配色本を使ったイラストメイキング: しらこさん
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3年前に旅行でミャンマーを訪れました。当時はビザがなくても30日間までなら滞在できる制度があり、僕は通っていたスクールを卒業したばかりで特にすることもなかったので、欲張って30日間、ミャンマーに滞在することにしました。ミャンマー語は全く分からず、最高気温は35〜39℃くらいで毎日大変でしたが、それでも日本では見られないような景色をたくさん見ることができ、とても充実していました。
中でも印象的だったのが、首都ヤンゴンの至る所で見た、集合住宅と大きな木のセットです。生活感のある、エキゾチックな外観の集合住宅と、そのそばに生えている異常に大きな木の組み合わせは、異世界感が強く、迫力がありました。今回はその集合住宅と大きな木をモチーフに、絵を描いていきます。
1. アイデアスケッチ → 線画
まず、現地で撮った写真を参考に、ラフなスケッチを描きます。一発目でいきなり素晴らしい構図が描けるのは稀なので、難しいことは考えず、思い浮かんだ構図をぽんぽんと描き出します。するとどこかで「お、これはいいかもな」という構図が生まれるので、それまで頑張って続けます。
いいのが出たので、細部を描き足します。その際、全体的に満遍なく描き込んで情報量を増やすのではなく、一度絵を分析し、情報を増やすところと増やさないところを決めます。
人は絵を見た時、自然に「情報があるエリア」を見ようとします。情報があるエリアとは、描き込みが豊富であったり、人物がいたり、動いているモチーフがあったりするエリアです。現段階のスケッチでは、人物とその周辺と、その上の階のベランダの2箇所(黄色で塗った箇所)が情報があるエリアです。このままでは、2箇所を視線が行ったり来たりするだけで、あまり満足感の得られない絵になってしまいそうです。
そこで下の画像のように、新たに2箇所、情報があるエリアを足すことにしました。こうすることで視線に動きが生まれ、鑑賞者はいろいろなところを見ることになるので、より満足感の高い絵になるはずです。エリアが決まったので、写真を参考に、描き込んでいきます。
2. 配色を決める
以前の記事でも紹介した、「配色スタイル ハンドブック」(BNN)。今回はその続編である「配色スタイル ハンドブック 季節のコレクション」を使って、色を選んでいきます。タイトルの通り、配色パターンが季節ごとにまとめてあるので、自分の描きたい・表現したい季節が決まっていれば、とても使いやすい本だと思います。
ミャンマーは非常に暑かったので、「夏」のテーマの中から、いくつか配色を選んでみます。ただ、夏だけでも配色パターンは数えきれないほど載っているので、さらに条件を絞った方が良さそうです。今回の絵は大まかに、空・集合住宅・植物の3つの要素がありますが、植物は緑に近い色(黄緑〜緑〜青緑)で塗りたいので、緑っぽい色を含む配色パターンの中から選んでいきます。
まずはこの配色。グレー系と緑系だけなのでまとまりがよく、暑いけど、穏やかな夏の感じが出せるかなと思い、これを選びました。
最初に、4つの色でシンプルに塗り分けます。
続いて、それぞれの色を少し暗くした色を使って影をつけていきます。
このままだと色数が少なく単調なので、いくつか新しい色を追加します。面積が小さかったり、彩度が低ければ、ある程度新しい色を追加しても、元の配色の印象は崩れにくいです。
人物の頭にだけ使っていた暗い緑を、下の階の屋根にも塗ったところ、全体が一気に引き締まりました。
全体のバランスを見つつ、適宜新しい色を置いて整えます。
次に、この配色を試してみます。オレンジと青は補色の関係なので相性が良く、植物を青で塗るのも面白そうだったので、これを選んでみました。
先程と同様に塗り進めたのがこちらです。植物が青色で、ベランダの影がオレンジ色という、現実ではあまり見ない配色なので、少し不思議な雰囲気があります。配色を先に決めると、こういった自分の発想にない新しい配色が生まれるので、面白いです。
最後にこの配色も試してみます。前の2つが優しい配色だったので、鮮やか色でも塗ってみたいと思い、選びました。
同様に塗りました。個人的にはこの配色が、一番暑そうに見えます。影がはっきり落ちているわけではないので、おそらく黄という色自体が持つ「熱」を直接感じているんだろうなと思います。色ってすごい…
それでは、塗ったものを比べて、どの配色で描くかを選びます。どれもそれぞれの良さがあるので、かなり迷います。
迷ったときは線画を消してあげると、純粋に配色だけを見て比べることができます。それでも本当に迷いましたが、今回は左の配色で描き進めることにしました。暑いけど、少し風が吹いているような感じがして、最も心地よい配色だと思ったからです。
3. 描き込み
下塗りで割と細かく塗り分けていたので、その色をスポイトで拾いつつ、線画を塗りつぶすように塗っていきます。
絵を描く上で、配色を決めるのは、楽しく、難しい工程です。色彩理論の知識が十分にあったとしても、調和の取れた配色を1から作り出すのは簡単ではありません。そこで、この配色スタイルハンドブックのような本を使えば、自分のイメージにぴったり合う配色や、イメージはしていなかったけど試してみたくなる配色に、ページをパラパラとめくるだけで出会うことができます。
普段、色使いで悩んでいる方や、使う色の幅を広げたい方は、ぜひ使ってみてはいかがでしょうか。
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