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分断を乗り超えるファシリテーション:トーマス・エルマコラが語る、これからの都市づくり【NGG Research #11】

グローバル化とデジタル化の巨大な波は、これまで自明とされてきた、サービスや情報の「作り手」と「受け手」の関係を根本から作り変えてきた。そのような社会変化の中、これまで一方的なサービスや情報の「受け手」とされてきた消費者や市民を、製品やサービスの開発、都市計画の初期段階から巻き込み、市民主導の開発を進める「オープン・イノベーション」や「タクティカル・アーバニズム」などの実践が世界中で進んでいる。一方で、「分断」や「二極化」が深刻な問題として浮上している社会で、多様な市民がひとつのゴールを共有しながら、プロジェクトを進め、目標を達成するというのは容易なことではない。分断と対立を抱える社会で求めれる、これからの都市づくり、オープン・イノベーションについて、市民によって都市環境を改善する協調的アプローチ「オープンソース・アーバニズム」のパイオニア・トーマス・エルマコラに話を聞いた。

Interview / Text  by Kei Harada
Cover Photo by Jana Chiellino

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トーマス・エルマコラ|Thomas Ermacora
シティ・フューチャリスト / インパクト投資家 / オープン・イノベーション・シンカー。これまで、参加型のプロセスを通じて都市や地域の自己組織化の方法を再定義する数々のインパクトプロジェクトや実験を開拓しており、タクティカル・アーバニズムの非営利団体「Clear Village」、カルチュアル・インキュベーター「Limewharf Studios」などを立ち上げ、様々な都市だけでなく、G7、Xprize、クリントン・グローバル・イニシアティブ(都市のメンタルヘルスのためのプラットフォーム「Cities Rise」の立ち上げを支援)、世界経済フォーラム、欧州委員会などの組織に対してコンサルティングを行ってきた。他にも、MITの難民教育プラットフォーム、バチカンのラストマイル・テクノロジー・インキュベーターを共同設立し、多くのスタートアップをサポートしている。最近では、ロンドンデザインミュージアムの「Moving to Mars」展のゲストキュレーターを務め、高い評価を得ている。著書に『Recoded City: Co-Creating Urban Futures(Routledge・2016)』(Photo by Matthew Thompson)

市民は”消費者”から”作り手”に

── こんにちは。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

こんにちは。トーマス・エルマコラです。私の専門は、アーバニズム、建築、テクノロジー、ソーシャルインパクトといった領域ですが、現在は、様々な都市で、オープンイノベーションを取り入れた、都市開発のプロジェクトを行っています。本日はよろしくお願いします。

── あなたのプロジェクトのコンセプトである「オープンソース・アーバニズム」についても教えてください。

例えば、ソフトウェア開発におけるオープンソースは、開発の早い段階で人々を参画させて、より良い製品を作るための方法ですよね。私は、都市開発で、このような考え方を実践しています。都市開発のプロセスの早い段階から、市民を参画させることによるメリットは、都市のユーザーとなる市民が、企業や政府のためでなく、自分たちにとって望ましい都市のあり方を追求できるだけなく、プロジェクトに関わることで、都市に対して、よりオーナーシップを感じ、長期的な視点で、環境やサステナビリティの問題についても考えられるようになることです。

これまでの伝統的な都市開発では、プロの専門家が開発を担い、市民の役割は都市の使い手としての役割に限定されていました。私が考える都市づくりのあり方とは、市民全員が作り手として、都市開発のプロセスに参加していくことです。作り手になるといっても、もちろん限界はあります。お肉屋さんにCADを使って図面を書いてもらうとか、写真家の方に法律を作ってもらうとか、そういったことはしません。プロジェクトでは、外部から必ず専門家を呼んで、都市のユーザーとなる市民と一緒に仕事をしてもらうことになります。そして、この場合の専門家の役割は、市民のファシリテーターや媒介者といった役割が強くなります。

── なぜ今、都市において「オープンソース・アーバニズム」の考え方が重要なのでしょう?

それは、これまで自明とされてきたサービスの作り手と受け手の関係が一変しているからです。

── と、言いますと?

