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eスポーツ選手の障害者差別発言に対して思うこと

ブラインドライターズ代表の和久井です。

eスポーツ選手の障害者差別発言が問題になっています。
実況配信中に「なんでそこでクリアリングすんの? 障害者やろマジで」と発言し、障害者差別だと炎上して、12月末までの活動停止処分を受けました。

差別はもちろんいけないことで、障害のあるかたのみで構成された会社であるブラインドライターズとしては黙っていられないところです。

差別発言に当事者は怒っているか

でも今回の件は、すこし違和感がありました。
そこで社内のスタッフにこの差別発言についてどう思うか聞いてみたのです。

「どうでもいい」
「どういう意図で発言したのか確認する」
「その理由により『この人はそういう人なんだ』と思えば距離を置く」

という意見で、なんと怒っている人はいませんでした。

私の違和感もまったく同じなのです。
そしてまず思ったのは、
「『障害者』とひとくくりに何かを形容できると思っているということは、この人の身近に障害者がいないのだな」
でした。

人は身近にないものほど、ステレオタイプにものを記憶する

視覚障害者とひとくちに言っても、全盲と弱視とではまったく環境が異なります。全員が点字を読めるわけでもないし、お喋りな人もそうじゃない人もいる。
「視覚障害者はこんな人だ」などとひとくちでは説明できません。

車いすも同じです。電動なのか手動なのか、腹筋が使えるのか、車いすの種類もたくさんあります。車いすを使っていてもハイハイならできるとか、手指も動かしづらいとか、まあほんとうに人それぞれです。

語学が堪能だったりITに強かったり、非常に優秀な人もたくさんいます。視覚障害を持つ弁護士さんもいらっしゃるので、普通に考えて特に障害者手帳を持っていない私よりよっぽど優秀です。

ほかにも聴覚、知的、精神といったほかの障害によって特性はまったく異なるでしょう。
でも私がこうした感覚になったのは、なによりたくさんの障害者と知り合ったからです。

ゲーム界隈のスラングとして障害者を揶揄する言葉があるのは問題ですが、それを気にせず使えるのは、障害が自分の遠くにあるものだからでしょう。

無邪気な差別こそ問題の根が深い

ブラインドライターズの仕事をしていると、無邪気な差別を受けることがままあります。
「目が見えないなんて可哀相」
「きちんと仕事ができるの?」
「結婚は障害者同士でするの?」

質問されればまだいい方で、会社の説明をしたときに、あからさまに表情が変わって黙ってしまう人もいます。プロフェッショナルな成果物を提供しているとは想像もできないようなのです。

『偏見や差別はなぜ起こる?』(ちとせプレス、北村英哉唐沢穣 、2018)によると、偏見や差別を容赦しない社会的規範が浸透してから、あからさまに偏見のある言動は慎まれるようになってきた。しかし無自覚の偏見を持ち、差別する人は依然として存在している、とあります。こうした差別をしている人たちは、自分が差別をしている自覚を持たず、自分を平等主義的だと信じ込む傾向がある、さらに差別される側に同情的であり、被差別対象の人たちに対して、行為や同情を積極的に示そうとすることもあるといいます。

差別発言を叩けばそれでよいのでしょうか。
問題は差別発言の根本にあるもの、自身に対する優生思想ではないのでしょうか。
差別発言を叩いている人たちは、ほんとうに差別をしていないのでしょうか。

上記の本によると、脳のメカニズムが差別をしてしまうようにできているのだそうです。誰にでも差別感覚はあるのです。

インクルーシブの大切さ

身近にないものは、ステレオタイプのイメージで記憶されやすいのだそうです。
それはすごく実感します。海外に行くと、
「あなたは日本人なのに背が高い」
「あなたは日本人なのに英語が喋れる」

などと言われることがあります。私程度に喋れる人は山ほどいるし、私より背の高い人も山ほどいます。でもその人はそれまで「日本人」のデータを多く持ち合わせていなかったため、何か固定のイメージがついていたのでしょう。「日本人は観光バスに乗ってやってきて、カメラでパチパチ写真を撮って、また集団でバスに乗って去って行く」ともよく言われました。

言葉狩りをしても、根底に差別意識があるのなら、また同じような発言が出るでしょう。
障害者が哀れみの対象である限り、差別は続くことになります。
そして今、社会が抱えている問題は変わらないままです。

私は、人が柔軟な視点を持ち、差別をなくすためは、多様な人と関わることが必要だと考えています。
遠い存在だったものが身近になり、自分のカテゴリーに入って来たとき、差別の対象ではなくなるはずです。

ブラインドライターズは今後、健常者と障害者が積極的に関わる施策を積極的に行っていく予定です。
すべての人が暮らしやすい社会を目指します。
今後とも、応援をどうぞよろしくお願いいたします。


さまざまな論文を根拠に、心理学の研究者が偏見や差別のシステムについて解説しています。自戒をこめて読みたいたいへんな良書です。

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