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11月の花嫁

ある日、80歳代のYさんの介護をされている娘さんから、

「娘(Yさんのお孫さん)の結婚式に母(Yさん)を出席させたい。看護師の付き添いをしてもらう事は可能か」

との相談を受けました。
介護保険や医療保険制度での訪問看護の利用には様々な制約がある為、自費対応なら付き添いが可能であることをお伝えしました。

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その後Yさんは物忘れが進み、自宅での生活が難しくなり、入所の為に訪問看護は終了となりました。

半年後に娘さんから連絡をいただき、私はYさんの付き添いとして結婚式に出席させていただくことになりました。

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ご自宅に伺い、娘さんと当日の準備や休憩できる部屋、酸素ボンベの手配、スケジュール等について細かな打ち合わせをしました。

さて、結婚式当日。

Yさんは入所されていましたので、私は施設のお部屋までお迎えに行き、着替えを済ませたYさんと介護タクシーで会場のホテルに向かいました。

黒のゆったりした素敵なパンツスーツが着慣れない為なのか、少し不満顔のYさん。

式が始まる前、親族控室で息子さんや親族の方と久しぶりに顔を合わせた時、それまで表情の硬かったYさんの顔が「パッ」と明るくなり、懐かしそうに親族の方と会話を交わされていました。

そして花嫁姿のお孫さんの横で、少しはにかむ様な表情で写真撮影。

式はガーデンウエディングでしたが、風の強い寒い日でしたので、Yさんと私は、新郎新婦お2人の姿が真正面に見える室内のガラス越しの特等席から、参加させていただきました。

Yさんはじっと2人の様子を見つめておられました。

披露宴が始まるまでの間、Yさん専用の休憩室でしばらく休むことにしました。
するとYさんがぽつりと私に向かって言われました。

「私ね、こうやっていても、ちっともうれしいと思えないの。変よね、おかしいでしょう。」

そう言ってYさんは黙ってしまわれましたが、少し悲しそうにも見えました。

披露宴ではYさん、隣の席のご主人のお酒をほんのちょっと拝借。
そして、お色直しを済ませたばかりのお孫さんの姿を満足そうに眺めておられました。

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朝からの長時間の外出の為、Yさんの体調を考慮し、Yさんは一足先に披露宴を退席して施設へ戻られる予定にしていました。

玄関ホールへ向かう私たちの後を追って、久しぶりにYさんに会われたYさんの息子さんが披露宴を抜けて見送りに来られました。

「母さん、じゃあなぁ。元気でなぁ。」

「あんたもねぇ。」

しばらくの間、涙で潤んだ瞳と瞳がじっと見つめ合っていました。

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人の「老い」というものは、今までの自分自身、身の回りの人々との関係、今まで出来ていた事や今出来る事を、少しずつ失っていく過程でもあると思います。
物忘れがすすんでいくこともまた、今までの自分自身、人生、人との関係、昨日の出来事、今日の出来事が自分の中から少しずつ脱落していってしまうことなのではないでしょうか。

Yさんは休憩室でそんな自分を嘆かれたのかもしれません。

でもYさんは、喜ぶこと、愛おしく思うこと、楽しむこと、憂うこと・・・。その時その時の心の動き、人と関わることや喜怒哀楽の感情そのものは忘れておられませんでした。

Yさんにとって式への出席は、失われていく自分を取り戻し、感情をよみがえらせる機会となったのではないでしょうか。

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病気やご高齢を理由に、周りに迷惑がかかるからと、冠婚葬祭の出席を断念される方は案外多いのかもしれません。

まだ先のことになりますが、私の娘が結婚式を迎える時は、是非、私の両親を出席させてやりたいと思っています。

冠婚葬祭の際に「来賓用・看護師付き添いオプション」なるものがウエディングプランから自由に選べ、介護が必要な方でも気軽に出席できるような、そんな時代となることを目指して。

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