ソーシャルメディアやインターネットの普及によって、誰もが意見を発信できるようになったことで、これまで一方的なサービスの受け手とされてきた消費者や市民の意見が企業や政府に対してダイレクトに届き、双方向のコミュニケーションのあり方が可能になっています。

さらに、デジタル空間ではそういった消費者や市民の声が可視化され、場合によっては時間や地理的な制約を超えてグローバルに連帯が起こることもあります。企業や政府が社会的に不適切な行動をとっていたり、行動に透明性がなければ、彼らは大きな批判を受け、プロジェクトがストップしたり、商品が販売中止になることもあります。

── そういった関係性の変化が、都市づくりにも影響をもたらしているということでしょうか?

はい。都市開発も例外ではなく、市民の意見が強い影響力を持つようになっています。例えば、ニューヨークの再開発プロジェクト「ハドソン・ヤード*1」は住民から強い反対に遭い、グーグルの親会社アルファベット傘下の「サイドウォーク・ラボ」が進めたトロントでのスマート・シティのプロジェクト*2は、市民の反対意見から中止に追い込まれました。市民の声を後回しにする、従来の都市開発はあまりにもリスクとコストが伴いますし、今後も同じやり方を続けていくことは不可能だと考えています。都市のデザインの段階から市民を巻き込んでいくことは、今後ますます重要になるはずです。

ハドソン・ヤード*1
マンハッタンの西岸、ハドソン川に面し、かつては鉄道基地だった広大な敷地を、超大型オフィスビルとショッピングモール、マンションに生まれ変わらせる大規模再開発プロジェクトは、企業誘致にあたって、様々な優遇措置も取られたが、コミュニティにもたらされるメリットは、”あまりにも小さく、むしろネガティブな影響の方が大きい”と、市民から非難が寄せられた。
「サイドウォーク・ラボ」による、スマート・シティプロジェクト*2
2017年に、「サイドウォーク・ラボ」が、5,000万ドル規模を投じると発表した、トロントでのプロジェクトは、住民のプライバシーの取り扱いなども議論を呼び、2020年に中止が発表された。

──ある時期から、市民が、サービスや製品の一方的な受け手、つまり「消費者」として位置付けられていこくとが急速に進行しました。

都市における、私たちのデザイン哲学の最も重要なポイントは、市民をデザインの「受け手」からデザインへの「参加者」へと変えることです。それは市民をデザイナーにすることなのではなく、デザインへの「参加者」にすることを指します。

グループの中には、特別に有能な人や時間に余裕のある人、デザインの知識が豊富な人はいますが、グループによる「コレクティブ・インテリジェンス(集合知)」はそういった個別の能力を遥かに上回ります。参加型デザインの優れたポイントは、そうした「集合知」を結集しながら、参加者もプロジェクトの過程を通じて学びを得ることで、プロジェクト全体の能力を拡大することができる点です。

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(Photo by Per Morten Abrahamsen)

なぜ”ファシリテーション”が必要か

── 現在は、社会の「分断」や「二極化」が非常に深刻な問題となり、異なる考え方や思想を持つ人が同じテーブルについて話をすること自体が、とても困難になっています。市民参加型のプロジェクトは、これらの問題の解決を前進させることができると考えますか?

良い質問ですね。変化や多様性を拒絶する人々がいることで、社会に分断が生まれていますが、正しい決断とは、排他的な少数の人によって決定されるものではありません。

── はい。

より良い決断とは、社会で起こる変化に対して扉を開き、長い時間をかけて多様なアイデアを戦わせることによって生み出されると信じています。市民参加型のプロジェクトは、それぞれのプロセスに多くの人を巻き込むことによって、多数の市民が公平に、少しずつ損をしますが、その代わり、少数の人が多くを失い、被害が集中してしまう事態を回避できます。つまり、個人に責任やプレッシャーが集中することはほとんどないのです。だからこそ、社会の急激な変化に適応し、コミュニティとして乗り越えていくために、市民参加型のデザインプロジェクトは非常に公平な方法だと考えています。

──なるほど。

「分断」という問題は、政治や社会に対する考え方の違いだけを表すのでなく、デジタルテクノロジーを使いこなせるかどうかなど、様々な領域で生まれており、とても難しい問題です。そういった様々な領域で生まれる差異や対立に対して、私たちは慎重に目を向けなくてはなりません。

── 市民参加型のプロジェクトを実施する際に、気を付けられていることはありますか?

