繊維貿易で栄えた街で出会ったテキスタイルたち🇮🇹
イタリア北部の街、ボルツァーノ。
クリスマスマーケットの街としてご存じの方もいると思います!
今回はここで開かれたテキスタイルの重要なイベント、" Festival Textile Manufactur"を訪れました!
1.ボルツァーノってどんな街?
(1)ドイツ語とイタリア語が飛び交う街
オーストリアの領地であったことや、現在とは異なりイタリア語話者よりもドイツ語話者が多かった過去を経験した地。
そのため、街で見かけた表記はどれもドイツ語とイタリア語の二言語表記。
店員さんたちがドイツ語で話しているレストランがあったり、建物や食べ物がオーストリアの影響を強く受けているのかなと感じたり…
イタリアにいるのかな?と不思議な気持ちになる興味深い街!
(2)○○貿易の中心地だった街
そういえば、なぜボルツァーノでテキスタイルのイベントが開かれるのか?
その理由は、この街が果たしてきた国際繊維貿易の中心地としての機能にありました。
まず、中欧経済において、繊維製品の貿易は最も重要な事業分野のひとつでした。
その貿易においてボルツァーノの見本市が担っていたのは、北と南を結ぶ仲介者の役割。
13世紀初頭には外国人繊維商人の拠点に。
16世紀末にはロヴェレートやヴェローナといった街の商人たちにとって、国際ビジネスの基盤になっていきました。
15世紀には中央ヨーロッパ市場に限りなく効率よく供給するための橋頭堡として機能し、ボルツァーノの見本市は国際繊維貿易の中心として重要視されるように。
そして1636年。クラウディア·デ·メディチ(*1) がボルツァーノの見本市に見本市の管轄権を与えたことで、ボルツァーノの貿易拠点としての魅力は増していきました。
*1 クラウディア・デ・メディチ:オーストリア大公レオポルト5世の妃。
2. いざ、テキスタイルのイベントへ!
会場はお城!快晴で最高の景色を見て、今回の旅はスタート!
会場に入ると、まずは織物に使用される様々な素材がお出迎えしてくれました。
3.手織りのケビンさん from オーストリア🇦🇹
小さいバージョンのジャガード織機…?と気になって見つめていると、話しかけてくださったのがケビンさん。
(1) ケビンさんと織物
ジャガードよりも小さい織機を使用されている、手織りの職人さん。
ケビンさんは、まずスコットランドでテキスタイルの学校に通われたそう。
ただ、そこではしっかり技術を学んだと感じられなかった。
そこで、オーストリアに移住後、2014年から再び2年学校に通い、2016年からプロの手織り職人に。
学校での2年は、難易度の低い技術から順番に習得。
例えば、裏表両面織る方法は難しいので、学校では最後の方に学ぶ。
学校で学んだ後、さらに2年は特別な技術を学んだそう。
(2) 道具について
紙に書いてあったのは、踏む順番。
一番手前が1、一番奥が2、手前から2番目が3、奥から2番目が4、、、
というふうに番号が振られているそう。
(3) 織りについて
デザインは、見る方向によって見え方が違い、いろんな方向に柄が交差している。
光によって揺らめいて見えるところが素敵。
織りの技術は、マリアンさんというオランダの織物職人さんが発明した技術を発展させたもの。
オンラインでのミーティングと、彼女の本を通して技術を学ばれたそう。
オンラインで技術を学ぶって今どき!
オンラインを通じて世界の同業種の作り手が知り合い、言語の問題などなければ知識をシェアできるってすごいことだな!と思いました👀✨
(4)オーストリアの工芸事情
オーストリアの工芸産業においては、セラミックが一番盛ん。
800人くらい作り手の方がいるそう。
ただ、工芸産業はそんなに盛んというわけではない。
作り手も多くなく、若い人がいない。
例えば、手織り職人さんは7,8人しかおらず、みんな50代以上。
また、オーストリアでは陶器や手織りに特化した学校はそれぞれ一つずつしかないそう。
4.パターンデザイナーのRuthさんfrom オーストリア🇦🇹
素敵なデザインのスカーフに見とれていると、話かけてくださったのが、
Musterstudio の Ruthさん。
オーストリアのウィーンを拠点に活動されています。
パターンデザイン、機織り、手編みなどさまざまな技術を学校で勉強。
その後パターンデザインをメインのお仕事に。
デザインをいろんなところに売ったり、バッグのベルト、レザーバッグ、パターンのデザインなどをされたり。
デジタルデザインのため、一度デザインした柄を繰り返すことで大きなテキスタイルのデザインを作ったり。
繰り返す時に、それぞれのデザインの境界線がわからないようにデザインするのは、デザイナーの腕の魅せどころ…!
