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練武知真 第14話『大切なものは見えないところにある事を学ぶ武術』

中国伝統武術の形意拳や八卦掌。

それを深く修行した人は一見それほど強く見えないことが多いです。

肩は「なで肩」で、腕はだらりとしている。

胸は筋肉が隆起するどころか、むしろ少し窪んだ感じになっています。

脚も含め、全体的に緩んだ印象を受けます。

 

徒手系の様々な武術・武道・格闘技をよくする方々の

肩や胸の発達した筋肉、

引き締まった腹筋、

野性的な魅力あふれる肉体とは、ある意味、正反対とも言えます。

 

想定環境が異なるとはいえ、

同じ「格闘」を根本とする運動であるのに、

何故ここまで作り上げる肉体が違うのか・・・。

 

それには「チカラの伝達ルート(勁路)」のイメージが大きく関わっているのです。

 

例えば、打撃(突き)を例にとって説明しましょう。

形意拳や八卦掌では、大地を踏み込むことによって発生した

「大地からの反動力」

を次のルートで伝達してゆきます。

①足首⇒②膝⇒③股関節⇒④腰背部⇒

⑤肩甲骨⇒⑥肘⇒⑦手首⇒⑧拳掌

物理的なシステムとしては概ねこのようになります。

 

つまり、自分の筋肉力への依存度を極度に減らしているのです。

いわゆる「筋トレ」をほとんどしない理由がここにあります。

筋トレにかける時間を、

・大地へのアクセス強化

  ⇒瞬時の特殊な脱力による反動力の増大

・全身の連動性の強化

  ⇒スムーズなチカラの伝達力の向上

・気の概念の活用

  ⇒丹田開発などによる爆発力の修得

などに費やすのです。

 

今回特に注目して頂きたいのは「背中」の活用です。

先にお話しした「伝達ルート」の④と⑤と⑥・・・

腰背部から肩甲骨、そして肘へのリンク。

それがとても重要なのです。

 

脚から腰背部に瞬時に伝わったチカラは、

肩甲骨を開き、或は、縦回転させ、

肘、すなわち腕へと伝わってゆきます。

 

ここで必要なのは、強固な腰と、

肩甲骨の働きによる腰背部から腕へのチカラの伝導。

 

つまり腰を除いては、

筋肉強化よりも、むしろリラックス状態であることが望ましいのです。

 

これを中国武術では

『四肢放鬆(ししほうしょう)』

といい、腕脚の不要な力みは捨て去ることを要求します。

 

背中の動きを極度に重要視するので、

それを阻害する要因はできるだけ排除します。

 

例えば、胸の筋肉を引き締めてしまうと、

背中の肩甲骨の動きを阻害し、腕への伝達力が著しく低下します。

 

ですので、胸は背中の動きに従うように力を抜いておきます。

これを「舒胸(じょきょう)」といい、胸を伸びやかにしておくということ。

 

舒胸の状態で、背中で肩甲骨が開いたり、回転したりすると、

胸はそれに従って含んだような凹状になります。

この状態を「含胸抜背(がんきょうばっぱい)」、

背が開いて、胸が含んだ状態になる・・・

といいます。

 

胸は鍛えずに緩める。

肩は緊張させずに緩める。

これでは一見とても弱そうに見えるのも仕方のないことです。

 

形意拳や八卦掌では、正面の相手からは見えない、

「背中側」で強さを作り出しているのです。

 

威圧感はありませんが、強さはちゃんと背負っているのです。

 

 

平素、

人や物事を見た目の表面的な部分だけで判断しがちです。

でも真に大切なものはむしろ見えないところにあったりします。

自分の体と心でそれを学んでゆく・・・

私が武術を通して伝えたいことの一つです。

 

 

 

2024年5月15日 小幡 良祐

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