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アメリカロードトリップ#2/時をかけるHONDA


ニュージャージーの朝

今日は、朝6時半に起きて7時に出発。のはずが、眠すぎて6時50分まで快眠をかました。やべえと思って起き上がると、友達が車から水を持ってきてくれた。その時飲んだ水がこれまでで一番美味かった。

ロードトリップ中のDJ事情

出発した車内は、なんだかちょっと眠気を引きずっているような感じだった。ロードトリップのDJって難しい。相手のムードを見ながらかけないと、うるさすぎたり静かすぎたりしてしまう。今日の昼まではなんだか運転手の子のエネルギーレベルが低めだったみたいで、アップテンポな音楽をかけたらいいのか、それともリラックスめをかけたら良いのか、それとも消した方がいいのか。すごく悩んでいたら、わたしが寝てしまっていた。ごめん。日本では助手席に乗った人が寝ちゃうの、運転手の人に失礼って感じでちょっとタブーな気がするんだけど、友達は気にしないと言っていた。その言葉を思い出しながら、うつらうつらしていたら、本当に目を閉じて気づいたら首を直角にして気を失っていた(らしい)。今日は本当は会いたい人がいて、核兵器の放射能の生物学的研究の第一人者のメアリー・オルソンさんなんだけど、彼女はあいにく町にいないということがわかったので、行き先を変更してニューオリンズへ向かった。道中で、友達がとても良かった、と言っていたジャズバーを紹介してもらった。

本日最初に寄ったのは、ニュージャージーのオフィスビルの中にあるカフェ。そこでエッグチーズサンドイッチを買った。コーヒーも欲しかったけど、トイレに行きたくなるのが怖くてやめた(後から思えば、こんなに眠気との戦いになるのなら買えばよかった)。友達は同じようなカフェでシェフとして働いているんだけど、その子が一人で回す規模を5人とかで回してるのを見て、ちょっと不服そうだった。どんどん西へ向かう。”Slow Down, Bad Drivers Ahead(速度を落として、下手な運転手が前にいる)”という道路のサインに笑ってしまった。車の免許を持たずに生きてきたからあんまり感じたことなかったんだけど、車の運転ってさ、止まったらぶつかるじゃん、だから走り続けるしかない。これって正直恐怖だなと思った。右側にある緊急停止レーンが、セーフティーネットのように感じた。天気が変わりやすくて、気づいたら大雨になっていた。ビシャビシャとフロントガラスに雨が当たり、前が見えない。前のトラックの明かりが道標だった。「ダブリン」「スコットランド」という地名がここら辺にあるらしい。面白い。7時半ごろ、ペンシルベニア州に入る。

憧れのウェストバージニア

午前中は眠くて眠くて、うつらうつらしているうちにメリーランド州を通り越し、ウェストバージニア州に来ていた。「カントリーロード」のサビに出てくる地名だ。私はこの歌が好きすぎて、ウェストバージニアに行きたいと冬からずっと思っていた。降りて写真を撮る。道沿いの看板が近くのレストランを知らせてくれるんだけど、そこには大体マックが入っていた。ニューイングランド寄りには、必ずDunkin' Donuts。Winchesterという地名を見た時には、お気に入りのネットフリックス"Dear White People"に出てくる架空の大学Winchester Universityを思い出した。

カントリーロードに想いを馳せて、フラッシュで光り輝く看板と

15時前、運転手の子の眠気に限界がきて、近くの休憩所に寄った。車の中で昼寝するというのでお散歩していたら、怖い顔をしてわざわざ探しにきてくれたので理由を聞いたら、なんか変な人がうろちょろしていたらしい。何をしでかすかわからない系の人がなんだか多い。若干体力が回復し、ダブルエスプレッソショットが入ったスタバの缶を買ってから、車に戻る。

ロードトリップ中の会話

それぞれの体力がカフェインと休息のおかげで戻ってからは、音楽をやめて、会話を楽しむことにした。日本に帰ることについてどう思っているかと聞かれる。この質問は学期中からたくさんしてもらっていた。そしていつも、「複雑だよ」と決まって答える。たとえ仮暮らしだったとしても、こっちで築いたホームの感覚があり、それらを後にして日本に帰ることはすごく苦しい。でも、ようやく頑張らなくていいというゴールの感覚もある。それらを短い時間で相手に説明するのはいつも至難の業で、あああと30分欲しいなとか思う。話は幸せについてに移った。ギリシャ神話で、シシューポスの岩という話があると、その友達は話し始めた。重い岩を山の上に押し上げて、また落として、また押し上げる人生を歩む一人の男の話。その友達が解釈するのは、一見退屈で果てしなく見えるその人生の中にも、幸せや達成感、安寧が在るということ。石を押し上げるという連続の中でも、1回目よりは2回目の方が上手くなっているかもしれないし、気づきもあるかもしれない。つまりは、”Discomfort and happiness coexist.(不快感や苦しみと幸福は共存する)”ということだと話していた。結局は人生とは繰り返しの連続で、その中に幸せを見出すのはとても難しい。多くの人にとって、生きるには働く必要があり、その営みのほとんどは苦痛を伴う。その中に、何か安らぎや喜びを見出すには、とんでもない諦めと悟りが必要なのだろうと、遠い目をして考えていた。ドライブって、狭い空間に一緒にいることになるから深い話がとても盛り上がる。相手の顔を見ないでいいから、面と向かって言いにくいことも話せるからすごいや。ロードトリップものは人間の深いところを描くのが上手いなと思っていたけど、自分がいざやってみて、なるほど、だからか、と納得した。

