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油田優衣さんのお話をきっかけに (LINDA)

一昨日、京都みなみ会館でのトークショーが無事に終了いたしました! 全7日、連日素敵なゲストをお招きし、沢山のお客様と一緒に、自分の身の回りや自身を見つめ直す、大切な時間を過ごすことが出来ました。(しかも、トークショーが終わった後も、シアター外ではプチトークショーさながらの、熱い交流が連日行なわれていました! 遅くまで何も言わずに見守って下さったみなみ会館の皆様、本当にありがとうございました) 

お越しくださった皆様、本当にありがとうございました


京都みなみ会館でのトークショーの振り返りは、上映委員会・副会長の荒木君が今準備してくれています。ですので、私は一昨日のゲストだった油田さんのお話を聞いて考えたことをこちらに書いてみたいと思います。
(おそらくこの投稿を読んでおられる方の中には、まだ映画本編をご覧になられていない方もあられると思います。ですので、ネタバレを避けるためにも、映画の内容に関してはあえて詳細を述べていません。ご了承ください)

(また油田さんはこの映画のレビューを寄せて下さっています。そちらをまだお読みでない方はこちらからどうぞ。https://note.com/bokutootouto/n/n944ab84d754f


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トークショー最後のゲストであり、映画公開直前のプレイベントでもゲストとしてご登壇くださった油田さん。彼女は脊椎性筋萎縮症(SMA)の当事者として介助者と共に自立生活を送りつつ、障害者運動の実践や障害学の研究をしておられます。そして大学の講義や大学外の活動などでもよく油田さんと議論している髙木監督。このお二人のやり取りが面白くないはずもなく、やはり大変見応えがありました。私は油田さんのお隣でマイクを持ちながらお話を聞いていたのですが、「なるほど」、「そっか」、「知らなかった」とつぶやき声が止まらず、油田さんのマイクが私の声を拾ってしまわないか途中からはひやひやしていました… 

いくつも考えさせられるお話があった中で、ガツンと頭を殴られたように感じた油田さんの言葉があります。それは、映画内で壮真くんがある事件を起こした時、動揺を隠しきれない監督が池谷プロデューサーに電話をするのですが、そこでプロデューサーが監督に語り掛けたあるひと言を巡るものでした。(実を言えば、私もそのシーンは、何度この映画を観ても違和感の消えない箇所でした。) 油田さんは次のようにおっしゃいました。

「障害を持つ人たちから沢山のものを与えられている、沢山のことを教えられているという言葉をよく聞きます。けれど、それはどうなのでしょうか。確かにそのように気づくことはあるのかもしれません。でも、たとえば私は誰かに、何かを与えているつもりもないし、何かを教えているつもりもありません。そのような言葉はむしろ私にとって、自分は何かを与えたり教えたりする存在でなければならないという型にはめられているような気がするのです。」

彼女のこの言葉を聞いた時、このシーンを見た時に感じたもやもやが一気に氷解したように思いました。
「この人はきっと何かを教えてくれているはずだ」という感情は、実のところ自分の願望でしかないのではないか。あるいは、こう言った方が正確かもしれません。絶対にこの人から何かを学ばねばならないのだというある種の「教訓神話」のようなものなのではないか。

少し考えてみてください。私たちの周りには、この「教訓神話」、つまりこの人から何か学び取らねばならない、教訓を得ねばならないという強迫観念じみた考えが溢れかえっているのではないでしょうか。

ここで少し油田さんのお話から脱線します。私の尊敬する人に沢知恵さんという方がおられます。バイタリティ溢れる、優しくて素敵な方なのですが、彼女はシンガーとして全国を回りながら、ハンセン病療養所内で歌われていた園歌の研究もしています。そしてハンセン病と文学に関心を持つ私は、彼女から大いなる刺激を受けています。そんな彼女が以前、私にある話をしてくれました。

