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フィールド調査(文化人類学)に持っていくものーわたしの場合

フィールドワークに持っていくノートだが、わたしは院を卒業して数年後からはこれ。これひとすじ。

大学の先生がたなどはポケットに入る小さな文庫本サイズのノートをつかわれていた先生が多いが(うちの教授も)
わたしはこのサイズ。


表紙が硬く、立ったまま書けるのがまず大事。リングでひらいたまま収納できるのも大事。あと紙質がよくて劣化しないこと。

修士&博士課程ではこれ↑をつかっていたのだが、これはリングでひらいたままにしてしまっていると、かならずリングがあききってしまいノートがばらばらになる。ならなかったことがない。
コクヨには猛省してほしいところである(ぇ)。

値段は上のも下のも同じくらいなんですけどね。

なぜこのA4サイズなのかというと、異国の見知らぬ家庭に居候をし、たったひとりウイグル族のわけのわからん(あとになってわかった)イスラム談義やパキスタンの牧畜民の辞書もない無文字言語と格闘していると、心が折れることがままあるからである。

そんなとき、ひとりノートと対話をする。


愚痴や嫌味や皮肉、なにもオブラートをつけず、ノートとだけは対話する(書いてみると、あの人にもいいところがあるよ、と思いなおしたりもできるので、思い直せたら、それも書く)。

日本帰ったら何を食べたいか、学会で発表するとしたら事例はどの順番にならべるか、落書きもするし、世帯員の誰それは不真面目なので、試験に落ちたとかいっているけど妥当だと思う、とか、いま子供の隣に座ったらものすごい臭いがした、絶対もらしてる、とか。書くことがなくなったら人々の絵を描く。家の中に落ちているものを描く。何が重要なのかわからないから、書く。

書かないと忘れる。
絶対に忘れるから「覚えてる」と過信しないこと、とおっしゃっておられたのは梅棹忠夫氏だったか。

パキスタンの牧畜民の世帯にいたとき、乳が搾られると、春先はそれを沸騰させてから棚にならべていた(静置)が、夏はそのまま並べていた。

「寒いと脂肪分(生クリーム)が浮いてこないんだよね」

いわれて初めてそういう操作がされていたのだと気づく。

だから、搾ったあと、誰誰が居間(現地語でなんて名前?)でそれを沸かしていた、でもいいから、目の前でおこっていることを、書く。


そこから「意味」がみえなくて、こころ折れそうな日々、わたしは何度も日本に帰る夢をみた。
でもその夢のなかで自分は喜ぶのかといえば、うわあ、なんで帰ってきちゃったの、早くあそこにまた戻らなくちゃ、いくらあれば戻れる?もぉぉ、なんで帰ってきちゃったかねわたしのばかばかばかばか(あんなに帰りたいと思っていたくせにさ)とじたばたしていると、目が覚めて、お世話になっている家の穴のあいた天井が見える。

あ、帰ってなかったのか、よかった、ということを何度も繰り返す。

寒いからとビニールを張られていた。


日本にいる同僚たちは、いまこの時間、どんな貴重な文献を読んでいることやら。
わたしの目の前でいまおこっていることなど大したことであるはずがない、
そう韜晦しながら、書く。あとで、なんと実り多い一年だったのだろうとふりかえるときが来るんだが、その最中には本当にわからないのである。




あとフィールドに持っていくのは、カメラ。動画もとれるやつ。

教授は一眼レフで、レンズもフィルムもこだわっておられて、研究室の冷蔵庫は開けるとなかにはフィルムがいっぱいという研究者(?)仕様だったけれど、わたしはメカには弱い。



あとアーミーナイフ。

これはスイカを切ったり、封をあけたり、破れた服をチクチク縫うときに布や糸を切ったり、ニキビをつぶしたり(乳脂肪とりすぎ)、爪を切ったり。
ちなみにこれで人と闘ったことはいまのいままで一度たりともない。野犬などの動物ともない。

あと、住居の研究をしてたときは距離計(高い。7~8万はした)をつかったりもしていた。最近は安くなったんだねぇ。

あと気温、湿度は自分ではかろうと思ったこともあるけど、当該の国の気象局にデータをもらうほうが確実(生業の調査とかだといる)。

(みんなが面白がって見すぎるし、見られすぎて置いた場所からなくなる。)

あとは方位磁針。

あとは時計。

教授がこれ↑を持っていらしたけど、わたしのは2000円くらい。
いや~、書くとまたこっちが欲しくなるなぁ…。


牧畜の場で、何時間くらい作業がつづけられていたかとか、乳しぼりは毎日何時ごろにおこなわれていたとか、絶対必要。停電するから充電してつかう時計とかはだめよ、と。山の放牧になんかつきあうと風呂電気なし数か月なんてざらだし。

あとは、スケールの大きな本。

小さくまとまらないように、全体を見渡す視点を忘れないように。


ネットはいらない。
頭のてっぺんまであちらの空気につかる。




というわけで、そろそろ行ってきます。



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