「ほんまいろいろあったんじゃけー!」広島への全盲子連れ旅!1日目(後編)

 宮島に着くとたくさんの観光客に紛れ、シカが蠢いていた。読み通りひなちゃんは通りすがるシカに、
「にゃんにゃーん。」
と呼びかけ手を振り、笑顔を振りまきいわゆる「ファンサ(ファンサービス)」を送っていた。
シカは「にゃんにゃん」でもなければ、ひなちゃんのファンでもないはずだが。
ひなちゃんは今、ネコに限らずシカも含め、人間以外の生き物を「にゃんにゃん」と呼ぶことにしているようだ。
 宮島に着くと、ちょうど引き潮のタイミングと重なっており、普段は海に沈む大鳥井の下が干上がり、歩いていける状態になっていた。
三人で鳥居の下まで行き、鳥居を支える大きな柱に触れた。
私は16mを超える鳥居の規模と、それを支える宮大工が持つ技術の高さに感嘆した。暖かなイメージの鮮やかな朱色とは対照的に、触れた柱の表面は冷たく、つるりとした滑らかな手触りだった。柱の要所要所にたくさんのフジツボがイガイガとくっついており、自分の立つ場所が時に、海に沈んでいるという事実をリアルに感じた。
 鳥居を触ってから、私たちは厳島神社に向かった。いかにもな観光ルートだ。
神社の中にはおみくじが置かれていた。
 先生はおみくじを長めながら
「ここで昔大凶を引いたことがある。」
とつぶやいた。私は今年既におみくじを引いていたため、
「今年まだだったら先生引いてみましょうよ。」
と軽く提案してみた。
「また大凶が出たら…。」
と言う先生に私は
「いや、大凶ってあまり出ないんじゃないですか?次はきっと大丈夫ですよ。」
と付け加えた。
「じゃあやってみようか。」
と言い先生はおみくじに挑戦することとなった。
おみくじを開いた先生から
「あっ」
と言う浅く息を飲む音が聴こえたような気がした。
結果は「凶」だったのだ。「大」とまではいかなくてもまたしても「凶」が出たのだ。
軽はずみな自分自身の「大丈夫」という発言を猛省した。
無自覚な根拠なき励ましの言葉ほど罪深いものはない。
「『凶』を引いたことで、今年の不運は使い果たしたんじゃ…?」
とまたしても苦し紛れな言い訳めいた励ましの言葉を加えるばかりとなった。私の悪い癖だ。もう黙っていた方が良いのに。ポルノグラフィティの「サウダージ」にある「海の底でモノ言わぬ貝になりたい」という歌詞が重く心に響く。
結局心の広い先生はここでも笑って許してくださったようだったが。
 厳島神社を後にした私たちは、ティータイムということでスターバックスに向かった。宮島にスターバックスがあることを、この時初めて知った。私の知らないうちにスターバックスは瀬戸内海をも超えていた。まあ、もともとはアメリカから太平洋を渡って、日本上陸を果たし、各地を選挙した大手コーヒーショップの身だ。瀬戸内海の島々への進出など造作もないことなのだろう。
私はおやつにバウムクーヘンとカフェモカを選んだのだが、予想通りバウムクーヘンは全てひなちゃんが食べた。元気で何よりだが、私にも分けてもらいたかったものだ。
 スターバックスを出る頃には午後5時を過ぎており、周りのお土産屋さんは軒並みシャッターを下ろし始めていた。観光地の閉店時間は思った以上に早い。
 再び宮島からフェリーで広島本土に戻り、JRで広島駅に向かった。
 駅では、駅弁と「むすびのむさし」のおむすびを買った。「むさし」は我らが広島の誇るおにぎりの名店だ。
広島のローカルCMで流れていた
「むーすびのむさしー♪」
と言う軽快なリズムがよみがえった。
 ホテルのロビーまで先生は、私とひなちゃんを送ってくださった。辺りは既に薄暗くなり、夕暮れのひんやりとした風が吹いていた。
 夜ご飯には、買ってきたお弁当やおむすびを三人で食べた。幸運なことに昼からの休憩で、だいぶ夫も回復したようだった。
 盛りだくさんな広島旅行一日目はこうして過ぎていった。

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