見出し画像

元トランスが知ってほしいすべての嘘

性同一性障害・性別違和は、それを抱えている本人にとって大きな苦悩です。悩み続けてついに性転換手術を受けたが、今は元トランスジェンダーとして生きる男性2人のインタビューをご紹介します。手術を受けた経緯、そのプロセス、現在に至る影響について語っています(以下、和訳。リンクは文末。関連資料として紹介)。

***

私は性別を失った怪物か、去勢されて欠陥商品となった男のようだ。長い間、独りぼっちだった。ちょっとした会話や抱擁が恋しい。

テイラー・フォガティ
2017年10月11日

38歳のポールはコンピューター・プログラマーだが、現在無職。「ディトランジション」のプロセスにある――10年前に始めた性転換のステップを逆行させるのだ。

男性から女性への「トランジション(性転換)」をする前、ポールは性同一性障害で長年苦しんでいた。高校時代、自分の「女の子のような」趣味や仲間に対する恥、女性化乳房(男性における乳腺の肥大化)の症状に対する悩み、孤立、混乱を感じたことを覚えている。ポールが学生誌の記事で「トランスジェンダリズム(※訳注 性別の自己決定権と多様な性の肯定)」について初めて知った時、ずっと探していた、自分の中の失われたパズルの一片を見つけたような気がした。

「私は精神的に病んでいたわけでも、単にゲイだったわけでもありません。ただ、『女性』がなんであるかを誤解していたのです。『女性性』は完全に『社会的構築物』だと思っていましたし、私が男として人に受け入れられないのは、私が実は女性だったからではないか、と思ったのです」とポールは語る。ポールは自分の体の変換は「性転換」ではなく、自分のジェンダー(社会的性別)からの逃避と考えていた。

自分を受け入れてくれるコミュニティを探しにサンフランシスコへ移った時、保険未加入者だったポールは、地域の保健センターに通うことになった。初診の日のうちに、そのリスクや副作用に関する情報はたいして知らされないまま、ポールは女性ホルモンを処方された。彼がその薬や長期的な副作用に対する不安を口にしても、「心配しないように」と毎回言われた。

ホルモン投与から手術へ

5年ほどのこのトランジションを経た後、ポールはこのサイクルから抜け出したいと思うようになった。ホルモン投与のひどい副作用と薬への依存を断ち切るために、医者が代わりに提案したのは、睾丸摘出術――睾丸の一つを切除することだった。そうすれば、ホルモン投与をやめることができる、と言われた。薬の服用と性同一性障害から解放されるという希望を抱いたポールにとって、性転換手術は救いの恵みのように思えた。

「手術の日、思っていたよりも事が急に大事になって、びっくりしました。彼らを止めようとしましたが、私にはその時、麻酔がかけられていました。術後、私は自分の体の様相と機能がすっかり変えられてしまったことに対してショックを受けました。」とポールは言う。

私はセックス依存者でした。でも、性生活はもうできなくなってしまったのです。しかも私は、常に下半身に痛みを感じるようになったのです。一年後、出血が始まりました。様子を見るように言われ、専門家には会っても、弁護士は雇うなと言われました。

ひどい回復期間を経たのち、ポールが言われたことは、手術前に言われたこととは反対のことだった――実は、ホルモン投与治療を止めることはできない、と。ポールが医者を問い詰めたとき、医者は嘘をついたことを認め、「ポールの益のためにルールを破ったこと、治療へのアクセスを増やすことが目的だった」と主張した。

ホルモン投与をやめても、ポールは元に戻れない

ポールは結局、ホルモン投与をやめた。元の性別への「ディトランジション」はその後3年を経て行われたが、簡単なことではなかった。「私は気分が悪く、自殺願望を抱くようになりました。下半身の痛みは急激に大きくなり、鏡に映る私の姿は変わっていきました。自殺を試みましたが、助けを求めようと思うようにもなりました。たくさんのセラピストに会いました。女性の服を着ることをやめ、自分の名前や証明書も書き換えました。

ディトランジションにおける一番大きな不安は何かと尋ねたとき、ポールはこう答えた。

自分がみすぼらしいと感じるし、そう見えると思っている。中年になった時、どんな苦痛や恐怖が待ち受けているんだろう? 老齢になるまで生きられるんだろうか?

