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【最近読んだ本】1月に読んだ本をまとめてみた

1月はわりと本を読んだ。作品でいえば7つだが、分厚い大長編が多く、上下巻もあり、ページ数でいえばかなりボリュームがあった。
自分の記録として、軽く感想など綴っておこうと思う。

『月の立つ林で』著:青山美智子

昨年11月に出た青山美智子さんの新作。5つの短編がどこかでつながっていて1つの物語になっている、という筆者得意のパターンだ。「またこれか」という感じもするが、新作が出ると迷わず手に取ってしまうのは、やっぱりファンだからなのだと思う。

今回は読み終わった時、そのパターンであったにも関わらず、大きな感動があった。むしろ、そのパターンによる仕掛けに、見事にやられた。

病院を辞めた看護師、売れない芸人、二輪自動車整備士、女子高生、アクセサリー作家。それぞれが主人公の物語が描かれているのだが、共通しているのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト「ツキない話」を聴いているということ。
それぞれがあまりうまくいっておらず、悩みや葛藤を抱えながら、「ツキない話」を聴き、そこで語られる「月」の話に慰められたりヒントをもらったりする。そうして少しずつ前へ進んでいく。

少しだけネタバレになってしまうけど、最後の章で救急医療相談窓口に出た人が誰なのかわかった瞬間、なんだかたまらなくなって涙が出た。
ああよかった、あの人はちゃんと自分の居場所を見つけられたんだとわかったから。

物語に出てくる全員がどこかでつながっていて、何らかの役割を果たしていて、それぞれがもう一度輝こう、人と分かりあおうと一歩踏み出す。
そのひたむきさに胸打たれ、一人ひとりを応援したくなってしまった。

そして、最高に良い読後感。
「こういう感動があるから、本を読むことをやめられない」と思う。
本っていいな、小説っていいなと、最後のページをめくって本を閉じた時にしみじみ思う。そんな素敵な物語だった。

『水を縫う』著:寺地はるな

今年に入って読んだ寺地はるなさんの本はすでに2作目。この前読んだ『川のほとりに立つ者は』もよかったが、これはその何倍も好きだった。

先に書いた青山美智子さんと同じように、主人公がそれぞれ違う6つの短編から成る一つの物語で、主人公は「家族」。
わかりやすいので、本の帯に書かれていたものをそのまま書くが、

「男なのに」刺繍が好きな弟の清澄(きよすみ)
「女なのに」かわいいものが苦手な姉の水青(みお)
「愛情豊かな母親」になれなかったさつ子
「まっとうな父親」になれなかった全(ぜん)と、その友人・黒田
「いいお嫁さん」になるよう育てられた祖母・文枝

この家族が、姉・水青の結婚式のドレスをめぐって、時に悩み、時にぶつかりながらも、それぞれの立場や考え方を明らかにしていく。

「男らしい」とか「女らしい」って一体なんなんだろうか、と改めて思ったり、「自分が好きなものを好きと言えること」の大切さをしみじみ感じたり。
それから、刺繍が好きな清澄に、「石」がただ好きな同級生の「くるみ」が言った、こんなせりふが印象的だった。

「あのさ、好きなことを仕事にするとかって言うやん。でも『好きなこと』がお金に結びつかへん場合もあるやろ。私みたいにさ。でも好きは好きで、仕事に関係なく持っときたいなと思うねん、これからも。好きなことと仕事が結びついてないことは人生の失敗でもなんでもないよな、きっとな」

好きなことを仕事にできないと悩んでいる人がいたら、私もそう言ってあげたい。「それは人生の失敗でもなんでもないよ」と。それよりも、「好き」があるって、素敵なことだ。

ラストは感動というよりも、何か崇高できれいなものを見たような気持ちになって、すーっと涙がこぼれた。
あたたかい気持ちになる、本当に良い物語だった。

『死にがいを求めて生きているの』著:朝井リョウ

これ、読む時に気づいたのだが、「螺旋プロジェクト」といって伊坂幸太郎氏の呼びかけで始まった8作家による競作企画らしい。「海族」VS「山族」の対立を描く、などの共通ルールがいくつかある。

あれ?これだけ読んでもわからんのかなと不安になったが、「1冊でもおもしろいけれど、続けて読むともっとおもしろい」と書いてあったので、とりあえず1冊でも読めることがわかってホッとした。

