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【読書】『生物と無生物のあいだ』福岡伸一

 生物学界の名文家、福岡伸一さんのベストセラー。
 おもしろすぎて、震えた。

 この本は、こんな失望の思い出話から始まる。

 そんなとき、私はふと大学に入りたての頃、生物学の時間に教師が問うた言葉を思い出す。人は瞬時に、生物と無生物を見分けるけれど、それは生物の何を見ているのでしょうか。そもそも、生命とは何か、皆さんは定義できますか?
 私はかなりわくわくして続きに期待したが、結局、その講義では明確な答えは示されなかった。
(中略)
 それ以来、生命とは何かという問題を考えながら、結局、明示的な、つまりストンと心に落ちるような答えをつかまえられないまま今日に至ってしまった気がする。

『生物と無生物のあいだ』プロローグより


こうして、「生命とはなにか」というとてつもなく難しい問いに、あくまでも分子生物学の視点から答えを見つけようとする筆者の旅が始まる。
読者はこの旅路に同行するわけだけれど、これがもう、べらぼうに面白い。
完全に文系として人生を歩んできたわたしは、この理系の旅路を歩むあいだに目からうろこが100枚くらい落ちることになった。

ちなみに、この本を読むのに生物学の基礎知識はほぼいらない。
わたしはむしろ村上春樹さんの小説を読むような気持ちで読み進めた。
名文家である福岡さんは、そういう読み方に十分応えてくれるのだ。

福岡さんは、詩的で端正な文章とストーリーに乗せて、生物学の知識ほぼゼロのわたしを、めくるめく理系の旅に連れ出してくれた。
確かに読むのに集中力は必要だったし、お酒片手にリラックスしながら読書を愉しむ、というわけにはいかないけれど、それを補って余りあるほどの、アドレナリンが出まくるような知的興奮に満ちた読書体験だった。

人生のなかで読んでよかった本、というものを選ぶとしたら、わたしにとってこれは間違いなく10冊以内に入る。
極上のサイエンス本。



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