現在の社会に置かれている文脈とは、異なる文脈を作り出すことが重要だと考えています。プロジェクトにおける「コ・クリエイション(共創)」とは、ディーゼルエンジンのようなものだと思います。始動してからエンジンが温めるまでには少し時間がかかりますが、一度始動できるようになれば、長い時間維持することができます。なので、まずはきっかけとなる火花をつくることが必要なんです。

── 普段とは異なった刺激を与えるということですね。

プロジェクトでの「コ・クリエイション(共創)」ワークショップでは、市民が協働するきっかけを作り出すために行っていることが3つあります。

まず、最も重要なことは、参加者に対して明確な役割を提供することです。それぞれの参加者の役割を明確に限定し、それぞれがプロジェクトでどのような貢献をできるのか、問題解決のためにはどのようなステップ・段階があるのかを整理して提示することで、参加者はその役割を守りながら、他者と協力しやすくなります。問題にまつわる文脈をきちんと組み立てて、複雑さをできるだけ減らすことが重要です。

── なるほど。勉強になります。

2つ目は、インスピレーションを与えてくれるスピーカーを連れてくることです。時にはミュージシャンなど、コミュニティが抱える問題とは直接関係のない人を連れてきて、一緒に仕事をしたくないと思っている人に対して異なる刺激を与えて、場を温めることも重要になります。

3つ目は、ワークショップのテクニックを駆使して、場を盛り上げ、参加者同士の対話を促すことです。また、ワークショップにはテクニックが求められます。ファリシテーターの技術とワークショップのテクニックが、市民の協働を促す重要な要素になります。また、参加者がプロジェクトを価値あるものだと感じ、関わることが面白いと感じられるようになれば、自発性が生まれ、彼らのコンピテンシーをあげることもできます。

── ワークショップやファシリテーションが重要な役割を果たすのですね。

はい。様々な分断を抱える社会で、それぞれの違いを乗り越えるためには、ファシリテーションは最も重要な要素になります。これからの社会において不可欠なスキルのひとつだと言えますし、優れたファシリテーターを育てていくことは、今後の社会において極めて重要なことです。

そもそも、「二極化」や、「分断」が起こってしまうのは、私たちが思考を過激にするニュースや情報が入りやすいソーシャルメディアのアルゴリズムなどのシステムに組み込まれ、共通の目標やゴールを共有できなくなっているからでもありますから、仕組みをきちんと整えることができれば、「分断」や「二極化」の影響を抑えることができると信じています。

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(Photo by Per Morten Abrahamsen)

市民の”コンピテンシー”と”信頼関係”こそが財産

──「オープンソース・アーバニズム」のプロジェクトの価値というのは、その土地のオーナーの希望や要望を叶えること以上に、プロジェクトの参加者やコミュニティにもたらされる付帯的な価値の方が高いのではないかと感じます。

おっしゃる通りです。参加型のデザインプロセスで得られる最も重要な価値は、プロジェクトによって、「コミュニティで新たな信頼関係が築かれること」、そして「参加者である市民のコンピテンシーが上がること」の2つです。

── はい。

子供たちは、学校で一緒にスポーツをしたり、宿題をしたりして友達を作りますが、年齢を重ねると、生活の中でそのようなプロセスを経験することは困難になり、新しい人と関わる機会も少なくなりますよね。ですから、コミュニティの人々と新たな関係性を築く「オープンソース・アーバニズム」のプロジェクトは「大人のためのゲーム」でもあると思っています。

デジタルの世界では信頼に関する多くの概念が破壊されてきましたが、私たちは新たな信頼のあり方を作ることにもっと力を注ぐ必要があります。隣人との関係性が高まり、コミュニティでの信頼関係が深まれば、地元市民の生活の質は向上します。社会的な孤立やメンタルヘルスは、現代社会における深刻な問題の一つですが、「オープンソース・アーバニズム」はこれらの問題にも立ち向かうことができます。