ざっくりしたストーリーをいうと、6人の人物が、小学生から大学生になるまで「堀北雄介」と関わっていく様子をそれぞれの視点から描いている。
堀北雄介は常に目立つこと、「何者かになること」を意識している男だ。
小学生の頃なら「棒倒し」でヒーローになることにこだわるくらいなのでかわいいものだが、大学生になると北大のジンパ(ジンギスカンパーティー)の復活運動や学生寮の学生自治問題に関わり始める。特に何か信念があるわけではない。とにかく「生きがい」を求めているのだ。

そして、友人の「南水智也」は小学生の頃からずっと堀北雄介を常に近くで眺めている。最後の章まで智也の真意はつかめないが、最後に二人の関係性が明らかにされる。(ネタバレなので書きません)

朝井リョウさんらしい、平成という時代を生きた若者の心理をうまく描いている作品だった。
私のように昭和の人間は「ナンバーワン」を競わされたから、劣等感も多く抱き辛い思いもたくさんしたけれど、自分の「好き」を見つけることがうまかったように思う。
みんなが「オンリーワン」なんだといわれる時代を生きた若者は、逆に自分が「何者か」ということがあやふやになってしまうのかな、と感じた。

「螺旋プロジェクト」の本は続いて読んでいきたいと思う。

『風神雷神 上・下』著:原田マハ

原田マハさんの本は大好きで、結構な数を読んできた。
ダントツで好きなのは『リーチ先生』で、それは私が敬愛する民藝運動に関わってきた柳宗悦やこの時代を生きた陶芸作家たち(バーナード・リーチ、河井寛次郎、浜田庄司など)の生き様を描いたフィクションだからだ。
原田マハさんの想像とはわかっていても、自分が好きな人たちが生きて動いて話して、情熱をもって陶芸に打ち込む姿を読んでいると、彼らのことを身近に感じられて本当にうれしかったし、感動して何度も泣いた。

アート好きな人なら、ピカソやルソー、ゴッホ、モネなどを主人公にした物語も書かれているから、同じように彼らに「出会えた」気がしてうれしいのではないかと想像する。

今回の主人公は、「風神雷神図屏風」を描いた絵師の俵屋宗達だ。また実際に生きた人物のフィクションで楽しみにしていたが、正直に言ってこれは私にとってはイマイチの作品だった。
織田信長に「宗達」という名を賜り、天正遣欧少年使節の一員としてローマへ行くという話なのだが、あまりにも突拍子もないというか、フィクションが過ぎるというか……。いや、フィクションだからこそ、自由に想像の翼を広げて書けるわけで、「もしかしたらこんなことが本当にあったかも」と思って読めば楽しいわけだが、どうしても最後まで入り込めなかった。

といっても、さすがのマハさんで、上下巻を飽きることなく読ませる力はあるので、小説としてはおもしろかったのだけど。漫画にして少年ジャンプで連載すればいいんじゃないかなと、そんな感じだ。
宗達と天正遣欧少年使節の原マルティノが冗談を言い合うシーンなどを、なんとなく醒めた気持ちで読んでいる自分がいた……。

『燕は戻ってこない』著:桐野夏生

この間、川上未映子さんの『夏物語』を読んだとnoteに書いた時、紅茶と蜂蜜さんがコメントで「同じテーマを扱った本では、桐野夏生の「燕は戻ってこない」が重厚で的を射ていて好きです。もしよかったら!」とすすめてくださったので、早速読んでみたのだった。

ちなみに、私は桐野夏生さんの本は『OUT』しか読んだことがなく、それもこれが弁当工場で働く4人の主婦が死体をバラバラにするという話で、怖い話が苦手な私は最後まで読み切ったものの、それ以来、桐野さんの本を手にすることはなかった。

本作品はというと、北海道から東京へ出てきた29歳の女性・リキが非正規雇用ゆえの貧困から逃れるために自分の卵子を売ろうとするが、妻が不育症と卵子の老化で妊娠をあきらめている夫婦の依頼で、卵子を売るのではなく、代理母出産を引き受けることになる、という話。

「夏物語」を読んだ時に感じた「生命」とはなんぞや?ということよりも、社会的に「女性が出産すること」の意味や「生殖医療ビジネス」の必要性、「貧困と出産の関係性」などを考えさせられる作品だった。
かなりボリュームはあったが、2、3日で一気に読み終えた。読んでよかったと思う。
(紅茶と蜂蜜さん、ありがとうございました!)

『夏物語』著:川上未映子

こちらは下の記事の中で感想を書いている。


『川のほとりに立つ者は』著:寺地はるな

こちらも下の記事で詳しく綴った。

以上、1月に読んだ本7作品の感想をまとめてみた。

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