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【エッセイ】松井さんは僕に何かと秘密を打ち明ける

先日、画塾についてエッセイを書いた。



そして思い出したことがあるので今回はそれを書く。

同級生の松井さんの話。

松井さんとは小学校からの同級生の女の子である。

小学校から中学、高校と同じ学校に通った。

そして高校3 年生になると同じ画塾に通うことになる。

§

松井さんは転校生だった。


僕の住む町は、僕が入学した頃よりどんどんと家が建ち、家やマンションが増える度に、毎年毎年、学校に転校してくる子も多かった。

あれは何年生の頃だったか忘れたけど、松井さんもその1 人だった。

松井さんをひと言で表せと言われると、的確な表現がある。


それは「ちびまる子ちゃん」だ。


いや、もうそれしかない。

見た目は、おかっぱ頭。体も小さい。

そして喋り方も舌足らずというか、「本人も意識してるんちゃうん?」って思うくらい似てた。

「あたしゃ」って言いそうやもん。

後にも先にも、実写版ちびまる子ちゃんは彼女しかいない。


ただまぁ、まるちゃんほど活発というワケでもなく、話すとめっちゃ喋るし面白いのだが、どちらかというと大人しいというか、クラスの中では控えめな子だった。

しかしながら、家はお父さんが社長かなんかでお金持ち。

ただでさえ、でっかい家やのに、松井さんは増設された離れのようなとこに自分の部屋を持っていた。

§

ある時、席が隣になった事から、僕は松井さんとよく喋るようになった。

松井さんは先述した通り、あまり社交的ではないので、男子と喋るようなタイプではなかったが、逆にぼんじりが誰とでも喋るので、仲良くなるには時間がかからなかった。


何か記憶にあるのは、カエルの消しゴムを貰った事を覚えている。

小学生は何かよくわからんけど、全く機能的じゃない消しゴムをたくさん保有したがる。

やたら可愛いやつとか、匂いついてるやつとか。

実際、消しゴムとして使うと、これがまったく消えないのである。

もっと言うと小学生は、はなからこれを使う気がない。

なぜなら使ってしまうと形が変わる。

可愛いままの原型を留めておきたいのだ。

それが何らかの理由でその消しゴムを使わないといけなくなると、もう涙ながらには使えない。

文字を消す度に「あぁ~~~」と思うのである。

僕が松井さんに貰った消しゴムは、縦1 センチ、幅5 ミリぐらいの、ちっちゃいちっちゃいカエルのものだった。

確かに可愛い。

それを色違いで数個くれたのである。

なんとまぁ、可愛いカエル達か!

ただ消しゴムとしては全く使い物にならん大きさである。

それを「くれ!」と言ったら、「うぅ……まぁいいよ……あげる、それ」だった気がする。

内心、冗談のつもりで言ったのだが、松井さんは意図も簡単にそれをくれた。

何回も「え? いいん?」と確認したが、松井さんは「別に全然いい」みたいなことを言って、全く動じない様子だった。


その時、「やっぱりこの人はお金持ちなんや……」と、身分の違いを知った。

§

身分が違うといえど、松井さんとのパワーバランスは確実に、からかう男子と、からかわれる女子のそれだった。

小学校でいうとこの「男子がからかうのは、○○ちゃんのことが好きだからだよ」という定義。

残念ながら、ぼんじりには当てはまらなかった。

僕は好きな女の子にはめちゃくちゃ優しい。

僕がからかう女子って……ただ『面白い』という残酷な理由だった。

だからよく僕は「○○ちゃんのこと好きなんやろ!?」って勘違いされたが、本音を言うと全く違って、純粋に……悪そのものだった。

その頃からドS、魔王と言われる所以があったのだろう。

いや、誇らしく言うことではない。


ホンマ、女子ごめんなさい。

ホンマ、松井さんごめんなさい。

§

松井さんは先述した通り、舌足らずのところがある。

それが松井さんのキャラに合っており、味があっていいのだが、理由は一目瞭然。


シャープな顎をお持ちであられたのだ。


誤解の無いように言うておくが、僕は友人から言わせるとシャクレ好きらしい。

って、シャクレって言うてしもたけど。

僕が「顎がシュッとしてて綺麗」と言うと、友人は「お前の言う顎がシュッとしてて綺麗は、世間で言うシャクレや」と言う。

僕はシャクレ好きのレッテルを貼られている。


ってか、世界中のレディース&ガールズはみんな可愛いわいっ!

