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劇薬のようなおとぎ話。 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」映画感想文

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を観ました。
大変面白く、涙がでるほど入り込んで観てしまった。
しかし、鑑賞後、これは危険な、劇薬のような映画ではないのか、と思っています。

ネタバレ注意
今作は特にネタバレせずに鑑賞したほうが良いです。
クエンティン・タランティーノの9作目となる長編監督作。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという2大スターを初共演させ、落ち目の俳優とそのスタントマンの2人の友情と絆を軸に、1969年ハリウッド黄金時代の光と闇を描いた。映画.comより

必要な前提知識

この映画は、ある事件についての前提知識が必要です。
その事件を知らないと映画が全くわからない、というレベルです。
詳しくは下記の項目をお読みください。

ぼくはこの事件について既に知っており、ポランスキー作品も鑑賞済みで、今作の映画の内容を一切知らずに鑑賞したため、最も良い状態で映画を観ることができました。

絶望と幸福が同居する

ディカプリオとブラット・ピットの日常描写がとにかく最高です。彼らは仕事がうまく行っておらず、順調な人生とは言い難い状況なのですが、ふたりの強い絆や、ブラピの飄々と超然的な様子から、悲壮感がまったくない。

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ジメジメとウエットにならずロサンゼルスの空模様のようにカラッとしている。その描写があまりにも多幸感にあふれていて、「ああ、ずっと観ていたいな。」と思う。

しかし、上述の事件の日がやって来ることはわかっているので、「絶望と幸福が同居する」という、とてつもない心理状態で映画を観ることになる。

ここがこの映画の天才的なところです。
幸せな日常描写の時折に、不穏な描写を挟んでくるのです。
家を訪ねてくるチャールズ・マンソン。
子供部屋を準備するシャロン・テート。

ずっと観ていたい場面と、辛くて観ていられない場面がシームレスに同じ映画の中にある。こんなすごい映画、他に知りません。

熱狂のクライマックス

この映画のクライマックスに何が起きるか。
史実ではポランスキーの家に行くはずの犯人達が、ディカプリオとブラピが居る家に行くのです。
そこでブラピが犯人達をボコボコに返り討ちにします。
正直に言うと、ぼくはこのクライマックスでとてつもなく興奮しました。

やれ、もっとやれ。非道な犯人達に裁きをくらわせろ。
こいつらを徹底的に痛めつけ、絶望を味あわせてやれ。
実際には終身刑?足りない。もっとだ。

ディカプリオが武器を持ち出した時は、実際に声に出して喝采を叫びました。エンディングの美しいタイトル表示のあと、「なんて最高の映画だ」と思いました。

しかし、しばらくすると、この映画は危険な劇薬だ、と感じるようになりました。

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この映画が危険な劇薬である理由

実際の犯人達は全員逮捕され刑に服しています。まだ存命の犯人もいます。
ぼくは、
「既に法で裁かれた人物をフィクションの中で叩きのめすのは良いのか?」
ということを考えました。これが理由その 1。

被害者の遺族であるポランスキーもまた、存命です。
被害者の家族や友人の方もいるでしょう。
「このような映画が彼らにとって良いものなのか?」
ということも考えました。理由その 2です。

理由1については、法治国家である以上、服役中または刑を全うした人物を過剰に攻撃するのは良くない、という考えがベースにあります。

ただ、理屈上はそうでも、感情的には「なんでこんなやつらがのうのうと生きてるんだよ」という気持ちが、ぼくの中にあるのは確かです。
だから、この映画の中で行われる犯人達への制裁シーンで、スカッとしたわけです。

理由 2について、もしかしたら関係者の間で制作に対する合意が形成されたのかもしれないですが、ふと気がかりになりました。
この映画が傷ついた人にとっての救いになっていれば良いのですが、僕にはわかりません。

それでも、もう一度この映画を観たいと思う

おそらくぼくは今後もこの映画を何回も観ると思います。
この映画 が紡いだ物語が、果たしてどんな意味を持つのか、しっかりと観たいと思う。

今作の監督であるタランティーノは、「イングロリアス・バスターズ」という、似た構造の映画を撮っています。(敵がナチスなので今作とはちょっと事情が違うと思う)。ぼくは未見なのでぜひ観たい。

作品に罪はないのか問題

タランティーノもポランスキーも、虐待やパワハラの問題を抱えている人物ですが、事実であれば許されない行為のは当然として、作品を見るうえでもノイズになるんですよ。
芸能人が不祥事で捕まったりすると、関連した作品の扱いをどうするか、という問題が出てきます。

「作品に罪はない」という言い方がされるのですが、少なくともぼくは、観ているときにめっちゃ気になる。情報がノイズになって集中できない。

現時点の感想は以上です。
しーゆー

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