── なるほど。

市民のコンピテンシーを上げるというのは、プロジェクトの小さな「赤ん坊」を作るということでもあります。参加型のプロジェクトを一度経験したことのある人同士では、一緒に何かを始めようという気持ちが芽生えやすくなるんです。プロジェクトによって市民の会話が促されれば、会話の中でそれぞれが抱えている課題が共有され、プロジェクトの後も継続して何かを始めようとする動きが生まれます。これは市民のコンピテンシーを上げるということでもあるんです。

成果を5年のような短期間ではなく、より長い期間にわたって測定してみると、オープンイノベーションのプロジェクトが、通常の都市開発のプロジェクトに比べて、どれだけ多くのレガシーを残しているかがわかります。そして、このような豊富なレガシーこそ、参加型プロジェクトにおける最大の価値なのです。

ファシリテーターに求められるスキル

── プロジェクトの中で、参加する市民の意見が必ずしも正しくない、誤っているという場面に直面することはありますか? オープンイノベーションの難しさの一つに、参加者の意見を尊重しすぎた結果、全体のクオリティが落ちてしまうということもあるかと思います。

まさにそのような場面にこそ、専門家の出番が必要になります。専門家との協働を通じて、市民が学びを得ていくプロセスも同時にとても重要だと考えています。

例えば、市民対してプロジェクトを説明する段階で、プロジェクトを通じて達成可能な項目が16項目あったとしましょう。しかし、その中に合理的でないと判断される項目が5つあったとしたら、私たちはその項目を市民に提示することはしません。11個の合理的な選択肢しか提示しません。プロジェクトの中で、これは達成すべきではないと判断される項目に関しては、市民を巻き込もうとしないのです。

ベンチをドアの左側に置くか、右側に置くかという判断は、市民が自分で選択できることだと思います。ただ、CO2の排出量や電力などの技術的な要件や、車いすの人のためのアクセシビリティなど、法律に関する要件がプロジェクトの中で出てきた場合、その領域では、専門家が市民をガイドする必要があります。ファシリテーションの仕事とは、合理的な選択肢を提示することでもあるんです。

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(Photo by Gareth Owen Lloyd)

── 「オープンソース・アーバニズム」のプロジェクトを行う上で、最も困難なポイントはどこにあると考えますか?

そうですね...いくつかありますが、最大の難関はプロジェクトをスタートする前にあるんです。

── というと?

プロジェクトを始めることについて承諾を得るタイミングが最も難しいということです。「オープンソース・アーバニズム」のプロジェクトは従来の都市開発とは全く異なる方法になりますから、このやり方は良い方法であると納得してもらわなくてはなりません。部外者が「オープンソース・アーバニズム」のアイデアを持ち込んでも変な目で見られるだけですから、地元の団体や市民と密に協力し合って、「この人たちと一緒にプロジェクトをやることで、より大きな成果を得られる」と思えるよう、市民を巻き込んで、プロジェクトに参加することの価値を感じてもらうことが大切です。

── なるほど。

次なる困難は、先ほどお話したように、いかにして考え方の異なる人たちを一緒に仕事をさせるのかという点にあります。「オープンソース・アーバニズム」のプロジェクトには良いアイデアを持った人や、デザイナーだけが必要なのではなく、人々が一緒に働けるように導くことができるファシリテーターが最も重要なのだということを強調しておきたいと思います。私たちが求めているのは、ファシリテーションのような「感情に関わる知性」なのです。

── 「感情に関わる知性」ですか。

はい。そして最後に、最初の仮説や、やり方に固執せず、常にプロジェクトのフレームを調整していくことに難しさがあります。参加型のデザイン・プロジェクトは、常に新しいフレームを見つけていくことが必要で、最初のプロセスや見方に固執してしまうと、良い結果が得られる可能性は大きく減ってしまいます。

最初のプロセスにこだわって良いのは、コントロールする対象が限りなく少ないプロジェクトだけです。「オープンソース・アーバニズム」のプロジェクトでは、常に変化があることが理解されていなくてはなりません。そして、プロセスの過程で随時フレームをより良いものに変えていくことは、プロジェクトに関わる人の重要な能力でもあります。

ジェントリフィケーションをどう捉えるのか

──ジェントリフィケーションの問題にはついては、どのような対処が考えられるでしょうか?

