ファンタジーアート展で天野喜孝さんの絵を見てきた話。
ある日、Twitterを眺めていると天野喜孝さんの作品の展示会があるというプロモーションが流れてきたのでクリックしてしまいました。「え!? 沼津で!?」「え!? 今週末!?」「え!? 予定あいてるけど!?」の3拍子が揃った私は、突発ながらお出かけすることに。
天野喜孝さんといえば様々な作品を手がけていますが、私の中では何と言っても「ファイナルファンタジーの絵の人」です。子供の頃は説明書に描かれていた可愛らしい二頭身のデフォルメ絵やゲーム内のドット絵が好きで、天野喜孝さんの絵の良さはまったくわからず、首を傾げながら「どうしてこの絵がこうなるの?」と失礼なことを思っていたものです。今なお素晴らしさを完全に理解しているのかといえばそんなことはないのですが、例えば家に飾るならどっちだと言われたら説明書のデフォルメ絵よりは天野喜孝さんの絵を選ぶことでしょう。大人になりました。
というわけでやってきました。会場はプラザヴェルデ。この施設を鑑賞目的で訪れたのは2020年末のAqoursの5周年展示ぶり。来てみたら色々な展示会が同時開催されていました。入り口は二手に分かれていて、天野喜孝さん側の入り口は想像以上に大盛況。親子連れもたくさんいて……いやこれ客層違うな。並びながら大部分はディズニーを取り扱ったDREAM ART WORLD目当てだろうことに気がつきました。これらは入り口が同じなのでどちらも見ることができます。プーさん可愛かったです。
この手の展示会は無料で見ることができます。なぜなら主催者の目的は多くの人に絵を見てもらった上で購入してもらうことだから。学生時代は美術系サークルに入っていたこともあって、通学路にあるデパートの一角で開催されていると、よく覗きに行っていたものです。超有名どころだとクリスチャン・ラッセンとか。
入り口で必要事項を記入すると入場者であることを証明するシールがもらえます。この慣習は学生時代と何ら変わらず。実はシールには種類があって、記入内容によって商談対象になり得るかどうかのタグ付けをしているんですね、たぶん。学生時代は「コイツは学生でお金なさそうだからたぶん買わない」タグを付けられていたため、商談対象とはならず、販売員に声をかけられる頻度も少なく、純粋に絵を楽しむことができました。今はそこそこいい歳の社会人。がっつり商談対象です。大人になりました。
表示価格を見ると40万〜100万円。一括で支払おうとすると、なかなかびっくりする金額ですが、つみたてNISAの上限の1〜3年分くらいかと思うと、絶対に手が出せない金額ではありません。本当に好きな作家さんの作品であれば、アリなんじゃないかと思えます。
そんな私に販売員が寄ってくるわけです。「絵、お好きなんですか」と。商談に持ち込まれると少しばかりめんどくさいのですが、絵に関する知識は確かに持ち合わせているので、質問しながら鑑賞すると割り切れば有難い存在です。デジタルだと本物であることをブロックチェーンで証明可能なNFTが最近話題になっている一方で、アナログ版画だとどのように本物であることを証明したり希少性を担保するのだろうと今さらながら聞いてみたり。いろいろと勉強になりました。かつては世界を飛び回っていてなかなか捕まえることができなかった天野喜孝さんが、世界的な感染症の流行で日本を出られず、捕まえやすくなった話は面白かったです。
作品の背景や技法を聞きながらひと通り見終えたところで「どの作品がいちばん好きでしたか?」と販売員が聞いてくるものだから、うっかり「アレですかね」と答えてしまう私。「じゃあ持ってきますね!」と絵を取りにいくその背中を見送りながら、やってしまったと思いました。巧みに商談の席に導かれてしまったぜ。
私が気に入ったのはファイナルファンタジー6をモチーフとした作品。タイトルは見忘れましたがググって雑に調べてみたところ「街」らしいことがわかりました。スーパーファミコンの頃からパッケージに起用されている作品です。といえば絵柄が浮かぶ人もいることでしょう。懐かしい。思い出深いあのパッケージが、研磨された金属の上にドーンと印刷されているのです。普通のキャンバスに比べると重厚感が増し増しで、ティナの乗る魔導アーマーが存在する世界観にピッタリ。私が知らなかっただけかもしれませんが、いまどきは金属や漆を使って版画を製作できることに驚きました。金属の色は赤、青、黒の3色。私は黒がお気に入り。完全受注生産で価格は非表示。価格を聞いたら買う流れに持ち込まれると思ったので聞きませんでしたが、さすがにこれは100万円越えるんじゃないでしょうか。販売員さんには申し訳ないと思いながら、私の目の前に私のためだけに置かれて煌々とライトに照らされる赤と青の「街」をしばらく堪能した後、お礼を言って場を離れました。
せっかくなので、隣の展示会も覗いてみることに。いちばん大きな看板は「ファルコム展示会」でありながらファルコムについては名前を聞いたことがあるくらいの知識だったので、ささっと見て終えるつもりでした。ところが抱き合わせでいろいろと展示されている中に、四季童子さんの描くフルメタル・パニック! の作品を見つけて大興奮。私がライトノベルに、富士見ファンタジア文庫にどっぷり浸かるキッカケとなった大切な作品です。大きく描かれたテレサ・テスタロッサの版画に強く心惹かれました。その他にも魅力的なものがいくつもあり、思いのほか長居してしまいました。カントクさんやHitenさんの作品も美しかったです。美しいイラストはなぜ美しいのかを少しばかり学んだことで、新しい視点で作品を見ることもできました。ふむふむなるほど。キャラクターの配置、配色のバランス、背景との馴染、疎密、想起されるストーリーなど、確かに緻密に計算された上で画面に落とし込まれているんだなと思いました。ただの思い違いかもしれないけど。実際のところどうなんですか。教えて販売員さん!
こちらの展示会ではまったく販売員から声をかけられず。私のひとつ前の入場者が「過去に買ったことがあります」と答えてそれらしいシールを貼られていたことから、私のような一見さんよりもコアなリピーターをターゲットにしていたのかもしれません。商談の席から「月々おいくらまでなら無理なく支払えますか?」という声が聞こえてきて、嗚呼これはもう後に引けないパターンだなと思いました。自らの意志に反して営業の勢いだけで買わされていないことを切に願うばかりです。
ノリで来たわりに随分と楽しむことができました。いつもは邪魔なだけなTwitterのプロモーションもたまには役に立つじゃないか。特典のクリアファイルをもらうために個人情報(メールアドレス)を差し出してしまったので、また案内が届いたり届かなかったりするのでしょう。ご縁があればまた遊びに来たいと思います。
余談
作品名のそばに「売約済」の札がいくらか貼られていました。これはつまりいくらかの人が購入を決めた証です。この手の嗜好品は、一括で買う人が多いのか、ローンを組んで買う人が多いのか、そのあたりが気になっています。学生時代は手の届かない高級品というイメージしかなく、何となく勝手に、一括で買えるくらい余裕のある人の趣味という偏見を抱いていましたが、実際はそうでもないのかしら。販売員さんに聞いてみればよかった。個人的には絵を見る度に「まだ返済が……」という感情を抱きたくないのでどうせ買うなら一括でドーンと買いたいです。5000兆円欲しい。
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