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名作探訪 その21 このタイル欲しいでしょと相手を揺さぶるゲーム 『キーハーベスト』

こんにちは、ボードゲームデザイナーの山田空太といいます。

今回は、ボードゲーム 名作探訪シリーズ その21をお届けします。

本日ご紹介するゲームは、リチャード・ブリーズ作の『キーハーベスト』。畑タイルとワーカータイルを農場ボードに配置して、ボード上を豊かにしていく箱庭系のゲームです。畑タイルを獲得するために、プレイヤー間での独特の売買を介するところが特徴です。

最近、yucataでも遊べるようになっていて、久々に遊びました。対面の方が断然面白いんですが、デジタルでも十分に面白いです!

ボードゲーム 名作探訪 :  皆さまに是非とも遊んでほしいボードゲーム紹介のシリーズです。1990〜2015年くらいのファミリーストラテジーのゲームを中心として、100作を目指して書いております。

前回の記事はこちらからどうぞ⇩

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作者であるリチャード・ブリーズは、R&Dゲームズを自ら創始して、"Key"がタイトルにつくキーシリーズに携わってきました。『キーハーベスト』は、そのキーシリーズの第5作目。キーシリーズは約2年に1度新作が出版されていて、『キーフラワー』がその代表作と言われています。

キーシリーズは、インタラクションが強めの中量級〜重量級のゲームが多く、『キーハーベスト』はらしいところが詰まった一作です。

キーハーベスト /  Key Harvest

Designer : Richard Breese
Artists : Juliet Breese , Mike Doyle 
Publishers : R&D Games
(2007)
2-4人
好み:AA
プレイ時間:60-90分

ゲームの概要

農場を表す個人ボードに畑タイルを置いていき、農場を発展させるゲームです。畑タイルには作物が描かれていて、収穫アクションを選ぶとその作物を得られます。

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全員が同じ個人ボードを持ちますが、ボードにはアルファベットと数字が振られていて、各ヘクスに対応する畑タイルは1枚だけしかありません。他プレイヤーと欲しい畑タイルがかぶることがあります。

畑タイルには、ホップ、りんご、ワイン、野菜、麦の5種類がそれぞれ同枚数あります。

場には、常に6枚の畑タイル並びます。畑タイルは、場から直接購入するのではなく、一度自分のストアに自分で値段をつけて置きます。手番が1巡する間に。他の誰からも購入されなかったら、ようやくその値段で購入できるという方式。自分で買いたいから、安く値付けしたいけれど、安くしすぎると買われちゃうかもしれないというジレンマ。競りのような相場観が試されるのです。

このように自分で値段をつける売買スタイルは、『コンテナ』や『アイル・オブ・スカイ』でも見られますね。

ゲームの進行は、4つの選択肢の中から2つを順番に選ぶということを繰り返します。

*手番の行動:
・収穫:自分のボードにある畑から作物を収穫する。繋がっている畑からは一度に収穫できる。ゲームタイトル的に最重要なアクションに思えるが、畑は一度収穫すると裏返され、それ以上収穫できない。
・ワーカーの配置:ワーカータイルを自分のボードに置ける。ワーカータイルには特殊能力があるが、書かれた数字以上の畑タイルに隣接しなければ置けない。
・畑の購入:自分のを含め、誰かのストアから畑タイルを1~2枚購入し、自分の農場ボードに配置する。
・畑の売り出し:場から、1~2枚の畑タイルを自分のストアに値付けして売り出す。

*勝利点は:
・最も大きな畑のタイル枚数 x1
・2番目に大きな畑のタイル枚数 x2
・ワーカータイルの数値合計
・各作物のマジョリティ x1

ゲームの終了条件は、10枚目のイベントタイルがオープンされたときです。

以上がゲームの流れになります。


やはり、このゲームの特徴は、畑タイルを自分のストアで値付けをして売り出すこと。もし1ターンの間に他プレイヤーが買わなければ、自分の付けた値段で配置することができます。なので、安くしすぎると買われるし、高くしちゃうと貴重なリソースを消費してしまう。

そして、その売買システムを成立させるために、各ヘクスのタイルは1枚しか存在しない。なので、相手のボードの状況観察が必須になるのです。

「Aさん、この畑タイル、欲しいだろうなあ。ギリギリ買えるくらいのちょっと高めに設定しておこう」
「ここのエリアを繋げたいな、+4点になる。Aさん、Bさんにとっては不要なエリアだし、誰にも買われないだろう。でも、、万一買われたらやばいな、どうしようかな」

