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マイフェイバリット探偵小説 昭和初期篇【1】

私が生まれて初めて触れた探偵小説は、小学校の図書館にある江戸川乱歩の「少年探偵シリーズ」(ポプラ社)でした。よくある話です。

青い帽子に金の仮面、赤いマントの背表紙のあれ。

それが原体験としてあるからか、<推理小説>よりも<探偵小説>という響きの方が好きです。

謎解き云々以前に、あの独特な世界観が愛おしい。
読んでいるだけで、その時代の空気感を堪能することができます。
犯人がわかったから、トリックがわかったから、結末がわかったから、それで終わりというのではなく、繰り返し繰り返し何度でも読みたくなる感じ。

やがて大人向けの乱歩に興味を持つようになり、手当たり次第に読んでみる訳ですが、その際に買っていたのが、春陽堂書店<江戸川乱歩文庫>

黒とカナリア色のおどろおどろしい表紙絵に赤のタイトルがドーン。

リニューアルされて今ではもう変わってしまったかもしれませんが、昔の<春陽文庫>は字が小さく、その小ささがなんとも言えない不気味さを醸し出していました。蠢くような。
乱歩の世界観に合わせて装丁された本は、眺めているだけで摩訶不思議な気分になります。

外見はさておき。
乱歩の持ち味は、特に<短篇>に出ていると言われています。
「人間椅子」「押絵と旅する男」「屋根裏の散歩者」…など、映像化されている名作も多いので、原作を読んでいなくてもあらすじは知っているという方も多いでしょう。

そんな中、乱歩の代表作といえばコレ!と言われている<長篇>があります。

「孤島の鬼」!!

<青空文庫>にもありますが、とても長いので、実際の本の方が読みやすいかもしれません。
この場合、<創元推理文庫>版がおすすめです。

挿絵:竹中英太郎
そう、この文庫版には、初出時の挿絵が載っているのです。

長篇ながら、謎が謎を呼ぶ展開に魅了され、時間が経つのも忘れて読んでしまうのです。

  • 導入で示される奇妙な謎

  • 密室殺人、周囲に人がいる中での殺人

  • 系譜図、手記、暗号

  • 洞窟の迷路

  • BL的なもの

大雑把にキーワードを並べてみただけでも、色々な要素が幕の内弁当のように詰め込まれているのがわかると思います。
様々な謎が複雑に絡み合い、妖しく美しい世界を織り成している。

ワクワクドキドキしながら読み進めていくと、最後に仕掛けられた<告白>で切ない余韻が残ります。
何回読んでもワクワクとドキドキとジーンがやってくる。
いい本です。

ただし、この作品には、今の時代にはそぐわない表現が多数出てきます。

雑誌「朝日」に連載されたのが、1929年(昭和4)から1930年(昭和5)にかけて。
時代が違うから捉え方や扱い方が異なる訳ですが、障がい者に対する記述が、随分偏っています。

勿論、乱歩自身、差別的な意図があって書いた訳ではないと思いますが、(読んでみるとそういう姿勢は感じません)、多くの人に評価されていながら映像化がほとんどないのは、そういうことなのでしょう。
2024年現在、1969年に「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」というタイトルで映画化されているのが唯一の映像作品のようです。
(すごいタイトルだな)

ま、でも、この作品に関しては、文字で読んでそれぞれの想像の中で映像化するのがいいような気もします。

ここから始まった私の<探偵小説>好きですが、乱歩を全部読んでしまった後、どこに行けばいいのかわからなくなり、あれこれ彷徨った結果、同時代の作家たちの小説に手を伸ばすことになります。
その旅の中で出合った素晴らしい作品を【2】以降でご紹介したいと思っています。

(続く)

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