ジェントリフィケーションは、土地の価格が上がることに問題があるのではなく、地元の人々が追い出されてしまうことに問題があります。その場所をより良いものにし、コミュニティの雰囲気やアイデンティティを作った人が追い出されてしまうことに課題があると認識しなくてはなりません。

ですから、コミュニティをより良くするプロジェクトに参加した「コ・クリエイター(共創者)」である市民が、土地の価値をあげたことで得られるベネフィットやリターンを受け取れるようにすることが重要になります。

これは比較的新しい考え方で、あまり実践されていませんが、「コミュニティ・ランド・トラスト(CLT)*3」のような方法を活用して、市民が、コミュニティのシェア・ホルダーになり、リターンを受け取れるようにすることも考えられると思います。

*3 コミュニティ・ランド・トラスト
地元住民や行政機関の代表者らによって構成される非営利団体が、土地や建物を共同所有することで、市民に低価格で住宅を提供したり、コミュニティが望むあり方で土地を活用する。

── なるほど。

ニューヨークのハイライン・パーク周辺の土地の値段は、ここ数年で3倍から10倍にまで上昇しましたが、これは公共空間が大きく改良されたからで、新たな建物が多く建てられたからではありません。公共空間の価値が高まることで、それぞれの私的な土地の値段が上がるのです。公共空間をより良くした人は、私的な土地の価格の上昇による補償を受けられるようにすべきです。

── 「オープンソース・アーバニズム」のプロジェクトの評価基準はどうなっていますか?

評価基準は、地主や地元政府など、プロジェクトのコミッショナーが下す評価と、私たちが設定する基準の2つに大きく分けられます。コミッショナーからのリクエストが「公園を改善して欲しい」ということであれば、おそらく、公園が子供たちにとってより安全になったかどうかといったことが、コミッショナーが下す評価基準の一つになるでしょう。

私たち自身が判断する基準はそれぞれのプロジェクトで一貫していますが、先ほどお話しした、プロジェクトがもたらす付帯的な価値も含まれます。「コミュニティにどのような人間関係が築かれたか?」「新たなプロジェクトは生み出されているか?」「ジェントリフィケーションの影響はどうか?」といったことも評価基準になります。

参加型のデザインプロジェクトを実践するなら、自分たちのプロジェクトによって起こる二次的な結果についても、責任を持って検証し、反省しなければなりません。

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(Photo by Jana Chiellino)

コロナが明かした「怠惰な都市」


── この間、コロナウイルスによるパンデミックが都市に与えた影響についてはどのように感じていますか?

パンデミックの影響という点では、それぞれの都市で明暗が分かれていると思いますが、4つのカテゴリーに分けられると思います。

1つ目のカテゴリーを「幸運な都市(Lucky Cities)」と呼びましょう。コロナウイルスの影響をあまり受けなかった都市、もしくは、感染症に対して日頃から十分な準備ができていて、迅速な対応を行った都市です。日本の多くの都市もこのカテゴリーにあたるでしょう。日本では、多くの人が規則を尊重し、ウイルスの亜種が流行していないことも本当に幸運だったと思います。

2つ目は、COVID-19によって大きな打撃を受けながらも、その立ち上がりや反応がとても良かった都市です。これらは「良い都市(Good Cities)」と呼べるかと思います。これらの都市では人々の生活に、テクノロジーがアグレッシブな形で入り込んでいるのも特徴です。都市が厳格なロックダウンを行ったことで、多くの市民は在宅勤務などに頼らざるを得なくなるなど、日常の行動の選択の余地が少なくなりました。

しかし、選択の余地が少ないからこそ、変化に対してより素早く適応することができました。そして、これらの都市は変化に適応することよって、長期的には生活の質を向上することが期待できます。バンクーバーやコペンハーゲンは、このカテゴリーに入るでしょう。彼らは、パンデミックをきっかけに都市のあり方を変えようとしています。

