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会社の変化は、経営者の変化〜引き算の意思決定で根拠を磨く-GOB IP 山口高弘さん対談2/3

この記事は「私が感じたコミュニケーションの限界~分かると変化-GOB IP 山口高弘さん対談1/3」の続きです。
(対談のお相手:GOB Incubation Partners株式会社  代表取締役社長 山口高弘 さん)

山口:私たちは様々な状況の企業にご支援として入らせていただきますが、結局、何においても変化は必要です。その変化ができるかどうかは、結局「経営者自身が変われるどうか」にかかっています。
そこである時から、構造改革支援をさせていただくのと一緒に、セットでコーチに付いてもらってください、と提案するようになりました
事業だけ支援するのだと、変化が難しいのです。

岡本:事業だけを変えようとしても、変化の実現は難しいんですね。
この間、山口さんのセミナーに参加したんですが、とても印象に残っているところがあって、5%の変化を58回すれば95%の変化につながる、って仰っていましたよね。

山口:はい、変化を何回積み重ねるかでプロダクトマーケットフィット(※)が決まってくるんです。経験則ですが、自分の中でこだわっていることが100あったとしたら、これが5%まで縮小されると、プロダクトマーケットフィットが図られるんです。一方で、一気に5%まで削れすぎてしまうようなこだわりだと、逆に弱い。ですので5%ずつ変化していって、0.95を掛け算し続けると、5%に達するのが58回掛け算したときです。
58回分の変化を短期間に出来る自己になっていなければ、事業の変化をさせられないってことになります。

※プロダクトマーケットフィット(PMF):自社の製品やサービスが、ある市場(マーケット)に対して適合している状態

岡本:変化って、それまでの状態を崩す作業なので、痛みを伴うものだと思うのですが、その58回までの変化の変遷ってどのようなものなんでしょうか?

山口:最初の2割くらいの期間は時間がかかります。そこから少しずつ変化に対するスピードが上がっていって、最終的には毎日変化していく、という風になります。これは私の考えですが、「変化」というのは、自分が「変化しよう!」と思わなくても、もともと人間って変化する素養を持っているんですね。それを制約してしまっている、自分の中での壁みたいなのが積み重なっているだけで、その壁を取っ払うだけで勝手に変化できるんです。そのために、最初の10回くらいは、「根拠を問う」ことをさせていただいています。そうすると、9割9分根拠がないんです。「それならこっちでもいいのではないですか」と言うと「確かに!」の連続です。

岡本:なるほど。そこが「自分の選択って何を基準に選択していたんだ」という内省の機会にもなるんですね。

山口:まさにそうです。経営者は意思決定の連続ですが、徹底のない意思決定によって、自分の自己ではない何かが積み重なってしまいます
それによって自己が何をしたいのか見えなくなってしまうので、それを剥いでいくと、すごくシンプルな大事なことだけ残ります。
私もやってしまいがちですが「意思決定のように見えて意思決定でないもの」がすごく多いんですよね。それさえシンプルになれば、本当に柔軟性高く意思決定ができます。

岡本:そこだけ握っていればいい手綱が見つかるから、そこだけ大事にしながら自由な意思決定ができる、ということですね。

山口:そうです。経営者の仕事というのはつまるところ意思決定ですが、意思決定=足し算、という固定概念があると思います。
「何かを決定する」=「新しいことをやる」というイメージが強いのですが、私の感覚では逆で、引き算。引く力が付けばかなり柔軟性が高いです。やらなくていいことさえ決めれば、あとはやることを決めるだけなので。

岡本:やることを決めた場合に比べて、やらないことを決めた経験って、成功体験として自覚したり、周りと共有することがとても少ないですよね。
それでいうと、コーチングでは行動に優先順位をつけるときや、目的を明確化する際、また行動の選択で、やらないことについての意思決定に携わることも多いので、やらなかったことへの成功体験を作っていける、一緒に味わえているなと思いました

