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ソーシャルセクターで働く人たちのメンタルヘルス~燃え尽きについて考える~

ソーシャルセクターで働く人たちのメンタルヘルスについて解説します。


1. ソーシャルセクターで働くとは?

ソーシャルセクターは、社会全体の福祉や公正を向上させるための分野であり、多くの専門家や献身的な人々が活動しています。具体的には、災害支援者、社会活動家、社会起業家、ソーシャルワーカー、医療従事者、教師など、多様な背景を持つプロフェッショナルが含まれます。これらの人々は、健全で公正で思いやりのある社会を築くために、さまざまな社会的問題の渦中で日々奮闘しています。

災害支援者たちは、天災や人災の際に迅速に現場へと駆けつけ、被災者の支援や安全確保を行います。彼らの専門的なスキルや経験は、多くの命を救っています。社会活動家や社会起業家は、社会の様々な問題点を改善するための活動や事業を展開し、積極的な変革を試みています。彼らは新しいアイデアや方法で、困難な課題に取り組むことを日常としています。

医療従事者たちは、私たちの健康を守るために夜昼を問わず尽力しています。彼らの知識と技術は、多くの人々の生命や健康を守り、質の高い医療サービスを提供しています。教師たちは、次世代の教育と育成に努め、知識や道徳、思考力を育てる重要な役割を担っています。

これらの職種の違いを超えて、ソーシャルセクターで働くすべての人々は、社会の改善と公正を追求し続ける共通の目的を持っています。


2. チェンジメーカーのメンタルヘルス

残念ながら、社会の変化を追求するこれらの「チェンジメーカー」は、高い精神的ストレスを経験している場合が多く、燃え尽き症候群やうつ病、離婚、慢性疾患の早期発症などのリスクが高まることが知られています。

3. 研究データに基づく現状

  • 2018年に英国のチャリティ団体や非営利団体の職員を対象にしたユナイトの研究では、ソーシャルセクターで働く42%の人が、仕事が自身のメンタルヘルスに影響を及ぼしていると感じていました。

  • ソーシャルワーカーを対象とした2016年の調査では、57%がエモーショナル・イーティング(心理的負荷を和らげるための食事)、35%が飲酒をストレス対処法としていました。さらに、63%が睡眠障害、56%が精神的疲弊を感じており、75%が燃え尽きるリスクを感じていました。

  • 人権活動家の中で、19.4%がPTSD、18.8%が部分的PTSD、14.7%がうつ病の症状を経験していました。


4. なぜソーシャルセクターで働く人々はリスクが高まるのか?

社会を変える仕事は難しく、トラウマを経験しやすい状況が多いです。たとえば、がん患者のケアに従事する医療者は患者の死を目の当たりにし、環境活動家は環境の破壊を見てきました。さらに、多くのソーシャルセクターの従事者は、自らが経験したトラウマと関連する仕事を選びがちです。例えば、いじめを経験した人がいじめ問題に特化した組織で働くことなどが挙げられます。


5.まとめ

ソーシャルセクターで働く人々は、社会をより良くするための貴重な役割を果たしています。彼らは、日々の業務を通して、多くの困難やプレッシャーに直面しながらも、社会のために尽力しています。災害の現場での支援、社会改革の取り組み、教育の場面での指導など、多岐にわたる領域での活動は、私たちの日常生活やコミュニティを支える不可欠なものとなっています。

しかしその一方で、このような高い献身性を持つ仕事は、従事者のメンタルヘルスに大きな負担をもたらすことが度々指摘されています。彼らは、人々の苦しみや社会的な不公平を直接的に目の当たりにするため、燃え尽き症候群やうつ病、ストレスなどのリスクが高まる傾向にあります。

このような背景を鑑みると、ソーシャルセクターで働く人々のメンタルヘルスをサポートし、持続可能な環境を提供するアプローチや仕組みの導入は、今後の社会的課題として非常に重要です。彼らが安心して仕事を続けられる環境を整えることは、持続可能な社会を築くための基盤となります。そのため、働く場の環境改善やメンタルサポートの体制の充実、さらには社会全体の理解や支援が不可欠となります。


2018 年に英国のチャリティ団体や非営利団体の職員を対象としてユナイト(Unite)が実施した研究では、ソーシャルセクターで働く人々の42%が、仕事が自身のメンタルヘルスに不調を及ぼすと感じていることが明らかになった(UNITE, “Charity workers suffering an epidemic of mental health issues and stress, survey reveals,” May 20, 2019, https://www.unitetheunion.org/news-events/news/2019/may/charity-workers-suffering-an-epidemic-of-mental-health-issues-and-stress-survey-reveals/
)。

2016 年にイギリスのソーシャルワーカー向けウェブサイトのコミュニティ・ケア(Community Care)がイングランドのソーシャルワーカーを対象に行った研究では、仕事のストレスへの対処法として、 57%がエモーショナル・イーティング(心理的負荷を和らげるための食事)、35%が飲酒をすると回答した。さらに、63%が睡眠障害を抱え、56%が精神的に疲弊しており、75%が燃え尽きの懸念があると述べた(Community Care, “How stress impacts social workers – and how they’re trying to cope, September 28, 2016, https://www.communitycare. co.uk/2016/09/28/stress-impacts-social-workers-theyre-trying-cope/
)。

これらの結果は、現場スタッフと経営チームの双方から報告された。人道支援の分野では、メンタルヘルスとウェルビーイングに関する2015 年の研究に参加した人権活動家の19.4%がPTSD(心的外傷後ストレス障害)、18.8%が閾値下PTSD(一部のPTSD基準を満たす状態)、14.7%がうつ病の基準をそれぞれ満たしていた( Amy Joscelyne et al, 2015, “ Mental Health Functioning in the Human Rights Field: Findings from an International Internet-Based Survey,” PLOS ONE 10(12): e0145188, https://doi. org/10.1371/journal.pone.0145188
)。

「わたし」を犠牲にせず社会を変えよう
SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 01 ソーシャルイノベーションの始め方』

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