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サガットが来る。

その日は、家の整理整頓をしていた。

アマゾンで買ったものを収納しているダンボールが多くなってしまったので、それをたたんでは紐でくくりつける作業に没頭していた。今日はやけに暑い。

私の部屋はクーラーがないので、窓を全開にして扇風機をつけて暑さをしのぐしかなかった。照りつける太陽を凌ぐものはなく西日が直接窓から入ってくる。

そんな暑さを我慢しながら紐をダンボールに十字でくくりつけ最後に紐を結んでいらない部分をハサミでチョキンと切ったところで、猫背に曲がった腰をようやく解放し、そのままベッドに後ろから倒れ込んだ。

眩しい光を腕で覆い視覚を塞いでいると、セミの鳴き声が異様に耳に入ってくる。
五感が聴覚に集中していた。そのまま眠りに入ろうとうすらうすらしていると、
「ドォン!」と鈍い音が聞こえてくる。私の部屋は2階にあるので、明らかに1階から聞こえて来る音だった。

何かが倒れたりでもしたのかな?そんな風に思いながらも気にせず眠りにつこうとしていると、「ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!」と何度も音が響いてきた。明らかに普通の音じゃない。少し怖いが、部屋のドアをそっーと開けて、周りを見渡して見る。

誰もいない。誰もいないが音は止むことなく何度も何度も響いて来る。

やっぱり1階のほうからだ。

私は勇気を振り絞って、一回に降り立ち、音のする方へ歩み寄る。

音は入り口のドアから聞こえてくる。
近づけば近づくほど、音のボリュームがより大きく、そして激しく鳴り響いていく。

入り口まで恐る恐る覗いて見ると、音がなるたびにドアが震えて、蝶番がギリギリのところで保っているがいまにも壊れてしまいそうだ。

向こうにいる何かがドアを破壊しようとしている?

怖さで足がすくんでしまいただ呆然と立ち尽くしてしまっていると、
蝶番が一つぶっ飛んで、半開き状態になってしまった。

そこからドアを壊した何かが少しだけ確認できる。

その姿を見て私は驚愕した。
ドアの隙間から見えるのは首から上が入り口で見えないほど長身の男。
2メートルはあるのではなか。

上半身裸で、グラップラー刃牙に出て来るような肉体が見える。

そこから、怒号な大声でその大男が叫ぶのだった。

「タイガー!」

その掛け声は、よく知っている。
いつまでたっても倒せなかった忌々しき思い出。
長身の中ボスでムエタイの使い手。タイガーショットに何度も苦戦を強いられた。

掛け声と同時にドアが破壊され大破する。
砂煙とともにシルエットだけが目の前を覆い、入り口を頭を下げながら家に侵入してきた。

青い短パンと包帯をぐるぐる巻きにした手足。右目の眼帯。

そう、こいつは、、、

**

ストリートファイターのサガットだ!**


サガットがこちらに向かって走って来る。
私は無我夢中に階段を駆け上がった。
一体何が目的で、私を追っているのか、たぶんそこに理由はない。
そうここはもはや戦場と化したバトルフィールドなのだ。そこには私とサガットだけ。
これがストリートファイト。いや私の家の中だからマイホームファイトだ。

階段をもぼり切って奥の部屋に逃げ込むが、覚悟を決めて振り返る。
そして階段を上ったサガットに向かっていった。
サガットはタイガーシュートで応戦して来る。

私はこのタイガーシュートに苦戦を強いられたものだ。上ガードとしゃがみガードをうまく使い分けることが苦手でいつも相手のペースにもっていかれる。

だけど、私もやられてばっかりではない。相手の上タイガーシュートをしゃがみながら避け、
下タイガーシュートに対してはジャンプで避け切った。

そして走って勢いそのままにサガットにタックルを食らわした。私は高校時代にラグビー部に所属していて、タックルを得意としていた。当時部活の仲間からつけられたあだ名が、「闘牛」だった。まさかここに闘牛がいたとはサガットもさぞかし運が悪い。

タックルを相手の溝うちに叩き込み、そのまま階段下に一緒に滑り降りた。相手が怯んでいるうちに一階のベランダから外に出ようとしたのだが、頭の後ろをすごい風圧が風を切った。私はそれに驚いて、転んでしまう。

後ろを振り向くとサガットの長い足が壁にめり込んでいる。2メートルの巨体を支えている脚から放たれるキックは普通の人間が耐えられるような威力ではなさそうだ。

私は足が立たなくなって後ろに退く。サガットはムエタイの構えでいまにも攻撃を仕掛けてきそうだ。

私は心の中で「また勝てなかった。リトライは可能なのかな?」
「リトライするときはまた体力ゲージはマックスなのかな?」そんなことを考えているうちに、、、

目が覚めた。そこは東京のアパートの一室。
布団にうつ伏せの状態でヨダレを垂らしながら寝てしまっていた。

どうしてこんな夢を見てしまっていたのか。
サガットとの思い出はまさに「ストリートファイター2」でベガまでたどり着かずにいつも嫌気がさしてやめてしまったことだ。

いつも中途半端に諦めグセがついてしまっていた。サガットを乗り越えることができれば、ゴールまで上り詰めることができるのに、そんなことを改めてサガット自身が教えてくれた気がした。

夢占いには「人と戦う夢」は「いつかは対決しなければいけない真実の存在」「周囲に惑わされて自分を見失っている」という意味があるらしい。

まさにその通りだった。

いつかは対決しなければいけない真実の存在はいまパッとは思いつかないが、
まずはスーパーファミコンのストリートファイター2でサガットを倒すことからはじめてみるとしよう今度はブランカの電気でビリビリにしてやるから待っていろよ。

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