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選手のモチベーションを助長する4つのコーチングパターン

トレーナーは、日々選手のパフォーマンス向上、怪我の予防のためにトレーナーとして知識やスキルを選手に伝える仕事をしています。選手たちに、自分たちの考えを明確に伝えるためにはコミュニケーション能力が必要になります。

そして、自分たちの考えをもとに選手たちを正しい方向に導くためにはコーチングスキルについて学ぶということが必要不可欠になります。

今回のテーマは、そのコーチングスキルの一つとして、『選手のモチベーションを助長する4つのコーチングパターン』について皆さんと考えたいと思います。

ことわざで『飴(アメ)と鞭(ムチ)』というものがありますが皆さんはこれをうまく説明できますか?

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故事ことわざ辞典によると、飴(アメ)と鞭(ムチ)とは 「しつけなどにおいて、甘やかす面と厳しくする面を併用する例え。また、一方でおだてと脅しを併用し、人を支配すること。」

「おだて?」「脅し?」や「支配?」といったネガティブなワードが多いですね。

詳しく解説すると。。。

「飴」は譲歩のあらわし、「鞭」は弾圧をあらわします。この表現は、十九世紀の鉄血宰相ビスマルクの政策を評した言葉から来ており、
ビスマルクは、社会保険制度により労働者を優遇する一方で、社会主義者鎮圧法を制定し、国を支配した人物。
そんな彼の主導法を「甘パンと鞭」という慣用語で表現したのが始まりだそうです。

難しいですよね。。

このように言葉の語源や歴史をたどると難しくもなり、深い意味が見えてくることもあります。

*逆に複雑になってよくわからなくなる時もあります。笑

ただ、スポーツ現場でコーチングの技法として用いられる場合は、「アメ」は助勢・助長のための励ましや称賛をあらわし英語では"Reinforcement"と表現され、逆に「ムチ」は罰則をあらわし英語で"Punishment"と表現されます。

そしてなぜ飴(アメ)と鞭(ムチ)の話をしたかというと

今回、解説する『選手のモチベーションを引き出す4つのコーチングパターン』の例が以下の通りです。

アメ
1、正の強化 Positive Reinforcement: 例)優勝したらメダルがもらえる
2、負の強化 Negative Reinforcement: 例)試合に勝ったら明日の練習は休みになる
ムチ
3、正の罰則 Positive Punishment: 例)試合でミスをしたので罰走を課す
4、負の罰則 Negative Punishment: 例)試合に負けたので休み返上で練習する

どうでしょうか。スポーツの事例に置き換えて考えると少しわかりやすくなったかと思います。
スポーツ現場では、こういった事例はよく見かけるのではないでしょうか?

私の日本とアメリカでの経験上、ここに書いてあることは日米どちらのスポーツ現場にも共通する事例です。(Body Updationトレーナー中田史弥)

では、心理学を用いたコーチング学の観点から、これらの4つのパターンはそれぞれどのようなモチベーションを助長するのか解説したいと思います。

1、正の強化 Positive Reinforcement(アメ): 優勝したらメダルがもらえる

これは、選手が何か成功体験をした場合に見返りや賞与を与えるコーチング法です。優勝した選手にメダルを与えられたり、成績の良い選手の年俸が上がったりというのが例になります。このパターンで助長されるのは、外因的モチベーションになります。選手は見返りや賞与を目標に頑張るようになります。
また、選手の良いプレーに『ナイスプレー』と声をかけたり、拍手をして選手の成功体験を称賛してあげることもPositive Reinforcement の一例です。これをすることで、プレーする事に「楽しさ」や「喜び」が生まれ内因的モチベーションの助長にもつながります。

2、負の強化 Negative Reinforcement (アメ):この試合に勝ったら明日の練習は休み

これは、選手が何か成功体験をした時に選手が望ましくない事を取り除くコーチング法です。試合に勝ったら辛い練習が休みになる、この大会で優勝すると次大会のシード権が貰える(=試合数が減る)などはこの一例です。ウォーミングアップやトレーニングのシーンだと競争種目で一位の選手がメニューを終了できる「一抜け」もこの例に当たります。このパターンもうまく応用することで、パフォーマンスゴールとそれによっての見返りが明確になるので、外因的モチベーション、内因的モチベーションの両方が助長されるので選手の良い取り組み・行動を継続、強化することが期待できます。

3、正の罰則 Positive Punishment(ムチ):試合でミスをしたので罰走を課す

これは、選手が何かミスをした時に罰を与えるコーチング法です。試合でミスをした選手に罰走を課す事やトレーニングの競争種目で負けた選手・グループに腕立てやバービーなど罰を与えることが例になります。このパターンで助長されるのも外因的モチベーションになります。しかし、上記の2つのパターンとは異なり、「罰を受けない」という保守的な考えが選手のゴールになってしまいかねないので、指導者が導きたい本筋から選手が外れていく危険性もあります。

4、負の罰則 Negative Punishment(ムチ):試合に負けたので休み返上で練習する

これは、選手が何かミスをした時にその選手が望ましいと思っていることを取り除くコーチング法です。試合に負けたので休み返上で練習するなど、成績が良くなったプロ選手が減俸になるのもこの一例です。これも「3」と同じく「罰を受けないため」という保守的な動機が助長されてしまいかねないので、指導者が導きたい本筋から選手が外れていく危険性があります。

ただし3、4、の手法は間違った取り組みを軌道修正したり、正したい場合には有効である場合があるので、応用次第で必ずしも“悪”というわけではありません。

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まとめ

われわれはトレーナーという立場でトレーニングやウォーミングアップ、怪我の対応、治療、リハビリとさまざまな形で選手と関わっています。普段の生活、練習内、練習外に関係なく指導者として選手とのタッチポイントの端々から選手は学び、行動し成長していくと考えると指導者の責任というのは大きいです。

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トレーナーとして選手と接する時に、その一瞬一瞬の選手との会話や指導の仕方が『どのように選手のモチベーションを助長するのか』を常に意識をして、言動や行動、指導法に明確な理由・目的を持つことが非常に重要ではないかな思いますし、それがプロフェッショナルではないかなと感じます。

今回ご紹介したこの『選手のモチベーションを助長する4つのコーチングパターン』の使い方は、その対象となる選手の年齢や競技レベル、または選手の目標によっても異なります。パフォーマンス向上が目的の指導と教育的目的の指導の際にも異なってくると思います。

それぞれの目的・用途に合わせて使い分けながら、選手の望むゴールに選手を導くために役立てていただければ幸いです。

追記:

飴と鞭についてインターネットなどで調べると言葉の成り立ちから「指導や支配のための手法」と表現されているものがあるので、誤解を産まないために大前提として強調しておくと、ここで話している内容は、指導や支配ではなく選手の夢や目標を応援するという意味で『モチベーションの助長』ということが最大のキーポイントです。Athlete-Centered Coaching(プレーヤーを中心としたコーチング) を忘れないようにしましょう!

Body Updation トレーナー 中田史弥

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