すき間の季節②

①猫が忘れていった長靴は
軒下で冬の雨に打たれ

②一寸法師が降りたあとのお椀と箸は
空っぽのまま春の小川をたゆたい

③シベリアへ向かう風が取り落とした白鳥は
夏の渡し場にぽつんと浮かび

④赤いサンダルが脱ぎ捨てて行った女の子は
裸足で秋の草原に立ち尽くす

⑤ジュース屋が置き忘れて行った森の自動販売機は
次は何を売ろうかしらとぼんやり考え

⑥赤ちゃんが置き忘れて行ったお母さんは
日がな一日流しの下や引き出しを探すのにも疲れはて

⑦⑧そうこうするうちに百年経ってしまった

⑨ものがたりは 次の
置いていかれた ものたちは
すき間の季節に 抱かれて
ゆっくり うっとり 眠りにつく

⑩新しい朝に 目覚めるために

⑪昨日も明日も居場所がなくて
前も後ろも見えない真っ白な朝は
すき間の季節を往き来する
風のはなしを聞くといい

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