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月の砂漠のかぐや姫 第243話

 地面はと言えば、まるで怒り狂った巨人が拳で地面を叩いて回った後であるかのように、歪んだ形をした大きな窪みがいたるところに見られ、そこに洞窟を流れてきた川の水が溜まっていました。これまで羽磋たちが歩いてきた洞窟は曲がりくねってはいたものの大きな陥没や隆起は見られなかったのですが、この地下世界では青く輝く水が溜まっている陥没した箇所がある一方で、隆起していて少しも水に濡れていない箇所もたくさんありました。また、羽磋たちが始めに目覚めた大空間では水面は一つにまとまって池となっていて、残りの岩が露出した地面部分とははっきりと分かれていましたが、この地下世界ではその様にはなっていないようでした。
 羽磋たちが見た限りでは、水に没しているところとそうでないところが複雑に入り乱れてはいるものの、隆起している部分を選んで進んでいけば水が溜まっている個所を避けることはできそうでした。でも、迷路のように繋がっている地面部分のどれを選んで進んでいけば行き止まりにならないのか、全く見当がつきませんでした。
「羽磋殿・・・・・・。これは・・・・・・」
「ええ・・・・・・、何なんでしょう。これは・・・・・・」
 王柔も羽磋も、何度も何度も地下世界を見回すのですが、なかなか明確な言葉を発することができないでいました。
 狭い洞窟は広大な地下世界に繋がるところで扇を広げたようにパッと広がっていて、二人はちょうどその扇の部分、洞窟と地下世界の境い目に立っていました。洞窟から地下世界へ流れ込んだ川はそのまま真っすぐに進んで行き、少し先の大きな窪みの中で大きな池のように溜まっていました。その窪みからは何本かの水の流れが出て行っていて、また別の窪みへと繋がっていました。そして、その先でもまた同じように窪みと水の流れが繋がり合っていて、それらはまるで網の目のように絡みあっているのでした。
 洞窟は基本的に一本道でしたから、その中を奥に進んでいけば良かったのです。羽磋は洞窟の奥に精霊の力の源があるかもしれないとは考えていました。馬の足音を聞いてからは、出口があるかもしれないとも期待していました。ただ、進む先を選ばないといけない状況がもう一度来るとは、考えてもいなかったのでした。
 精霊の力の源がどのようなものかはわかりませんが、それを探すにしても出口を探すにしても、一体この広い地下世界のどこに向かって行けばいいのでしょうか。そして、もしも進むべき方向が定まったとしても、水を湛えた窪みとそれを結ぶ川の間に浮かび上がった葉脈の様に複雑に絡み合っている地面のどれを選択して歩いていけばいいのでしょうか。
「羽磋殿、あの天井の裂け目からは・・・・・・、出られませんよねぇ、やっぱり」
 王柔はさも残念そうな声を出しながら、高い天井を見上げました。
 王柔が言っているのは、地下世界の空を斜めに走っている光の柱の源、つまり、天井に開いている大きな穴のことでした。王柔も羽磋と同じように、これからどちらへ進めばいいのかを考えていたのですが、彼がまず考えたことは、あの天井にいくつも開いている大きな亀裂からなんとか外に出られないだろうか、と言うことだったのでした。
「あ、上ですかっ。そう・・・・・・ですねぇ。入ってきている光があんなに太いですから、天井に開いている亀裂はとても大きいものだと思います。ただ、洞窟の天井よりもここの天井はもっと高いところにありますから、あそこまで上がる手段がどうも無さそうに思います」
「そう、そうですよね。やっぱり無理ですよね。うん、そうだ。すみません、羽磋殿のお考えの邪魔をしてしまって」
 王柔にも深い考えがあったわけではなく、これは思いついたことをそのまま口にしただけのものでした。羽磋に天井まで上がる手段がないことを指摘されると、たちまち王柔は恥ずかしさでいっぱいになってしまって、慌てて自分の考えを否定するのでした。
「いやいや、そんなことないですよ、王柔殿。僕の方こそ下ばっかり見過ぎていました。王柔殿のおっしゃるように、上から出られればそれが一番良いんです。その視点が僕にはありませんでした。そうだ、あの天井を支えている大きな石の柱、何本も何本もありますし、それぞれが複雑な形をしています。ひょっとしたら、調べてみたら天井まで登れるような手掛かりがあるかもしれませんね」
 そんな王柔の様子を見て、羽磋は慌てて顔の前で手を振りました。確かに王柔の言う通り、外に通じる大きな亀裂が天井にいくつも開いているのですから、そこから外に出られればそれに越したことはないのです。自分はあまりに「どう進むのか」に考えを集中し過ぎて周りを見る余裕が無くなっていたと、羽磋は反省をしました。ここはヤルダン魔鬼城の地下。人智を超えた精霊の力が働く場所。常識で自分の考えを縛ってしまっていては、見るべきものが目の前にあっても、それに気が付くことができない場所だというのに。





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