ポールはまた、これからの自分の恋愛生活に対して恐れを抱いている。

私は性別を失った怪物か、去勢されて欠陥商品となった男のようだ。長い間、独りぼっちだった。独身生活を強いられたんだ。ちょっとした会話や抱擁が恋しい。

ポールは正式に「性同一性障害」と診断され、自閉症スペクトラム障害を持っていたことも知らされた。

トランスジェンダーの権利が政治の前面に出てきている時代、メディアも性転換の現実について、選んだ情報しか流さない。ティーネージャー向けに作られた性転換に関するガイドブックは漫画やキラキラしたチェスト・バインダー(さらし)でいっぱいだ。性転換をやめた人の話は、「めったにない話」や「神話」であると書かれる。ましてや、「性転換を悔やんでいる」という話をする者は反発を食らう。

男が女に「なった」とき

テイラーが性転換を始めたのは23歳で、学生の時だった。それは、単純なことから始まった。

「必要とされたことは、自分の性自認を公表することだけでした。最初にしたことは、名前を変えることです」とテイラーは語る。

私は化粧をし、髪を伸ばし始め、女性らしい洋服を着るようになりました。こうした変化は外見的なものばかりで、基本的に、男性の目に映る女性の典型を真似たものでした。

女性の名前と代名詞を使うようになってから一年後、テイラーはホルモン投与を始めるようになった。性転換をする理由は、彼にとっては明白だった。

女性になりたかったのです。どうしても。私のメンタルヘルスは当時ひどい状態にあり、社会的にも私は孤立していました。女性として生きることに挑戦するか、もしくは自殺するしかないと考えていました。

自分の新しいアイデンティティーに対する満足感を得られないまま、テイラーは一年後、ディトランジションのプロセスを始めた。ホルモン投与をやめ、男性らしい自己表現をするようになった。彼は、こうした性転換のシステムに対して感じた不満をこう述べた。「医者から、問い詰めてほしかった」と言う。

私が出会ったのは、初診の血液検査の結果を待たずにホルモン処方をした内分泌科医でした。「大丈夫ですよ、おめでとうございます!」が、彼の私に対する態度でした。あの医者は私に(本当にそれでよいのかと)聞くべきでした。

元トランスの人たちから、これから性移行をしたい人たちへのアドバイス

今、自分の性について自問している人たちに向けるテイラーのアドバイスは、不快なものかもしれない。

性器、染色体を伴う私たちの身体は、現実世界で実際に存在するものなのです。そして、”身体をもつ”ということの一部には、自分の身体を”嫌う”ことも含まれています。あなたがどんな人間だろうと、男であろうと、女であろうと、自分の身体を嫌悪するよう(現代社会に)言われているのです。そして、皆さんはその嘘に騙されているのです。

すべてが虹や出版契約ばかりではない(※1)。トランスのティーン・アイドル、ジャズ・ジェニングスは自身の自己受容の素晴らしさについて自由に発言しているが、ジャズの下半身手術の難しさについて語られることは少ない。彼の医者によれば、ジャズが第二次性徴遮断薬を早くから服用したために、性器の成長が抑制され、性転換手術で使われる「材料」が少なくなってしまったというのだ。

「性別適合手術」は、自分の性について悩む人たちにとっては、聖杯のようなものだ。術後に起こりうる悪影響の追跡調査がなされない状況にある今、性転換プロセスの長期的副作用に関して率直に語ることが優先されるべきではないだろうか?

性転換をしたいと思っている子どもたちに対するポールのアドバイスは、こうだ――「やるな(Don’t.)」。

(※1)原文は”It isn’t all rainbows and book deals.”――” It isn’t all rainbows and butterflies. =「すべてがうまくいくわけではない」” にかけている。


元記事のリンク: What Two Former Trans Men Want You to Know About All the Lies -- The Federalist


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?