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騙し、騙され -その14 奇術師と子ども編-

前回までのあらすじ

遠く離れる事を余儀なくされる二人。アメリカへ旅立つ幸子。イギリスへ旅立つ和夫。インドへ旅立つチャンドラバブ。ロシアへ旅立つペトローヴィチ。南アフリカへ旅立つシヤボンガ・ノムヴェテ。ベネズエラに旅立つウゴ・ラファエル・チャベス・フリアス。古代ローマ帝国第16代皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌス。この二人を待ち受ける運命は。

-奇術師と子ども編-

ここまでこのシリーズを一つでも読んでくださった方はお気づきだろうが、私は相手から発せられる「人を騙そう」とする怪しいオーラには割と敏感に反応できると自負している。
スピ系の話ではない。
ただ、感覚的に感じるものがあるのだ。

とにかく騙されるという事を忌み嫌い、拒絶するのが私の性向である。
だが、私は「あえて」騙されることもある。

話は小学1,2年生のころに遡る。
日曜日の夕方には家族で大きめなスーパーに行くことが多かった。
今でいうモールのような感じで、スーパーだけでなくレストラン街、本屋、おもちゃ売り場などもある小型デパートのような造りだった。
大抵私は本屋で立ち読みなどをして時間をつぶし、その間に両親はスーパーで買い物、一時間もすれば親が迎えに来て、その後食事をして帰るという流れだ。
今考えれば、小学生の子どもを一人で放置できるくらいには平和な場所だったのだろう。

そのスーパーには、本屋とおもちゃ売り場が同じフロアにあった。
親とは本屋での待ち合わせなので、買い物が終わるであろう時間帯には本屋に戻るのだが、本の立ち読みの合間におもちゃ売り場を見ることも楽しみだった。
その日もいつものようにおもちゃ売り場を物色していた。
すると後ろから呼んでいるような声がする。
振り返ると狭いカウンターの中に男性がいた。
彼は言った。

「手品を見ていかない?」

普段あまり見ることのなかった一角に手品用品がいくつも置かれていた。
そのカウンターの中にいる男性。

そうか、この人は手品を見せる仕事の人なのか。
しかし、周りには週末だというのに人気がなく、大人はおろか私以外子どもも一人もいない。
見る人がいないと、この人の仕事がなくなって可哀想だから見てあげよう。

やや上から目線な感じもするが、相手を気遣うことができる優しいお子様だった私は親切心からこの奇術師の手品を「見てあげる」ことにした。

奇術師はトランプを取り出しシャッフルし始めた。
トランプマジックだ。
トランプの山の中から一枚好きなカードを選び、自分だけが見て、誰にも見せず再びカードの山の中に戻すように指示される。
きっと、このトランプを当ててくれるのだろう。
自分がやってもらうのは初めてなので少しドキドキしていた。

「ちゃんと覚えたね?」

私は頷く。
私が戻したカードの山をシャッフルする奇術師。
シャッフルが終わった。
いよいよだ。

「君の選んだカードはこれかな?」

奇術師は私に一枚のカードを見せた。

………違う。

私が選んだカードとは数字もマークも色までも違うカードを差し出された。
私は、どういうことだろうと小さな頭をフル回転させて考えた。

おじさん、失敗しちゃったのかな。そもそもこんなスーパーのおもちゃ売り場にいるくらいだから、テレビの手品師みたいに毎回成功するほど上手ではないのかもしれない。でも、違いますってはっきり言ったらかわいそうかな。このおじさん、お仕事クビになっちゃうかも。そうなったら僕の責任だ…

私は一生懸命考えた。
そして答えた。

「そうです。そのカードです。」

良い事をした私は誇らしい気持ちだった。
手品を成功させ得意げな顔になる奇術師を想像していたのだが、私の思っていた反応と違っていた。

「え?え?違うよね?君が選んだのはこのカードじゃないよね?」

ん?
私は混乱した。
確かに違う。そのカードではない。

奇術師は慌てふためいた様子で差し出したカードを山の中に戻し、シャッフルする。
そして一番上に来たカードを差し出してきた。

「君が選んだのはこのカードだよね?これだよね?」

そうだ、その通りだ。
私が最初に選んだのはこのカードだ。
私は答えた。

「そうです」

「そうだよね!これだよね!」

ここで気づいた。
最初失敗したように見せかけ、その後で成功させるやつだ。
こんなやり取りをテレビで見たことがあった事を思い出した。
この方は、そんな高度なテクニックを使える奇術師だったのか。

いや待て。
これでは、私は自分の選んだたった一枚のカードすら覚えていられないただのアホの子だと思われているのではないか。
奇術師は、私が選んだカードをまだ手にしていた。

自分の付いた「優しいウソ」は自分の考えとは反対に相手を不安にさせ、自分に不利な立場をもたらした。
私は居心地が悪くなり、その場を走って立ち去った。

それ以来、私は二度とその手品コーナーに近づくことはなかったが、奇術師が自信をなくしてあのカウンターに立つことを辞めてしまってはいないかとそれだけが心配でならない。

まとめ

人を騙したり、騙されたり、「あえて」でも騙されたりするのはいずれも良い結果にはならない。
「優しいウソ」とか「嘘も方便」などと言うが、やはり嘘は良くないのである。

最後に

ここまで読んでくださってありがとうございました。
自分の中での軸になる考えの一つをこのようにして書き出す事ができてすっきりしています。
このシリーズは一旦ここで一区切りにします。

先生の次回作にご期待ください。
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