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ヨーロッパを精神科医の視点から③

バルト三国の一つ、リトアニアに行ってきました。その首都のビリニュスは川と緑に囲まれたとてもきれいな街です。

リトアニア訪問の目的は、リトアニアはなぜ世界一自殺率が高いのかを知るためです。そこでビリニュス市内にある精神科病院を訪問してきました。精神科医のArnus先生からリトアニアはなぜ自殺者が多いのかについてお伺いしてきました。

まず男性の自殺率がとりわけ高いです。男性:女性が6:1で他の欧米平均の3:1を大きく上回っています。背景には安く手に入るアルコール(各家庭でポテトからhousemadeのアルコールを作る習慣もあります)があります。

アルコールがうつを悪化させることはよく知られており、さらにアルコールによるうつ病の自殺にはその多くに直前の飲酒が関与していたというデータもあります。

そして都市部より郊外の住人の自殺が多いそうです。聞けば郊外では住居は点々としかなく、仕事もなく、人々のつながりが希薄だからだそうです。そして安価なアルコールが唯一の楽しみ、という人も多いとのことです。

今リトアニアではアルコール依存症、自殺対策が急務と国レベルで認識されており、アルコールについての知識をその地域のGP(総合診療医)をはじめ牧師、教師など人と関わるあらゆる職業の人々に広めようとしています。

そのかいもあり、リトアニアでは療養の施設が多くあるようで退院後に行き場をなくすようなケースはないようです。しかも家族でそこに住むようです。家族のつながりがとても強いのだそうです。

それに対して日本では、アルコール依存症患者が退院後自宅にかえることを家族が拒否されるケースは多く、行き場をなくすケースが多々あります。そして生活が破綻して路上で生活するなどしてさらに飲酒が進むケースが後を絶ちません。

患者のご家族はいままで沢山苦労されてきているので、患者と離れて少し楽になってください、という気持ちもあります。私の接し方が悪かった、など自分を責められる方も多く、いつもねぎらいの言葉をかけています。

しかし悲しいことに、まだまだ家族が支えなければ、社会からの風当たりは他の欧米諸国に比して強く、患者は孤立していきやすい状況です。

なので患者が入院している時は思いっきり休んでいただいて、その間に一緒に勉強していただいて、また帰ってきたときに支えていけるような体制を整えておきたいのです。

私は、多くの患者には自立する力が本当はあるし、根強い偏見を跳ね返す個性や強みがきっとあると思っています。

しかしそのことをもっと示す場がなければ決して社会からの見られ方は変わっていかないと思っています。

精神科患者が本来の力を発揮できるようにしていく仕組みづくりをこれから本気でつくっていきたいと思っています。



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