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小説・詩

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小説、掌編、ショートショート、三題噺、「物語」と名のつくことばたち。 詩は、内側からあふれでる、風景や身体の本質的なことばの集合体。
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記事一覧

アタマの上の蝿を追え②【小説】

前回まではこちら * あの日以来、近ごろは寝坊しなくとも、もう顔に時間をかけるのは止めに…

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アタマの上の蝿を追え①【小説】

志邑です。 「不思議」をテーマに書いた小説(の冒頭)が見つかったので載せます。 まだ冒頭の…

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台所

昭和硝子の嵌った台所の窓のところに、ずい分水気が飛んでどす黒くなったしょう油。 何年も動…

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日常

ベランダにならべた プランターのプチトマトの 花がしおれていくのを眺めている 毎日 プチトマ…

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録画しといてって頼んだでしょ

高校生になる娘は最近家にほとんどいない。 校則でバイトはたしかに禁止されていないが、私と…

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海へそそぐためのソナチネ

みみず腫れを指の腹で撫でつけて 私と夕景の境界線を消す 稜線は朱鷺色に発光し 民家の土壁を…

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春のひかり

螺鈿のイヤリングを揺らして 君はブランコに乗っていた 涼やかな顔は春の夜風によく似合っている ぼくのからだをその雑木林の いちばんうす暗いところにちょっと埋めて 君はブランコに乗っていた つよい風はぼくの上にかかった土を乾かして 簡単に払ってしまった 少し覗いているぼくの目には 君が大きく足を振っているのが映っているだろう はげしく吹く風は君の起こした風なのか 君は服も顔も髪も乱れることなく 元気にブランコを揺らしてしている 乾いた空気を浴びている野ざらしの瞳の裡に 揺れ

蜃気楼を泳ぐ

ノンアルコール、と書いてある飲み物にも実は微量のアルコールが含まれている。 日本の規定で…

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食渣 (しょくさ)

家へ着くとブレザーを脱ぎ捨て ネクタイを引き抜いてそこらに投げる わたしは袖を煩雑にまくり…

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一枚の絵(後編)

前編はこちら *** その絵には『一枚の絵』というタイトルが付けられ、第三展示室の隅の方…

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一枚の絵(前編)

わたしが生まれたのは日本のどこか、海辺の街で、夏だったこともあって、安直な、海っぽい名前…

廃墟で散歩

まだ昼のうちから、鬱蒼とした森はくらく、視界はあまりひらけていない。 足元一面に広がって…

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しらゆき号に乗って

次の連絡船の時間まで、あと40分あった。 わたしは往復のチケットを買い、これから湾を挟んで…

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ハイドアンドシーク

履きつぶした革靴は、靴底が破けていて、動くたびに湿っぽい砂が中に入り込んで不快感を助長した。 海から流れてきた、ばらばらになりかけの洗剤容器や、おそらくバーベキューの残骸の缶や箸が、ベージュの荒い砂山に刺さっている。 陶器の破片は丸みを帯びていたが、時折ゴム底のすき間に食い込もうとする。 足がもたついて、少しも進んでいる気がしない。 とにかく走っていた。 ーーーーーーーーーー 急に深夜呼び出されるのはいつものことだった。 無視すればよかったのだろうが、それができないのもや