オスカー・ワイルド『獄中記』をひらく
訳もすばらしいのですが、原文はさらに上を行くので、惚れ惚れしながらご紹介しておきます(^^)
テキストは、Project Gutenberg(プロジェクト・グーテンベルク)から。アメリカ版"青空文庫"みたいなサイトです。
The Project Gutenberg eBook, De Profundis, by Oscar Wilde
『獄中記』(De Profundis) は、オスカー・ワイルドが(謂れ無き罪で)レディング監獄(Reading Gaol)に収監されていた時期に、恋人の"ボジー"ことアルフレッド・ダグラス卿に宛てて書いた手紙であり、散文作品としては最後の作です。
読み始めてほどなく、ああ、なんて遠回りして、ここに辿り着いたのだろう...と、深いため息をつきました。
というのも、私がこの数ヶ月、長く見積もるならこの7〜8年ほどかけて、うまい言葉が見つからず、ああでもないこうでもない…と詩を書いたり呟いたりしていたことが、オスカー・ワイルドの手に掛かると、こうもさらりと言葉になるのですから。思わず太字にしてしまいました…。
悲哀には、深い色合いのベルベットにも似たなめらかな手ざわりがあって、彼が書いたような鋭い痛みの時期を過ぎると、まだ癒えない傷口を恋人のくちづけでそっとなぞられるような魅惑もありますね。きっとその甘く疼く痛みの奥に、聖なる奥津城にひっそりと眠る、もとの傷の影をみるから、なのかもしれません。
「悲哀のあるところには聖地がある」「愛の手がふれるときでさえ、なお血を流す」──諳んじて、お守りのように持っておきたいことばです。
散文作品としては、文庫本で70ページほどですので短いですが、お手紙としては長いです。オスカー・ワイルドの真情がつづられているということなので、行きつ戻りつ立ち止まりながら、じっくり読んでいこうと思います。冒頭の箇所だけでも、まなざしでそっとふれて愛撫していたいような趣があり、なかなか先に進めません。
(↑オスカー・ワイルドに倣って耽美風に仕立ててみました(◔‿◔)♡)
"De Profundis"
タイトルは、英語では"From the depths" となるそうで、「深き淵より」とでも訳せましょうか。ちなみに、ボードレールにも"De profundis clamavi" ( "From the Depths I Cried" ) という詩があり、ラテン語なので「絶望の淵より我呼び奉る」というふうに訳せばよさそうですね。(思わず叫んじゃうボードレールと、それでも叫ばないオスカー・ワイルド。)
もとの題材は…と調べたところ、カトリックの伝統的な祈りのフレーズで、旧約聖書『詩篇』第130篇に由来するそうです。ちょっと覗いてみましょうか。
読めないけどラテン語も。
De profundis clamavi ad te, Domine:
Domine, exaudi vocem meam:
Fiant aures tuae intendentes,
in vocem deprecationis meae.
Si iniquitates observaveris, Domine:
Domine, quis sustinebit?
Quia apud te propitiatio est:
et propter legem tuam sustinui te, Domine.
Sustinuit anima mea in verbo eius:
speravit anima mea in Domino.
それにしても、このふたりを並べると《両手に花》の気分でうっとりするのですが(笑)、時に苛烈極まるボードレールに比べて、オスカーさまはやっぱり静かでリリカルなところもあり、まさに核として"唯美"の陰影をたたえていますね。(アンデルセンもそうですが)女性的とも言えるソフトなところがあり、居心地が良かったりもします。英語の澄明な響きも、彼の持つ直感と洞察力を引き立てているように思います。
(そう考えると、ボードレールは、自らの強すぎる男性性の餌食になった人のようにも思えてきますね。なんとなく、"自己免疫疾患"めいているような...)
唯一同意しかねるところがあるとすれば、ワイルドWildeという名前が似つかわしくないこと、ぐらいでしょうか(わりと真面目に言っています。)
誰をどう呼ぶかというのは、オスカー・ワイルドが『真面目が肝心』で書いているように、ひとつの大問題で、特にnoteを書いているときには少々困ってしまう私です。ボードレールは(文字数の多さから)苗字呼び捨て(🙇)以外にあまり考えにくいのですが、ワイルドだとイメージ的に結びつかないし、オスカーだと馴れ馴れしいので、「さん」とか「くん」とか考えてみるものの、強いて言えば「さま」か…?(響きとして収まりがよい) でも、別に崇拝しているわけでもなくて…結局毎回オスカー・ワイルドとフルネームで書くことに。
ジャンヌさま(ジャンヌ・デュヴァル)を「ジャンヌ」よばわりするのにようやく馴れてきた私です。「さま」付けは、他人から見るとやや奇異でしょうしね…🤔
脱線してしまいましたが…
『獄中記』は、味わって読むと果てしなく時間がかかりそうなので、読み始めたばかりなのにもう記事にしてしまいました(^^ゞ
《口を開けば名言》と言いたくなるほど名言の多いオスカー・ワイルド氏です。
田部重治訳の『獄中記』はもう中古本しか手に入らないのですが、第二次世界大戦終結後5年で発行されたという歴史的背景にも思いを馳せたくて、リンクを張っておきます。
「良い」ランクで、経年劣化は免れないものの、状態は充分良かったです。商品ページと届いた本とでは、表紙が違ったので、びっくりしました。私のはリバイバル復刻版みたいです。
(現在、カード形式でのAmazonへのリンクが張れないため、写真を撮ることに...運営さんに問い合わせたら、復旧まで時間がかかるそうです。)
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