そして同じデザインのものは1点、多くても2点しかないユニークなものを作られているそう。
5.手編み作家さん from ドイツ🇩🇪
つづいてお話を伺ったのは、Strick Rauschというドイツの手編み作家さんのコミュニティ。
Gabriele Klugeさんが、発明された手編みの技術を生徒さんたちにシェア。
生徒さんたちは練習を重ね、教わったベースを基に技術を発展させ、自分のスタイルを確立していくんだとか。
レクチャーは基本ドイツを拠点に対面で行われているそう。
ただ、興味深かったのは、オンラインでもレクチャーが行われていること。
お城の南米のチリから参加されている生徒さんもいるそうです..!
また、お話をしてくださった女性は、夜の2時間を使って少しづつ製作されているとのこと。
お仕事とは別で、ものづくりに夢中になれる時間が日々の中にある人生って素敵だなと思いました…!
お城の中を回りながら、テキスタイルに関わる出展者さんのブースを拝見しました
6.イベントでの気づき: 〇〇での知識共有
今回イベントを訪れた中で一番興味深く、そして驚いたことは、
”オンラインでの知識共有”。
なぜ驚いたかというと、織り方や編み方の技術をオンラインで伝えられるとは思ってもみなかったから。
たとえzoomなどを通して実際に織っている様子を伝えることができたとしても、対面で同じ場にいないため、教える側は教えられる側の手を動かして教えることはできない。
つまり、オンラインでは対面と比べて伝えきれない部分が生じてくるのでは?
その分、言葉で伝えることで補完する必要があるのではないかと思いました。
ここで、思い出したのが野中郁次郎さんのSECIモデル。
SECIモデルを活用して考えてみる…
SECIモデルとは、
つまりこのモデルは、組織内での知識の共有方法について。
なので、オランダの手織り職人さんとケビンさん、そしてドイツの編み物の先生と生徒さんというそれぞれの関係とは状況が違うかもしれない。
ただ、このモデルの考え方を少し活用することはできるかもしれないと思いました。
例えば、かぎ針編みの技術は、練習を重ねることで感覚やコツを掴んで身につけることができるもの。
つまり、個々人の経験やそれを基にしたコツや勘をによる、他者への説明が難しく、説明するために時間や別の知識などを要する知識である、暗黙知。
対面で同じ場にいるとすれば、生徒はかぎ針編みの先生の作業工程を観察・模倣することで、技術や知識を身につけることができます。これは、映像などを通してオンラインで伝えることもできるかもしれません。
いずれの方法にせよ、共体験させることで勘や感覚など(暗黙知)を他者と共有している、ということになります。
ただ、もしこの勘や感覚といった主観的な知識を、図や文章にして客観的かつ論理的に他者に伝えることができるとしたら…?
このように、図や文章で示すことで形式化した知識を形式知といいます。
オランダの手織り職人さんが、彼女の技術を本にまとめたことで、オーストリアで手織り職人をされているケビンさんに、その知識が共有可能になった。
また、ケビンさんは彼女から学んだ形式知をご自身でさらに発展させて、新たな技術(暗黙知)を生み出している。
つまり、暗黙知を形式知へと変換することで、その知識の共有範囲は格段に広くなり、共有された知識がさらに新たな知識を生み出す可能性を持っていることが窺えます。
そして、もしその時言語の問題が生じなければ、ある人の知識が国を超えて共有可能になるのでは….?
こうやってオンライン上の繋がりを通して、世界のどこかにいる職人さんの技術が、国を超えて職人さんに伝わり、また新たな技術が生み出されていく…..
そう考えると、オンラインでの知識共有の可能性は未知数だなと思いました!
ふと関連させて考えてみたので、SECIモデルと工芸における知識共有の関係についてはもう少し深く考えてみようと思います…!
お話をしてくださった皆さんありがとうございました!
日本語の記事なのできっとこの感謝の気持ちは伝わらないだろうけど!
次回の工芸旅もお楽しみにー!それではまた!
25/03/2023@Bolzano, Italy