女子というだけで魅力的だろうがよ。


こんなことを言うと女たらしみたいに誤解されるが、世の中、女性ありきなんですよ。

女性がおらんかったら、我々、男子は産まれてこない。

僕は声を大にしてマザコン宣言をしている。


だから世界中の、いや宇宙中のレディース&ガールズよ。


僕をフォローしてスキしてくれ。


って、冗談はさておき、話が脱線したので戻すが。

当然ながら、シャープな顎をお持ちの松井さんに僕は、「シャープな顎をお持ちですね」なんて言い方ではなく、もっと失礼な言い方をしていた。


きっと松井さんは顔をひきつらせて、目の上には数本の線が出ていたことだろう。

何やったら背景に渦巻きでも出ていたかもしれない。

§

そんな松井さんがある日突然。

「ぼんじり君にだけ教えてあげる」

と、秘密を打ち明けてきた。


「私……実は……寝る時に……顎の矯正してんねん


との事だった。

僕は顔をひきつらせて、目の上に数本の線と、背景に渦巻きを出した。


気にしてたんか……(汗)。


「実は自覚あったし、気にしてんねよなー」

と、松井さんは白目を向きながら笑っていた。


松井さん曰く。

夜、寝る前にヘッドギアを装着し、顎をグッと矯正しながら寝るらしい。

まるでラグビー選手のあれの様らしい。

その姿は誰にも見られたくないとの事だった。


「言うてホンマはそんなに気にするレベルちゃうぞ」

と、ワケのわからんフォローを入れたが、それ以降、僕は顎の話をタブーとした。

ただ歯の矯正ですら、お高いのに、「顎てなんぼするん?」って聞いたら。

「めっちゃ高い」

と言って松井さんは笑っていた。


やっぱりお金持ちは違う。

§

その後、中学、高校と同じ学校に行き、やがて松井さんと同じ画塾に通う事になった。

画塾の生徒がよく持っている黒くて薄いあのカバンを、2 人とも持ち歩いており、よくお互いの絵を見せ合った。

画塾に行く道中で一緒になった時は、話も盛り上がって楽しかった。

ただここまで仲良くて、なぜ恋愛対象にならないのかと言えば。

この頃の松井さんは。


坊主だった。


ほぼ坊主のベリーショートだったのだ。

あのちびまる子ちゃんが、超短髪。


まぁ、画塾の生徒らしいっちゃ生徒らしく、オシャレやったけど。

ブッ飛んだ女の子だった。


そんな松井さんはどこかの美大に進学した。

どこやったっけな?

関西圏には複数の美大・芸大、また短大とあり、それらを目指す生徒はほぼ受験が被る。

ただ僕は先日のエッセイで書いたように、適当な理由で芸大を目指していたので、家から1 番近い大学ひとつだけを受けた。

そして落ちた。


幸か不幸か、自分で裏・第一志望と言っていた、僕の偏差値ではおよそ通らないであろう、そこそこの一般大学に合格した。

友人や当時の好きな子が進学する大学だったので、僕は美大浪人する事なく、あっさりあきらめて、そっちの大学に進学した。

§

大学に進学してからは松井さんと会う事はなかった。

共通の友人を通して情報が入ってくるくらい。


社会人になって数年後、中学校時代の大きな同窓会が開かれた。

事の発端は僕の所属するバスケ部の同窓会だったが、いっそ関係なく学年全員を呼ぼうみたいになって、当日はかなりの人数が参加した。

普段はめんどくさがって同窓会に参加しないぼんじりも、この日ばかりは自分の所属する部活が発端なので参加する事になった。


同窓会が始まると、それぞれ適当に座ったテーブルの近所の同級生と話したり、飲んだりしていたが、やがて各々に席を移動して好き勝手し始める。

僕も一通りいろんな同級生と話をしていた。

するとそこへ。

「ぼんじり君、久しぶり」

と、女の子がやってきた。


そう。

髪が伸び、いつの間にか女子力高めになった松井さんだった。

§

「よう、松井ちゃん」

と、中学までは「松井」と呼んでいた松井さんを、高校からはちゃん付けで呼ぶようになっていた。

「元気?」みたいな、たわいもない挨拶をするや否や。

「なぁなぁ、何か気付く?」

と、松井さんがクイズを出してきた。

「いや、わからん」

と、めんどくさかったので即答したら。


「私、二重に整形してん」


と、松井さんが言った。


ホンマやっ(笑)!!


松井さんは思いっきり一重やったはずやのに、二重になっていた。

いや、アイプチ的なあれかとも思ったが、まさかガチで整形してるとは。

「みんなにバレるやろか?」

と、松井さんは楽しそうにしていた。

そして。

「私、こんなとこで働いてるねん」

と、名刺をくれた。

広告関係の会社だった。美大出身らしい就職先だ。

そして、さらに松井さんはこう言った。


「今、上司と不倫してんねん」


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


え(笑)?


「内緒やで(笑)? いや、もうズルズルしとって何とかせなアカンねんけどな(笑)」

と、言って笑っていた。

女子力が上がったかと思ったが、相変わらずブッ飛んでいた。


僕は顔をひきつらせて、目の上に数本の線と、背景に渦巻きを出した。

§

あれ以来、松井さんとは会っていないが、どうしているんだろう?

まぁ、状況を知ろうと思えば簡単に知れるが、次に会った時の楽しみにおいておきたい。


何せ、松井さんは僕に何かと秘密を打ち明けるのだ。

人の秘密をこっそり教えてもらえるのは楽しいものである。



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