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新版 『ラララうちゅう』 ちょっとマニアックな制作記録

こんにちは!ボードゲームデザイナーの山田空太です。

今回は、今秋発売予定の新作:新版『ラララうちゅう』の、ちょっとマニアックな制作過程の記録です。ルールやアートワークの細かなところについて書いています。

ゲーム概要につきましては、こちらのnoteをぜひどうぞ。

1. もともとのコンセプトのようなものとゲームのメカニクス

さて、新版の前に初版『ラララうちゅう』のことをちょっと書いておきます。初版は2018年に発売しました。当初のコンセプトは、大人と子供が対等に遊べるゲームでした。メカニクスの面で見ると、序盤のアイドリングのないセットコレクションでした。

◆セットコレクションについて

セットコレクションは、ざっくり言うと、「同じ種類のものをたくさん集めると、たくさん得点できる」っていうものです。所定の枚数を集めることで得点になるというものや、特定の組み合わせのセットにすると得点になるというのもあります。

セットコレクションというメカニクスは、アナログゲームの基本中の基本のメカニクスです。簡単で応用範囲が広く、実装しやすいメカニクスです。実際に、様々なボードゲーム・カードゲームで、メインのメカニクスとしても、サブのメカニクスとしても使われています。麻雀とかポーカーも一種のセットコレクションですね。

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単純な仕組みなのですが、セットコレクションだけでゲームの枠組みができてしまいます。例えば、「同じカードを3枚集めると、勝利する」というケースを考えてみましょう。あるカードを既に2枚持っているプレイヤーにとって、あと1枚で勝ちになるので、そのカードの持つ価値が高くなりますが、1枚も持っていないプレイヤーにとっては価値が低いです。同じカードなのに、プレイヤー間で価値が異なってくるのですね。もしこれがお金だったら、常に同じ価値しか生みません。

ぼくは、このセットコレクションというメカニクスが好きで、以前に作った『でんしゃクジラ』は、セットコレクションを意識して作ったカードゲームでした。その続編の『でんしゃサウルス』もセットコレクションのゲームです。

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『ラララうちゅう』の制作中も、セットコレクションについてあれこれ考えていました。初版、そして今回のパワーアップした新版では、このセットコレクションについて自分なりの答えが出せたんじゃないかなと少し満足しています。

◆序盤のアイドリングとは・・・?

『ラララうちゅう』は、たった6手番しかありません。手札と場札を6回交換するだけ。それ以上でもそれ以下でもないです。

6手番しかないというのは、通常ならカードを集めたり揃えたりするはずの序盤をすっ飛ばしているからです。麻雀でいうと、常にイーシャンテンくらいから始まるようなものです。つまり、アイドリングなしで、いきなり終盤戦から始まります。

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さて、では序盤のアイドリングとは何でしょうか?

往往にしてセットコレクションでは、最初の2−3ターンがゆるっとした選択になることや定石的な動きになることがあります。何も所有していない状態なので、最初の数枚はどれを集めてもまあ同じだなってこともあります。

ゆるっとした序盤が、決して悪いわけではありません。ゲームの中の緩急の”緩”に当たるところで、相手の動向を見たり、相場を考えたりと、ゲームの中での盛り上がりを作るために大切な時間でもあるのです。しかし、『ラララうちゅう』は10分程度の短時間ゲームです。緩急は重視されません。序盤をざっくり切りました。

どちらの色を集めるかの選択のジレンマを最大化した6手番という感じで、最初の一手から終盤のようなゲームを目指したのです。

◆それで、実際どういうゲームになったのか

『ラララうちゅう』は、トランプの『51』のような手札と場札のカード交換という仕組みを使っています。『51』はトランプのゲームの中では、戦術性の高いゲームです。流れが一気に変わる「総替え」があったり、ストップのタイミングの駆け引きがあったり、カウンティングが必要なゲームであったりします。

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しかし、『51』では、ストップをかけたプレイヤーの手番でゲームが終わるため、手番順の影響が非常に大きいという側面があります。そこで『ラララうちゅう』では、手番順の問題を解決するために、手番数を固定し、手番順についてある一定のルール(”緑”の宇宙人の角の数)を設けました。

なので、トランプの『51』とドイツゲーム的なセットコレクションをかけ合わせて、ゲーム開始時から一気に終盤のようなゲームになりました。

で、結局初版は、こんな感じのルールになったのです。めっちゃシンプル。

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初版『ラララうちゅう』の遊び方(2018)


2. そして、新版では何がどう変わったのか。

ここからは、新版でどこが変わったのかを解説します。

プレイヤー人数に応じて手札枚数の変更

初版では人数に関わらず手札4枚、場札4枚で固定でした。新版では、2,3人プレイでは手札5枚、場札5枚になりました。これ、やってみると、かなり良い改案でした。新たに追加されたカードを除くと、合計60枚のカードですが、3,4人プレイの場合ちょうどカードを使いきることになりますカードを使い切るので、カウンティングも大事になります。

この変更によって、2人から4人、どの人数でもプレイ感に大きな差がなくなりました。2,3人プレイでも十分な面白さが担保できるようになったと思います。

各色の得点の見直し!

