【詩】 ファイルフォルダー
そろそろ、泣くのにも飽きてきた、夜半過ぎ
スマートフォンを取り出して、画像フォルダーを開いた
笑っているあたしの写真が、たくさん
中には、ピースサインをしているものまで
馬鹿みたい
あのとき、本当に笑っていたっけ
皆に合わせていただけじゃ、なかったっけ
あのヒトに、嫌われたくなかっただけじゃ、なかったっけ
自分が弱かっただけじゃ、なかったっけ
偽物だ
偽物だ
消えろ
画像フォルダーを選択して「削除」を押す
震える指で。涙で霞む画面を
消えろぉ。偽物のあたし
消えなかった
反転して表示されたのは、フォルダーの名称
あたしの指先は、「削除」ではなくて「名前の変更」を押していたのだ
ぽつん
スマートフォンの画面に涙が落ちた
安堵の涙
あたしは、間違えるところだった
自分で自分を、否定するところだった
自分で自分を、消してしまうところだった
反転したフォルダーの名称を、新しいものに変えた
「偽物のあたし」って?
違うよ
「頑張っていたあたし」にしたんだ
そして、もうひとつ作った。ファイルフォルダー
そう、これからのあたしのための、ファイルフォルダー
だけど、フォルダーの名称は、「新しいフォルダー」のまま
それでいいの
これに名前を付けるのは、今のあたしじゃない
そう、それは未来のあたしのお仕事だから
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