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「他者と働く」私たちは弱さを抱えて生きていると読み解く

様々な書籍で参考文献として登場する「他者と働く」を読んだ。

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論は、互いにナラティブ(物語)の主人公として生きるもの同士の架け橋のススメである。

ナラティブ・アプローチは、ナラティブという言葉から連想されるように、「どう相手に話をするか」ということよりも、むしろ、「どう相手を捉える私の物語を対話に向けていくか」を主軸にしたものと言えます。
引用:P.36 他者と働くより

ナラティブアプローチは臨床心理学の視点であり、本書も学術的な視点がスタート地点だ。著者が出会った社会構成主義の思考がベースとなる。

4つの適応課題と技術課題とを分ける

正論が通らないことがある。

正しいと思っていることを論理的に伝えても相手に伝わらないことは往々にしてある。技術課題であれば、手法の問題なので合理的判断ができるはずだ。しかし、正しさの軸では解決できない適応課題が存在する。

本書では適応課題をハイフェッツたちより、ギャップ型・対立型・抑圧型・回避型の4つと定義。どれも想像できる言葉でコミットメントのギャップから対立が生じたり、発言にメリットを感じない抑圧になったりする。

また、回避とは本質的な問題に取り組まないともいえる。なぜ、このようなことが起きるのか。本書では人や組織の関係性によって生じる問題としている。これをまず知ることが必要で発見後のアプローチを促している。

この問題は各々(私とあなた)が持つナラティブ(物語=語りを生み出す解釈の枠組み)の溝と定義し、お互いの溝を埋める架け橋を用意することで、関係性に改善を促すアプローチを紹介している。

そのプロセスを日本流に合わせて、観察・解釈・介入の前段に準備を入れて再定義したのが本書の特徴だ。特に観察は様々なこの手の本で語られる重要な視座に感じた。そして介入には注意を払いたい。

介入は仮説検証であり、失敗時の学びは観察のフィードバックループを促す。このプロセスは何度も試すことはできないだろう。対象が物ではなく人だから。そのため、弱さを見せある関係の前提コストが必要に思う。

対話で適応課題を解消する=関係性を再構築する

アプローチには「対話」が必要と説く。この「対話」はマインドフルネスな状態がかかせないと感じた。

この記事で「私の思考」と定義した俯瞰・客観視は、観察において必要なことであり、本書でも、「私とそれ」と「私とあなた」を使い分ける必要性を説いている。この「私」のナラティブを認識する私が必要なのだ。

つまり、自分のナラティブの偏りを知ることで、相手のナラティブから生じる違和感をつかみ取る。次に、自分自身が変化によって適応課題に適した観察者となり、その現象にふさわしい架け橋を用意して介入する。

それができて初めて本書の対話に挑むことができると感じた。本書では事例を示して、対話の鍵となる答えではなくどうすればよいか?のやり方を教えてくれる。本書から伝わる対話が読者として優しいと感じる作りだ。

なすべきことをなすためのリーダーシップ

なすべきことをなすために組織に属しているはずだ。上司と部下の関係性なら、そのために主体性を部下に求めたり、問題意識を持ってほしいとつい促しがちなのがマネージメント層である上司の視点だろう。

しかし、ビジネスを戦略の渦で考える視点は支配的なメタファーになると本書より感じる。相手ではなく、組織に属した上司としての私のナラティブで対話を試みる罠に陥ってしまう。

実は主体性を発揮してほしいと思うことは、こちらのナラティブの中で都合よく能動的に働いてほしいと要求していることがほとんどです。
引用: P.124 他者と働くより

本書の指摘より、相手こと部下に何か(変化)を求める前にナラティブの溝の架け橋を提供する必要がある。その役割がリーダーシップだろう。権力でも迎合でもなく。

この理解があれば、リーダーシップは使い分けであり、私とあなたのナラティブの関係性において架け橋となるフィルターの選択肢と捉えることもできる。これを納得度や腹落ち感という言葉に置き換えて溝を受け入れたい。

組織の中にいることで主人公になれないと思う私たちへ

人が育つというのは、その人が携わる仕事において主人公になること
引用:P.122 他者と働くより

組織にいる人には主人公になってほしい。なぜ、対話をするのかといえば、お互いに生き生きと仕事をしたいと思っている状態を作りたいからだ。ここで、自分自身が誇り高い気持ちでいられることが大事と本書は説く。

対話に挑むことを別な言い方にするならば、それは組織の中で「誇り高く生きること」です。
引用:P.140 他者と働く より

対話による架け橋そのものがゴールではなく、その先にある誇り高く生きることが対話の目的であり、組織の中で孤独になると読み取った。このページから始まる文章が個人的には一番響いた。

私の人生のテーマは孤独を愛することだ。

孤独でいい。組織の中で孤独でいるということは誇り高き自分自身を形成すことだと言語化できてうれしかった。しかし、同時に孤立をしてはいけない。これは本書でも説いているが、孤立しては孤独にはなれないのだ

違いの溝は抱えてもいい。わからなくていい。受け入れていけばいい。あなたはそういう人なのだ。私はこういう人なのだ。思い込みを排除してその状態で組織を形成する。それでいいのだ。

ナラティブの架け橋を組織の場面によって使い分ける。それが対話だ。

働くってなんだろう。働いても幸せなのか。週5日8時間働き、それ以上に働くあなた。その組織構造にいるあなたは仕事やそれ以外の環境で主人公でいると思えているのだろうか。その気づきに対話が必要なのだ。

組織の支配的なメタファーに共通するのは、私たちは働く一人ひとりは組織を構成する部分であり、中心的な存在ではない
引用:P.171 他者と働く より

戦略でもって短期成果が必要な場面において、この歪みが蔓延すると組織の一人ひとりが主人公だと思えず誇りを持てない。これが、その人のナラティブに違和感の傷を残すのではないか。

この違和感が「私」をイライラさせたり、どうしてうまくいかないんだと感じる原因だ。違和感は他者によって気付かされることもある。対話で違和感の感度を常にあげたい。そして、この違和感は大切にしたい。

組織の中で「私」が主人公として常に立ち返るきっかけが違和感の正体だ。私がやらねばの気持ちへの変換だ。これがモチベーションだの生き甲斐だのといった言葉に繋がるのではないだろうか。

読書感想文総論

本書は著者の違和感が成した組織の気づきを集約した本だ。

組織の人と人の関係性に注目する。その関係性をつなぐ際に溝があり、この溝を発見し観察する。そのジャッジ(介入)を観察によって相手の視点を借りて問題解決に迫る。

その背景を知るにはナラティブ。その人なりの物語を知る必要がある。

相手には相手の事情があり、自分には自分の事情がある。その自分の事情をフィルターとして曇らせることなく傍に置いて相手のフィルターを借りて相手の世界を想像することが大事に感じた。

個人的には孤独と誇りは人生のテーマだったので、文中に出てくる考え方に共感。どんな組織にいても、自分自身が主人公と思えることが、誇りとなり、モチベーションにも生き方にも繋がるのだろう。

孤独は良いが孤立は避けたい。だから、マネージメントな役割を持つ人は、その孤立を避ける行動を取りたくなるのだが、その行動は私のナラティブなのかに陥ってないかは気づいておきたい。

参考文献も豊富で、ナラティブの考え方を医療分野の視点を借りて今後も学び続けたい。

最後に、著者はこの本を通じて読者との対話に成功した本である。解説していることがまさに対話の実践。読み終えることができたときに、新しい世界への架け橋を得たと思えるはずだ。

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