たのしーテネシー

しばらくして、18時半ごろテネシー州に入る。州都ナッシュビルは「ミュージック・シティ」と呼ばれていて、エルビス・プレスリーゆかりの街でもある。ロックンロールの発祥地とも言われていて、どこの州の観光案内所よりも、街のPRに力が入っているのが印象的だった。南西にあるメンフィスは、メンフィス・ラップっていうドス黒いラップの本場だ。友達がメンフィス・ラップが好きで、車で流してくれたけど、すごい迫力。歌詞に悪魔とかが出てくる。個人的には、大学で人種の授業をとっていたときに、保険に当てられる財源が削減され、健康格差が広がっている場所として取り上げられていたのがテネシーだった。でもこの旅で、文献で読んでいる中では見えない、南部の人の優しさや自然や文化など、生活感に触れられたのが嬉しかった。

テネシー州の看板の前にて。自分サングラスが似合わなすぎて、見るからに怪しい。

ちなみにテネシー州の観光案内所は、自販機やパンフレットなどいろいろある。自販機に何かあるかなって見に行ったら、こんなサインがあった。

つづりが惜しい貼り紙

「何度も機械が壊されそうになったので、クレジットカードのみ使えます。現金ダメ!」と書いてあるんだけど。。。よく見てみると、”Due to”が”Do to”になっている。今バイトしてる塾で中高生が必死に英語を勉強しているのを見るけど、こういうのを見ると、「大丈夫だよ、アメリカ人だって間違えるんだから」と生徒の肩を叩きたくなる。あと、観光案内所のテレビに突然映されたQRコードを読み込んでみたら、州兵の募集の広告だった。来来世にでもやってみるか、とか冗談を言いながら車に戻る。

お茶とコーヒー、そして恋しい家族

そんなこんなで、今度はお茶派かコーヒー派の話になった。コーヒーを飲む家庭飲まない家庭があるけど、運転してくれている友達の家は、お茶派らしい。一度お邪魔したことがあるんだけど、ウイグルの伝統で、紅茶に塩を入れて朝飲むというのがあり、最初はびっくりした。「スッチャイ」というらしい。うちはカフェインだらけだなぁ、とか思い出そうとするけど、長く離れている自分の家のことは、なんだか靄がかかったようで上手く思い出せない。恋しくなることがわかっているから、無意識にバリアを張っているのかもしれない。留学が始まって最初の学期は、親に電話すると、切った後に恋しくなって泣いてしまうから、かけないようにしていた。友達たちと夜中に集まって勉強してた時に、親と久しぶりに電話して、切った後に案の定泣いていたら、とある友達が私のノートにメモを差し込んでいた。そこには、「日本にいる親も、過去の自分も、未来の自分も、今私が見上げる同じ月を見ているから、決して一人じゃないよ」と書いてあった。そういう小さな優しさに、時にものすごく救われたんだな。

時をかけるHONDA

とかまたしみじみ思っていたら、なんと携帯に映る時間が1時間変わっていた。そう、時差の境界を越えたのだ。テネシー州(地図の中のTN)の左半分は、中部時間(セントラル・タイム・ゾーン)となっていて、マサチューセッツのある東部標準時よりも1時間遅い。"We’re faster than nature!(自然を追い越した!)"とか言って大騒ぎした。私たちの乗っていた車HONDA CRVは、時をかけたようだ。

http://www.tt.em-net.ne.jp/~taihaku/geography/database/timezone.html より

そうしてテネシーを横断する旅を続けた。東部にたくさんあるDunkin' Donutsはなんとテネシーにもあって、なんだか嬉しくなった。たった一年でも、州のプライドみたいなものは身につくらしい。冬でもアイスコーヒー、ダンキンを愛するニューイングランドの魂は、私の心に密かに宿っていた。

スーパーガソリンスタンド・バッキーズ

夜ご飯がてら、スーパーガソリンスタンド、Buc-ee's(バッキーズ)に寄る。もう、ディズニーランドみたいだった。別の州からの観光客も多く見受けられた。ここでは、お土産も、食材も、ホットスナックもなんでも揃う。面白くなって写真まで撮った。ボストン出身の友達も、南部名物のこのお店に来れて嬉しいと言っていた。本日いただいたのは、ポークサンドとキウイのプリン。ポークサンドには、これでもかというくらいにバーベキュー味のジューシーなポークが入っていて、とても充実感があった。キウイのプリンは。。。ノーコメントで。

もはやアミューズメントパークなBuc-ee's。

今日の気づき・車社会の異常さ

今日の気づきは、車社会の便利さと異常さだ。ハイウェイを通っていると、等間隔に、弾けたタイヤの破片がそのまま転がっている。時には車の部品も。衝突したり故障した後、その大部分は回収され、何事もなかったかの世に同じ道路を他の車が行き交う。何人の人が怪我したんだろう。そして、何人の人が亡くなったんだろう。そんなことを考えていたら、胸がひゅっと空く感じがして、頭がおかしくなりそうだった。

あと、今日見つけたお気に入りのサイン。南部に行くと、結構キリスト教色前回のビルボード(道路の横にある看板)を目にする。これは、「キリストよ、私の罪を許したまえ、私の魂を救いたまえ」って書いてある。これを、お金をかけてハイウェイに出す人がいるっていうことだ。南部、すげえ。

今日のマイルレコード

走行距離:664miles(1068km)
走行時間:11時間3分(!)

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