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録画しといてって頼んだでしょ

高校生になる娘は最近家にほとんどいない。

校則でバイトはたしかに禁止されていないが、私としては正直してほしくなかった。

シフト表を毎月写真を撮って送ってくれているし、シフトのある日もない日も、22時半までには家に帰っては来る。

けれど、法律で22時までバイトできるとは言え、子どもが22時まで外にいるなんて心配で仕方がない。

娘がマメに連絡をくれていても、さんざん話し合いをしてちゃんと許可をしたのは私だけど、でも心配なんだもの。

でもこうなったらただ心配しながら家で待つことしかできない。

しかし、どうして急にバイトするなんて言い出したのか、検討がつかない。今日は土曜日で、朝からずっとバイトだと言っていた。

一応お小遣いだってあげているし、友だちと派手に遊んでいる感じもない。

そんなこと考えながら掃除機をかけおわり、ふと携帯を見ると娘からチャットが届いていた。

【この番組、間に合わないから録画しといて】

一緒に載っていたURLを押すと、今日の夜8時からはじまるバラエティの特番のようだった。

録画機能は、私がいちばん使っていた。

ドラマが好きで、大河から深夜まで録っていて、最近は海外ドラマなども観ている。
観たい番組がかぶってしまったり、もう一度観たいときのために、と録画していたら、気づけば相当な量になっていた。

そのせいで、レコーダーの容量がいっぱいになっていたため、ブルーレイディスクを使って娘に頼まれた番組を録画した。

録画しているドラマの好きなシーンを何度も見返してしまう。
たくさん録画を残してはいるけれど、結局のところ、好きなドラマ3つの最終回と、一昨年の大河ドラマの38話ばかりみている。

なのに、前後関係が分からなくなるかも、なんて思ってつい、ぜんぶ残している。
大河ドラマをぜんぶ残すと結構つらい。

玄関で大騒ぎする声が聞こえたので何かと思ったら、チュールのスカートが弟の俊足のマジックテープに引っかかってほつれたとのことだった。

息子はもう寝ているので、明日姉から何も分からず殴られるかもしれない。

俊足も、息子も娘も何も悪くはないのだけれども。

一応なだめておいたし、娘もそんなことは重々承知だろうが、多分この子は弟に当たるだろう。
あの子にはアイス買っといてやろう。
この子はスカートを一緒に選んであげよう。

「お母さん!録画しといてって頼んだでしょ。録れてないんだけど」

不機嫌が最高潮の娘はリモコンを連打しながら吠える。

「レコーダーのほうじゃなくて、ブルーレイに録ったから」

「ブルーレイ入ってないけど」

そんなわけない。抜いていないのに。
娘の手からリモコンを奪い取る。

娘が貧乏ゆすりをしながら「せっかく『キラボシ』出てたのに……」と小声でぼやいている。

きらぼし、って最近流行っているアイドルだっけ。正式名称、英語で長くて忘れちゃった。
ハマっているなんて聞いたことなかったけど。

リモコンを操作し、レコーダーからトレイが出てきた。

見たこともない速度で娘はそこに飛び出していって、即座に確認している。

「なにこれ……」

娘の後ろから覗き込むと、ディスクが乗っているはずの場所に、しっとりとして大きな、ブルーレイディスクサイズのナルトが乗っかっていた。


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