鉄道絵本レビュー(4) じょうききかんしゃビーコロ
鉄道絵本紹介、今回は、この本です
「じょうききかんしゃビーコロ」
作:ミノオカ リョウスケ
童心社
梅小路機関区が現役の頃が舞台
このお話は、小さなSLビーコロ(国鉄B20型)が主人公のお話です。
現在京都鉄道博物館の一部となっている、梅小路蒸気機関車館が、梅小路機関区として現役だった頃を舞台にしていると思われます。
機関区内で、入れ替え用機関車として働くビーコロが、入場してくる大型機関車達の活躍する様子に憧れ、自分も機関区を出て、本線を思い切り走ってみたい!!と夢を描きます。そして、機関区のみんなの協力を得て、ついに本線走行を実現する物語です。
前回紹介した「あかくんでんしゃと走る」
と同様に、主人公の車両に人格があるタイプのお話です。と言ってもあかくん、の方は主人公の車「あかくん」が1人で喋っていて、特に車両に顔が描いてあるわけではなく、他の車両や人と会話したりするものではありませんでした(登場する電車、江ノ電旧500型も喋らない)。
この「じょうききかんしゃビーコロ」では、機関車同士、会話もするし、表情もあります(よく見ると、顔があるのはSLだけで、他のディーゼル機関車やディーゼルカー、客車や貨車には顔が描かれていません)。が、きかんしゃトーマスのように、顔が前面にバーンとあるタイプではなく、実車の煙室扉に、さりげなく点と線で目と口が書き加えられている感じです。よくある!?ヘッドライトや窓に目がある、みたいな表現とも違っていて、オリジナリティがあっていいなと思いました。
保存機とそれ以外
主人公のビーコロは1944(昭和19)年製で戦時設計の小型入替機B20 10号機、入替機の同僚ハチロクは1914(大正3)年製 の8620型の8630号機、憧れの特急牽引機シロクニさんはつばめマーク付きで有名な1948(昭和23)年製のC62 2号機、そしてヨシツネじいさんは1880(明治13)年にアメリカから輸入された古典機7100型義経号、と梅小路の保存機関車が軒並み出演していますが、なぜか力持ちのデゴイチくんことD51は、梅小路保存機のD51である1号機や200号機ではなく、神戸市立王子動物園に保存されている1938(昭和13) 年製の211号機です。なぜそうなのか、作者に伺ってみたいです。
ちょっと調べたところによると、211号機は、梅小路機関区に所属したことはあったようですが、終戦直後の1945(昭和20)年11月からの数年のことだったようです。この絵本に描かれているのは、のちに重油併燃装置(1959年頃取付)と集煙装置(1963年取付)を装えた重装備の姿(ちなみに保存時には両方とも外されている)なので、力強さをより感じさせる、ということから採用されたんでしょうか。
まあ梅小路に保存されている機関車にしても、保存前に梅小路期間区に所属していたから、というわけではなく(例えば8630号機は、梅小路で保存されるまではずっと関東や東北などにいたらしい)、全国から選定され、集められた機関車達のようなので、梅小路機関区の現役時代が舞台、というのもよく考えたらちょっと違うんですね。登場するSLは全部梅小路の保存機だと思って読んでいたので、改めて読み直してちょっと気になり、調べてみた次第です(笑)。
4重連は本当に…!?
絵が独特で味わい深く、そしてSLのディティール表現も素晴らしいです。線と色の感じから、版画かな!?とも思いましたがどうなんでしょうか。リアルな感じもありながら、機関車の表情や人や犬や猫は、可愛くコミカルさもある絵柄で、親しみも湧きます。SLの煙にもこっそりと!?表情があったりして、楽しいです。
テツ的には、扇型機関庫にSLをはじめとした各種車両が集うシーンや、ラスト近くの4重連(SL3両+客車2両+SLという編成)の走行シーンはたまりません。かつてD51三重連の有名撮影地だった、伯備線布原信号場付近を彷彿とさせるような景色もあり、最高です。
あとがきにもあるように、1969年10月号の鉄道ジャーナルに、鹿児島機関区のイベント走行でB20(ビーコロのモデルの10号機)+C55+C12+8620形という編成で本線で客車3両を牽引した、という記事があり、そこから想像を膨らませてこの物語を作られたとのことです。
星のヘッドマークも誇らしげに、特別列車の先頭に立つビーコロの姿は本当に素敵です。
2019年第1刷発行と、まだ最近の本ですが、間違いなく定番の鉄道絵本になっていくのではないかと思っています。
ぜひ読んでみてください。
〜この絵本に登場する車両〜
全て国鉄型
蒸気機関車
B20、8620、D51、C62、7100(義経号)、C57、C11、E10、C56、9600他(形式不明車もあり)
ディーゼル機関車
DD51、入替用小型機(形式不明)
ディーゼルカー
キハ20?
客車
スハ43、スハフ42他(形式不明車もあり)
貨車
ワム、トラ、タム他(形式不明、いずれも黒貨車)
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