旅というやつで、カメラだけは持ってきた。
昼間は海辺の街をぶらぶらして、商店街の猫に驚かされたり、昔ながらのクリーニング屋さんの前を撮ってみたり、同じ向きの木を眺めながらご飯を食べた。
ホテルに着いて、温泉に入ってから、少しビールを飲んだ。ほろ酔いで、外の空気に触れたくなって、外に出た。
私は、ここの屋上にあがったら綺麗な夜景は広がっていないでくれと心の底から願いながら階段をあがった。
もし、海の上に光が点在して私の目の悪さが善と出てボヤけていい感じに溶け合って重なっていたら、この景色を一緒に見たい、見せたいのはまだあの人だと言うことを知っていた。
意に沿ってくれて、景色は大してよくなかった。
明日の雨が功を奏して、星もなかった。
安堵してから悲しくなった。
悲しくなったから私は階段を駆け降りた。もっと早く足が動いたらいいのに。
心は逸るけど、頭がついていってなかったから、ベッドについて眠る時に目の奥がじーんとした。
最後にみた海は、荒れていたと思う。
岩間から激しく飛沫が上がってどーんと大きな地鳴りをしていた。
私はカメラを撮るのが上手くなかったから、いつも彼に任せている。
私はサンダルだったからあまり遠くまで歩きたくなかったけど、彼がどんどん進むから仕方なく着いていった。
空飛ぶカモメが私を見下ろしていたと思うけど、留まったカモメしか私は見なかった。
帰りの車で、潮風をもう一回感じた。
風に靡く髪が口に入って、しょっぱく感じた。
風はもう冷たかった。
ちょうど1年前のことを走馬灯みたいに思い出して、センチメンタルになった。
夢を見た。
坂道を駆け上がる、2人で競走だと言って駆け上がる。私はスカートだったけど精一杯走る。彼はゴールで待っていて私を抱きしめる。優しい力で、愛おしい匂いで。
2人で手を繋いで帰っているのを、俯瞰的に見る夢を見た。
私もこんな風に俯瞰で見れていたら今こんなに辛くないのに、なんて思って起きた。
無理矢理におはようと言ってカーテンを開けて、仕事に行く。
彼は今日も別の女を抱いている。

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