山口:足し算するときって、明確な指針やビジョンがなくても足せてしまいます。外部環境に乗っていれば足せてしまうんですが、一方で引き算は、自分の中で指針がないとできません。なぜ引くのか、という問いに自分が答えられないからです。
例えば、あるファイアーウォールを導入しなければ、情報漏洩してクライアントさんに迷惑がかかる、というケースがあったとします。月10万円としましょう。世の中的にも必要で、メンバーも全員必要だと言っていて、リーズナブルな価格でもあり、やめる理由がない状態ですよね。これを引くためには、ものすごい根拠が必要になります。引き算をするときには暗黙知(※)としての根拠を定式化しないと引けないので、強制的に根拠を作っていく訓練になります。

※暗黙知:経験や勘に基づく知識のことで、言葉などでの表現が難しく、個々人の脳内に存在するもの。対義語は形式知。

岡本:私の場合、一対一のコーチングで話しをしながらその部分を言語化をしていきますが、山口さんの会社ではどういう風にサポートされているんですか?

山口:情報が少ない中で決断していくときには、感覚や感性といった、ロジックじゃないところでやらなければいけません
すると、今自分が何を感じているのかという違和感が明確に存在しなければ、意思決定は流れて行ってしまいます
違和感があるからこそ、今下されようとしている重要事項の決定をやめることができるので、日々普段から、違和感を公にするという訓練をしておかないと、意思決定の際の「感覚」や違和感を表に出すことができません
そこで、今気になっていること、もやもやしていることを書き込んでそれを公の会議の場で共有し合うということをしています。
すると、違和感が表出しやすくなって、ロジックを超えた感覚でものを言えるようになります。違和感を言語化して公の場で出すことで、違和感の正体に気づけたり、みんなで突き止めたりすることができます。

お話は「違和感」について、続いていきます。

この記事を書いてくれた人

今回、このラフだけど抽象度高めなトークを言語化する際、誰が適任だろうと考えた際、彼を思い出し協力をお願いしました。
感想も送ってくださったので、ここで紹介します。(感想にはトーク3/3の内容も含まれています)

藤川勇大さん
京都大学文学部卒。学生時代よりライターとして活動し、人材系メディアやニュースサイトなどへの寄稿実績有。大学卒業後は人材会社にて人材紹介事業に携わり、個人・チーム単位での表彰実績多数。その後、現在は業界系新聞社にて編集の仕事に携わる。好きなものはラーメン。

・「自分の本当の思いをずれなく表現する」ことが簡単にできないというのは、就活でものすごく痛感した。自分ってホントは何したいんだろう?それって他人に伝わるんだろうか?やってみたら面接でトチって、ほんとのこと言いたくなくなる・・・みたいな負のスパイラルに陥る時があった。その原因って何だろう。

・「わかる」という言葉を使ってしまうと「わかった気になってしまう」というのは同感。夫婦喧嘩ってきっとそれで起こるんだと思う。自分の知ってる相手じゃないから、怒ったり怒鳴ったりする。

・見立てるという言葉は許しの言葉にも感じた。「自分ってこういう人間!」って決めつけてしまうと、それ以外の自分の姿が出てきたときに失望したり、違うって否定したくなったりするけど、「見立て」でとどめておくことで、そうじゃない自分が出てきたとしてもそれも自分の一部だととらえることができたり、本当はどっちに行きたいんだっけ?と自問自答することもできる。

・違和感というのは、自分が本来持っている価値観とのギャップなんじゃないかと。そこを突き詰めていくことで、自分が本来持っている姿になれて、結果意思決定の筋が良くなる、という仕組みなんじゃないかなと。その価値観って、個人個人によって違うものだから、そりゃ非合理的にもなるし、非効率的にもなる。でもやらなきゃ何にも始まらない。だから「非合理から入る」というのにもすごく共感。

・感覚の話では、「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? で書かれていた「理性と感性」が対立しがちで、理性の方が優位だと考えられがちだが、歴史を振り返ってみると、実は過去の優れた意思決定の多くは直観に基づいてなされていることが多い、という部分を思い出した。

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