練武知真 第7話『他者を受け入れる事を学ぶ為の武術』
武術というと何やら
テンション高く相手を攻撃する・・・
あるいは
ガッチリと防御して相手の隙をうかがう・・・
そのようなイメージがあると思います。
確かに世の中には色々な武術や格闘技があり、そのようなファイトスタイルをとるものが数多くあります。
このようなスタイルでは、自分と相手との間に
「境界線(ボーダーライン)」
が作られ、「そこをどのように攻略してゆくか」が攻防の主たるテーマになります。
シッカリと自分をガードしつつ、
ジャブやローキックで相手に揺さぶりをかけ、
境界線が揺らいだら一気に攻撃を畳みかけてゆく・・・。
それは実戦的にとてもシンプルで有効な戦略です。
それでは、私が修する《車派形意拳》ではどうかというと・・・
少し戦略が異なります。
《境界線》をあまり意識しないのです。
勿論、相手との距離感《間合い》への意識は必要です。
それを見誤ると、
こちらが攻めたはずなのに、逆にやられてしまったり、
避けられると感じていた相手の攻撃を被弾してしまったりします。
では境界線を意識しないとは何か?
それは『相手との間に壁を作らない』という事です。
相手を完全に「拒絶する」対象と捉えず、
ある程度「受け入れる」余地を心に持つという事です。
車派形意拳や九宮八卦掌には、それを端的に表す身体要領があります。
《含胸抜背(がんきょうばっぱい)》
というものです。
これは胸のチカラを抜き、
背中の肩甲骨間を開くことによって、
胸を凹状態にすること。
腰から背中を上ってくる「勁(けい:大地の反動を利用したチカラ)」をスムーズに腕へと伝えるという目的もありますが・・・
実はこれ、「相手を受け入れる」姿勢でもあるのです。
「相手を呑む」と表現してもよいかも知れません。
胸を緊張させて相手の攻撃に備えるのではなく、
相手の攻撃を迎え入れつつ、
瞬時に相手を崩し、
自分の攻撃を相手に当てる。
物理的には
頭の下にあるはずの胸部が瞬時に後退するので、
相手の攻撃の距離感に錯覚を起こさせます。
腰の回転と併用することによって、
相手の攻撃をかわしつつ、引き込みます。
また肩甲骨間を開いた分、こちらのリーチが長くなるので、
相手には当てられずに、自分の攻撃を当てる
という戦術も取りやすくなります。
しかし、この含胸抜背の最も重要な効果は別にあります。
それは『自然体』でいられるという事です。
胸に力みがないので、緊張も生まれず、
自然体で自由な攻防がやり易くなるのです。
相手を拒絶せず、
受け入れるというマインドを少しでも持つことによって、
構えや防御にこだわって、自らの能力を削ぐリスクを減らすことができます。
僕は、形意拳の「三体式(さんたいしき:形意拳の根本姿勢)」を「構え」とは考えていません。
心身を練り上げる上でのとても重要な鍛錬法ではありますが、実戦での構えではないのです。
その人にとっての自然体こそが、その人が最高のスペックを発揮できる状態なのだと思っています。
日常生活においても、この
「相手を受け入れる心のゆとり」
は、自分らしく生きる上で、現実的にとても効果的な心のありようです。
他者から攻撃を受けないか、常にビクビクしている・・・
攻撃を受けないように、自らを強く見せて虚勢を張る・・・
誰からも攻撃を受けないよう、無関心をきめこむ・・・
自分の心身を守ろうとして、
逆に自分の心と体を不自由な状態にしている場合が多々あるかと思います。
本当に自分らしく行動できるのは、
いざという時に動けるのは、
心にゆとりがある状態なのです。
そして、
「自分以外の人や環境を受け入れる」
という心構えがそれを可能にしてくれるのです。
2024年3月27日 小幡 良祐
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