「震災の体験を教訓に、とよく言うけれど、その時にも注意しなければならないことがあります。それは、容易く「震災」を大きなカテゴリー化してしまわないことです。例えば、神戸で震災の話をすれば、それは阪神淡路大震災を意味するわけです。他方、新潟で震災の話をすれば、新潟中越地震を意味するかもしれない。そして宮城で震災の話をすれば、それは東日本大震災を意味するでしょう。震災の体験を教訓に、とひと口に言っても、地震列島の日本にあっては震災も沢山あって、被災者それぞれに大変な体験があるわけです。しかも当事者からすれば往々にして、自分たちが見せているのは、「教訓」たりうるものではなく、日常そのものなのだと考えていることでしょう。そのような内実と多様さを受け止め、知っていくことで初めて見えてくるものがあるはずなのです。けれど、容易く震災から教訓を引き出そうとする人が少なくないのが現実です。そこにあっては、ややもすれば、阪神淡路大震災も東日本大震災も「震災」の一言で包括されてしまうのかもしれない。被災者たちの日常という視点が抜け落ちているのかもしれない。けれど、それでは見えてこないものが沢山あると思うのです。教訓というものは自分から求め始めて容易く見つかるものではないのではないか。そう感じる時があります。」

油田さんの話を聞きながら、私は沢さんの話を想い起こしてもいました。
確かに過去や、身の回りの物から何かを感じ取ろうとすることはとても大切なことです。それがなければ、対話も生まれ得ず、無関心が今より一層跋扈してしまうことでしょう。他方で、私はこうも思うのです。性急に結論や教訓などを導き出すことも危険なのではないかと。より衒いのない言い方を選べば、誰か/何かと向き合おうとしないことが暴力的である一方で、誰か/何かを結論や教訓をもたらす存在とばかり見てしまうことも十分に暴力的なのではないか。おそらく、この「暴力性」を、油田さんは「型にはめられている」と表現しておられるのではないかと私は感じるのです。そしてそれは、この映画の根底にある大きな問い、つまり「理解」することともつながっているのではないでしょうか。

「理解する」ことと「教え(教訓)を得る」ことは似て非なるものなのです。そして答えや結論、意味を性急に求めるあまり、「教訓神話」に裏打ちされることとなる眼差しは、きっと「理解」とは対極の、無関心と並ぶ醜悪なものへと私たちを導いていくことになるのではないでしょうか。教え/教訓というのは自ら求めていくものではなく、ある刹那に気づけば得ているものなのではないか。そんなことを、油田さんのお話を聞きながら私は考えていました。

さて、このように色々な問いや気づきを自分の中に持ち、日常を見つめ直す機会となるトークショーは、神戸の元町映画館、大阪のシネヌーヴォでも開催されます。
お近くにお住いの方や、映画にご関心をお持ちの方はぜひご参加ください。そして、私たちと一緒に、日常を、身の回りのものを、そして自分自身をじっくりと見つめ直してみませんか。



(編集担当:Linda)
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【上映委員 イチオシ写真】

上映活動であまり大学に行けていなかったのですが、私のことを心配してくれた指導教員の小林哲也先生が、わざわざ映画(ともしかしたら私の様子)を観に来てくれました!実は小林先生、このnoteを読んでくださっている貴重な読者の一人でもあります。そして私の修士論文を審査する先生のお一人でもあるのです…

久しぶりに先生とお会いして、映画の感想や気づいたこと、疑問に思ったこと(そして修論のこと…)など色々お話が出来、本当に嬉しかったです。私がこのnoteに拙文を投稿し続ける大きな原動力となっているのは、実は先生が読んでくださっているからだったりもするのです。


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左から、髙木監督、小林先生、そして私。この後、カメラを持っていた池田さんから、全然楽しそうな雰囲気が伝わってこない!とダメ出しが出ます笑


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池田さんの鋭いダメ出しに苦笑する私たち笑


画像3


気を取り直して、満面の笑みでカメラの前に立つ私たち。無事に池田さんからOKが出ました。先生、本当にありがとうございました!


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【劇場公開情報】(2021年10月30日現在)
前半は本編上映、後半は監督&日替わり特別ゲストによるトークセッションを行います!詳細はこちら→https://boku-to-otouto.com/infomation/

京都 @京都みなみ会館(本編48分)
10/30(土)-10/31(日) 14:00~
11/1(月)-11/4(木) 10:00~
11/5(金) 14:00~
11/6(土) 12:00~
11/7(日)-11/11(木) 14:00~
https://kyoto-minamikaikan.jp/movie/12338/

神戸 @元町映画館(本編48分、トークセッション60分)
10/30(土)-11/5(金) 12:30~
https://www.motoei.com/post_schedule/

大阪 @シネ・ヌーヴォ(本編48分、トークセッション30分)
11/6(土)-11/12(金) 13:45~
http://www.cinenouveau.com/sakuhin/bokutootouto.html


「僕とオトウト」公式サイト https://boku-to-otouto.com/
お問い合わせ bokutootouto@gmail.com

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