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桜ときみと、晴天と。

__卒業式__

それは、別れの季節。
だれもがそう思っているかもしれない。
だが、『別れ』の季節とは思わない
ひとりの少女がいた。

「うぅっ、ぐすっ」
「泣かないで…また、会えるからっ」

…?
なんで、泣いてるの?

「ねぇ、ねぇ、なんで泣いてるの?
「…え?」
「この季節は、泣く季節なの?」
「あなたは…泣かないの?」
「うん!泣いちゃったら、せっかくの桜が見えなくなっちゃうじゃん?」
「……」
「きれいな桜が咲いて卒業できるんだから、笑わなきゃっ!」

わたしは泣かない。
泣かない、強い子でいなくちゃいけない。

__だって、約束したから__

__昔__

『なぁ』
『なあに?』

このころはまだ幼かった。
今より、ずっとずっと。

『もし、俺がいなくなったら?』
『どーいうこと?』
『あっ、わからないか?』
『…ん』

今思い返すと、本当に純粋だったんだなって思う。

『わからなくてもいい。だから、聞いてほしい』
『きみがそれであんしんするなら、なんでもきくよ!』
『…ありがとう。』

それからいろいろ話された。
でも、何一つ覚えていない。
だけど、これだけはハッキリと頭に刻まれていた。

『?』
『わからなくてもいいんだ…。今は』

きみは、もう生きれないってこと。

『もう、ばかだなー!きみはっ』
『お前には言われたくねーよ』

お前には言われたくない
それが最期の言葉だったなんて。

悔しかった。
もっと、話がしたかった。

この会話を交わして、一ヶ月が経った。
私の両親からあの人が亡くなったと伝えられた。
私は号泣した。
泣いて泣いて、泣き叫んだ。
でもお母さんはこう言ってくれた。

『きっとあの子も、あなたが泣いているのは悲しいと思うの』
『なんで?もうしんでるんだから、わたしのことはみえてないよ…』
『ううん。死んじゃった人はね、お天から見てるんだよ』
『そう、なの…?』
『そう。だから、あなたが泣いたらあの子は心配するわ。』
『なら、わたし、なかないっ!』

そんな約束をした気がする。

*満開の桜のように、ずっと笑っていて*

って言い遺して、私のお母さんは亡くなった。


今、校庭の満開な桜を見て思い出す。
あの人も、お母さんのことも。
すごく、懐かしい。なみだが溢れちゃいそう。
だけど泣かない。心配しちゃうから。


今日は大事な日。
高校を卒業して、数年経った。

大学を卒業して就職して。
就職先で出会った人と、結婚。

今日は結婚式。

「新郎つばさ、あなたはここにいる新婦みらいを、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」

「…はい!」

「新婦みらい、あなたはここにいる新郎つばさを、健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しいときも、妻として愛し、敬い、いつくしむことを誓いますか?」

「はいっ!」

今日は晴れて桜が咲いている。
そして、あの季節を思い出す。
泣きたくない、心配かけたくない。
だけど…

(なみだが溢れて…止まらないよっ)

今日くらいは、泣いていいよね?
私、今すごく幸せ。
きみとお母さんの分まで、幸せになるからね。

私、きみ…翔(しょう)に出会えてよかった。

「ね、子供の名前はなににしようか?」
「まだ早いよ!笑」
「でも、付けるなら…明(あかる)。みらいに、明るく、つばさのように羽ばたいてほしいから…」
「いいじゃん」
「つばさ…」
「これから、幸せになろうね」
「はいっ!」

お母さん、翔、見てる?
あなたたちまで、私たちの幸せが届きますように。