── はい。

3つ目のカテゴリーは、「怠惰な都市(Lazy Cities)」と呼べるグループです。これらの都市は、コロナウイルスのパンデミック以前は良い状況にあったのかもしれませんが、パンデミックに対しては最善の方法で対応せず、同時に歪みを生み出しています。2つ目のカテゴリーに挙げた「良い都市」では、より良いアイデアに注目が集まりますが、「怠惰な都市」では、長期的な視点に立って最善となるアイディアを採用せず、むしろ、芽生えつつあったポジティブな兆候を歪めています。今後、このような都市からは、人々が離れていくでしょう。

── たとえば、どういった都市が当てはまりますか?

私が長年住んでいるロンドンは、迅速な対応を行わなかったことで、大きな被害を受けています。ロンドンはこれまで土地も物価も非常に高価な都市でしたが、グローバルに人が集まることで、値段を維持することができていました。今後も、そのようなトレンドを維持することは困難でしょうし、今では多くの人が、ロンドンのような政治家が誤った判断をするような都市には住みたくないと感じています。

また、ロサンゼルスはこれまでも深刻な格差が広がっており、ホームレスの多さは重大な問題でした。アメリカで最も裕福な都市のひとつである、ロサンゼルスであれば、ホームレスの問題など簡単に対処できるはずですが、彼らは問題を放置し続けてきたのです。パンデミックは社会的弱者に対して、より深刻な被害をもたらしていますから、彼らは問題を放置し続けてきたことによって高い代償を支払っています。パンデミックからの回復には、より多くの時間がかかるでしょう。

── そうですね。

最後のカテゴリーは「不運な都市(Unfortunate Cities)」と呼べるグループです。発展途上国の都市を見ると、ケープタウンやデリーは、パンデミックによって、これまで猛スピードで進んでいた成長スピードが後退しており、さらに深刻な被害が広がっています。これらは、ある意味「不運」だったと言えると思います。

── 先進国の多くの都市では、パンデミックによって、エッセンシャルワーカーと呼ばれる人々が、いかに厳しい環境に置かれているのかということも明らかになりました。

都市がエッセンシャルワーカーの重要性を認識できていない場合には、古典的な方法になりますが、街頭に出てデモを行い、間違っていると訴えなくてはならないと思います。政府は、高齢者を守るのと同じように、エッセンシャルワーカーを守らなければなりません。

また、エッセンシャルワーカーの境遇をより良くするために、デザイナーが果たすべき役割もあると思います。本当に「スマート」な都市は、物理的なインフラを整備して、エッセンシャルワーカーをサポートし、成果をあげています。ニューヨークは、パンデミックの間にポップアップのサービスをいくつかローンチしていますが、こういった新たな取り組みが注目を集め、世界各地でデザイナーの協働を促していくことが重要になると思います。

── 最後に日本の読者に向けて、メッセージをお願いします。

現在の社会が抱える様々な問題を解決するために、参加型デザインの手法はもっと広まる必要があると考えています。この数年間で、より多くの人が参加型デザインがもたらす利益に気づき、主体的に参加型のプロジェクトを立ち上げ、何かを始めようとする動きを指数関数的に増やさなくてはなりません。

日本は、デジタルテクノロジーに関して、最も先進的な国のひとつだと思っています。日本にいると、あまり実感しないことかもしれませんが、デジタルのインフラは非常に整備されていますし、デジタルテクノロジーは生活に浸透しています。日本には、参加型のデザインプロジェクトとデジタルテクノロジーを組み合わせて、現在の社会が抱える問題を解決してほしいと世界は強く期待していますし、私自身、日本が果たす役割に大きな希望を抱いています。

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【関連動画】

トーマス・エルマコラが出演!
trialog vol.11「SUSTAINABILITY|社会のウェルネス」
SESSION 3 【Open Innovation|オープンイノベーション】
出演:柳平大樹(ソニーコンピュータサイエンス研究所)、若林恵(黒鳥社)

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