こんなようなことを考えいてくゲームです。

さらに、特殊能力をもつワーカータイルっていうのがあります。ワーカータイルは、その数字がそのまま得点になり、そして配置条件になっています。数字と同じ枚数以上のタイルに隣接しないと配置できません。なので、ワーカータイルを配置するために、わざと凹ましたりもします。このワーカータイルがゲームのバランスを取っているといえるでしょう。

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ゲームデザインの観点から

『キーハーベスト』は、タイルのとり方にやや強めのインタラクションが設置された、変化球的な箱庭ゲームと個人的には捉えています。箱庭ゲームなのに、常に相手の箱庭を観察しておかないといけないゲームなので、インタラクションは強めといえるでしょう。

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(上イラスト)一般的な箱庭ゲームの構図

さて、『キーハーベスト』はどのような構成になっているでしょうか?

✳︎ タイルのとり方は、プレイヤー間の売買という特殊系。
❶ タイルの形は、ヘクスタイルのみ。
❷ タイルの置き方には、制限はなし。
❸ タイルの機能は、作物が生成されるのみとシンプル。
❹ 得点は、(最大の畑) x 1 、(2番目に大きい畑)x2などと工夫あり。

✳︎その他:ワーカータイル・イベントタイルという特殊タイルあり。

箱庭ゲームの構造としては、タイルのとり方に重きが置かれている以外は、シンプルです。

ただし、『キーハーベスト』では、その他の要素が強く作られています。基本の箱庭ゲームに、ワーカータイルという獲得方法も置き方も機能も異なるものが別に挿入されていて、さらにランダムで混ぜられたイベントタイルでアクセントを加えるという手段がとられています。


つまり、『キーハーベスト』のゲームデザインの比重は、こんな感じでしょうか?

✳︎ タイルのとり方:60 %
❶ タイルの形:0 %
❷ タイルの置き方:0 %
❸ タイルの機能:5 %
❹ 得点:15 %
✳︎その他:20 %

タイルのとり方、つまり独特な売買システムをゲームの核に据えつつ、得点方法とその他の要素(特にワーカータイル)がサブシステムとしてゲームを引き締めているのです。

✳︎箱庭ゲームの構造と作り方に関しては、こちらのnoteもおすすめです。


従来の箱庭ゲームでは、自分の箱庭を充実させることに専念できるものが多いです。しかし、『キーハーベスト』は、いわゆる”箱庭作り”的な楽しさはあまりありません。多少のパズル要素はあるものの、箱庭の見た目はほとんどスポイルされ、単なる機能でしかありません。

そして、他人の箱庭(農場ボード)の状況を常に観察しておかないといけません。なぜなら、相手の欲している畑タイルを把握しておかないと、タイルの売値が設定できないからです。

キーシリーズ全体に言えることですが、平和で豊穣なアートワークとは反対に、ゲームデザインはいい意味で尖っていてひねくれている。

同じヘクスタイルを使った箱庭ゲームで、『ブルゴーニュ』がありますが、こちらは間接的なインタラクションに終始するのに対して、『キーハーベスト』は接近戦を辞さないファイトスタイル。

まずシステムありきではない。面白い場面を生み出すためにどうすべきかという逆算のゲームデザインだと思います。インタラクションは最近のゲームに比べると総じて高く、いやらしいゲームが多いですね。

まとめ

『キーハーベスト』は、相手の箱庭の状況を常に見ながら進む、箱庭ゲームです。

自分で値付けをして他プレイヤーに売るゲームでは、『コンテナ』や『アイル・オブ・スカイ』などがありますが、値段をお金ではなくて、リソースの組み合わせにしたことで、深みが出ていると思います。

収穫ゲームっぽい感じで、拡大再生産的なものもあるのかなと思ったのですが、収穫は1ゲームで1度切り。きつい!この割り切りが結構すごくて、我慢ゲームでもありますね。

キーシリーズの中で、個人的には『キーハーベスト』が一番好きです(『キーダム』『キーウッド』とか未プレイですが)。ちょうど良い感じ。『キーフラワー』はちょっとこねくり回し過ぎかなって。

少し手に入りにくいゲームですが、面白いです。遊んでみる価値は十分にあると思います。


今日のnoteは以上です。

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