拝啓 「趣味が欲しい」という友人へ

ある友人について
 私には、「趣味が欲しい」と事ある毎に口にする友人がひとり居る。
彼は本も読むし、旅行にもよく行っている。一眼レフを持ち歩いては写真を撮っているし、最近ではゴルフも始めたらしい。
どれもこれも「好き」と「趣味が欲しい」という狭間でどうするか考え、行動に移した結果なのだそうだ。
私から見たら彼には素晴らしい趣味が沢山あると思う。
きっと、いまこの記事を読んでくださってる画面の向こうのあなたもそう思うのでは無いだろうか。

 しかし、彼は「趣味が欲しい」と未だに口にしている。
彼が持つ素晴らしい趣味を、彼自身が趣味と思えないのは一体何故なのだろう。
私はそんなことをいつの日からか考えるようになっていた。
そんな趣味というテーマを掲げた思考の旅について、せっかくなので記事に残そうと思う。
__こうやって思いつきで筆を取ってしまうのはきっと、「文章を書く」ことが私にとっての趣味だからなのだろう。

「趣味」とは
 まずは、言葉の定義からいこう。
ふわっとしか理解出来ていない言葉を、憶測で議論するなんてことはきっと遠回りになってしまうからだ。

趣味とは、
①感興をさそう状態。おもむき。あじわい。
②ものごとのあじわいを感じとる力。美的な感覚のもち方。このみ。「―がよい」
③専門としてでなく、楽しみとしてする事柄。
④〔哲〕カントの用語。対象を美しいと判定する美的判断力の一つ。
広辞苑 p.9503 より抜粋

上記の通りである。
今回の「趣味」としては、③が最も近い。
ゆえに、③を基本として以下は「趣味」という言葉を用いようと思う。

自分について
 とは言っても、いくら友人とはいえ他人の考えなんて読めるわけがない。
どれだけ考えても、出てくるのは結局私の推測と妄想でしかないのだ。
そのため、まずは1番分かりやすい自分に置き換えて考えてみることにする。

 私は趣味が多い方だと自負している。
漫画も小説も好きで部屋には本が積み上がっているし、映画や旅行は思い立ったら即ひとりで行くことも多い。
音楽は幅広く聞いているし、ライブだって行く。
勿論、自分で演奏するのも歌うのも好きだ。
珈琲が好きで、よく家の近くを散歩しては喫茶店に入るのがルーティンになっている。
ゲームは小さい頃から身近にあったし、一方でキャンプや釣りに出かけることも好き。
浅く広くがモットー、というように手広く好きが溢れている。それが私という人間だ。

 さて、こうやって羅列していながら思い出したことがある。
私は「趣味が欲しい」と思ったことは無いが、
「果たしてこれは趣味と呼んでいいのだろうか」
と思ったことは数えきれないほどある
ということだ。

何と言うことは無い。
趣味が多いということは、それだけ興味が移ろいやすいのだ。あくまで私の場合、であるが。
だから世間一般で言われる「趣味」というほど熱中しているのだろうか、という酷く単純な不安の種が常に付きまとっていた。
そして、ふとした瞬間に地面から芽を出すのだ。

私のこれは「趣味」と言える程のものではない、という不安が。
ようやく理解が出来た。
彼の考えは、私の不安と何ら変わりは無かったのだ。
その感情に対する解釈が違っていただけで。

しかし、いま一度定義について振り返ろう。
辞典には「専門としてでなく、楽しみとしてする事柄」とある。
つまり、熱量や頻度は関係ないのである。
自分が楽しみ、自分が満足すれば、それは「趣味」と言えるのだ。

思うこと
 インターネットの発達、しいてはSNSの普及に連れて同じ趣味の人と出会うことが容易な現代社会。
より頻度が高く、お金をかけていて、時間を費やしているもの。
無意識のうちに、それほどまで熱狂するものが趣味だと何となく思ってしまうことが増えてしまっていた。
しかし、それは違っていた。
私には私の、彼には彼の、そして画面の向こうのあなたにはあなたの。それぞれの趣味の楽しみ方があるのだ。
それは他者と比べるものでなく、ましてや優劣を考えるものではない。
どんなに些細なことでも、自分が楽しかった!と胸を張って言える事柄は等しくその人にとっての「趣味」である。
私は、そういう寛容な考え方を持つ人間になりたいなと思う。

友人へ向けて
 きっと。あなたは、また今度会う時にも「趣味が欲しい」とボヤくのだろう。
いつも「趣味はあるでしょ!」と適当に流してしまっていてごめんね。
今度は、「あなたの'それ'は、立派な趣味だと私は思うけれど。あなたが話している時、凄く楽しそうだし」と返したい。
あなたがどう考えていようと、心から楽しんでいる様子をよく知っているから、趣味と言っていいじゃないかと思うんだ。
私の趣味を否定しない彼というのも相まって、私は私が勝手に思う彼の趣味を否定せずにいたい。



長文・乱文にお付き合い頂き、ありがとうございました。

香月



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?