ラララうちゅうはシンプルなゲームである分、ゲームデザイン全体において、得点の換算方法の比重が大きいです。具体的には、ある宇宙人カードを3枚集めると4点にするか、それとも5点にするか、この1点の差でゲームがガラリと変わってきます。

たかが1点、されど1点なのですね。そのため、行きつつ戻りつつしながらテストプレイしを重ね、得点バランスを調整しました。例えば、”青" が相対的に弱かったので青の得点を大きくしたり、”赤”の得点バリエーションを増やしたりしました。何度もやり直したので、良いバランスになったと思います。

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パスの禁止!

初版では、パスは許容していました。なので、交換せずに、ずっとパスすることも可能だったのです。最低3手番で終わるゲームでした。それはそれで面白みがあったのです(だって、3回パスをしても成立するゲームというのは尖っています)。しかし、皆がパスすると場が硬直してしまうというデメリットがありました。

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新版では、パスを禁止しました。必ず、手札と場札を交換しなければいけません。しかし、同色同士の交換は禁止です。同色交換をOKにすると、結局パスと似たような結果になるのです。この同色同士の交換が禁止という単純なことをなかなか思いつけなかったのですが、このルールによって光が見えました。なので、ゲームで行うことは「手札と場札を6回交換するだけ」。明快ですよね。

往々にして、明快さは重視すべきポイントです。特に短時間のゲームはそうですね。

新色 ” 紫 " の登場

新色 ” 紫 " が新登場します。1枚もなければ、マイナス2点。でも3つ集めるとプラス4点です。【1枚はあった方がいい。でも3枚を目指すかどうかは状況による】というルールです。

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紫の得点アイデアはたくさん出しました。連番だと点数であったり、ボスと子分両方持っていると倍になるとか、奇数枚だとマイナス、偶数枚だとプラスになるだとか・・・。結局はシンプルなところに落ち着きましたが、他の色とのシナジーが生まれて結構良いと思います。


” 緑 " は背番号化

お気に入りルール!

緑はツノの数のマジョリティをプレイヤー間で競います。得点だけではなく、スタートプレイヤーを決めることにも関与します。初版では、ツノが同数の場合、カード枚数が多いプレイヤーが優先。それも同数の場合は、スタートプレイヤーの左隣のプレイヤー・・・と、ちょっと処理が複雑でした。10~15分のゲームで複雑さは悪なのです。

そこで新版では、【ツノが同数の場合は小さな背番号(腹番号)を持つプレイヤーが優勢】と整理しました。文章にすると意味がわかりづらいですが、実際やってみるとプレイがスムーズになりました。

新ラララうちゅうPRG

ルールを減らして、コンポーネントの中に説明しなくても頭に入るようにルールをすっと入れ込むっていうのが自画自賛のファインプレーなんです・・・!


◆アートワークは全て一から刷新

プロデューサー:自分
ゲームデザイン:自分
アートディレクション:TANSAN あさとさん
イラスト:自分
グラフィックデザイン:TANSAN あさとさん

という感じで、アートワークはあまりない感じのミルフィーユ体制になりました(難しい役割を背負わせてしまい、あさとさん、ごめんなさい・・・)。

僕はイラストレーターに徹しました。イラストのディレクションをスパルタにして欲しいと依頼したのですが、本当にスパルタに指導されて、今春は毎日イラストを描いていました。結果、ボツ案も含めて100体以上の宇宙人を書きました。その間はイラストレーターに徹していたので、指示されるままにイラストを書くのはとても楽しかったです。自分で判断しながらイラストを描くっていうのは、結構大変なんですよね。判断する人と、実際に手を動かす人は別の方が良いと改めて感じました。


3. 結論=個性のないゲーム!?

『ラララうちゅう』はすごく単純なゲームです。新版では、さらに角がとれて、ややもすると個性のないゲームになりました。

しかし、何度か遊ぶうちにジワジワと良いなあと思えるゲームになったと思います。”どこにでもあるような感じ”を作り出す方が、尖ったゲームを作るよりも、実はずっと難しかったりします。1ゲームやってみて、ちょっと足りないくらいの、刺激がやや足りないくらいの、そんなゲームは何度も繰り返し遊ぶのに向いています。

運の要素も程よいところに落ち着いています。新版では、この運と戦術のギリギリのせめぎ合いでどちらにも傾かないところに落ち着いたのではないかと思います。泣いても笑っても6手番しかありません。手札運が良いと、子供が大人に勝てることも十分にあり得ます。家族で遊ぶのにぴったりのゲームになったと思います。

2021年秋のゲームマーケット(11月)のイマジンゲームズのブースで発売予定です。






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