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『虞美人草』③夏目漱石


五 (甲野さんと宗近、 天竜寺にて)

 甲野さんと宗近は、庭園を歩いている。夢窓国師についてあれやこれや語っている。境内の景色が明らかで、寺へはいるといい気持ちになるなど話している。宗近がマッチを出して煙草に火をつけ、燃え残りを池の水に捨てると、甲野さんは、夢窓国師はそんな悪戯はしなかった、と言う。

p. 81 天竜寺の門前を左へ折れれば釈迦堂で右へ曲がれば渡月橋である。京は所の名さえ美しい。二人は名物と銘打った何やらかやらをやたらに並べ立てた店を両側に見て、停車場(ステーション)の方へ旅衣(たびごろも)七日余りの足を旅心地に移す。

『虞美人草』 夏目漱石 著 角川文庫 
昭和30年 初版発行

 夏に、母がどこか旅行へ行きたいというので、母が好きな京都を案内してほしい、と伝えた。母は、京都へはもう何度訪れたか分からないと言う。
 母は茶道を教えている。美術館や庭園、寺院など、名所旧跡はもちろん、
懐石料理や料亭、食文化も豊かな街だ。私の先輩は山歩きが好きで、京都の山によく登りに行くとおっしゃっていた。
 行く人の個性の数だけ、顔がある。奥深き京都。
 私は、子どもに日本らしい空気を吸い込んでもらいたかった。
なぜかうちの子は神社とか寺が好きで、小さい頃は、神社仏閣に行くとなかなか帰りたがらなかった(笑)
 私は、お守りとか絵馬が昔から好き。今は御朱印も集めている。日本の作家が昔から舞台にしてきた土地でもある。歴史上の数々の出来事の舞台でもある。
 京都は、外国人観光客がたくさんいた。日本の観光地はどこもそうかもしれない。京都は、私は3回目。中学の修学旅行では龍安寺や金閣寺、二条城へ。母と桜の時期に、奈良の吉野と京都の清水寺へ。そして夏の嵐山。
 まずは、渡月橋を見に行った。景観とか絶景は、実際に自分の目で見ないと感動しないものだ。一面の桂川が太陽光を受けてきらきらと光っていた。そぞろ歩きするバックパッカーの外国人観光客やら、浴衣をきたカップルやら、家族づれやら。夏休みだからだろうか、平日とは思えない賑わいだった。屋形船がゆったりと移動している。渡月橋、見てよかった。次回はぜひ、屋形船ものってみたいものだ。

 宗近が、高島田に結った女を見つけて、あれだ、宿の隣の縁側で琴を弾いていた女だという。甲野は、宿のものは、あれは東京もんだと言っていた、と宗近に返す。

六 (藤尾と糸子と小野 藤尾の部屋にて)

 藤尾は、訪れた糸子に対して、ご無沙汰ね、と声をかける。
 家に父がいたのでなかなか外出の機会がなくて、と糸子が答える。
 博覧会へはいらしたの?向島へは?と尋ねる藤尾に、用事が何かとあって、と答える糸子。
 少しは出ないと毒ですよ、春は一年に一度しか来ませんわ、と言う藤尾。

 そこへ、過去から未来へと逃げ出してきた小野が訪れる。

 藤尾は、糸子の兄、宗近にお嫁を見つけてあげよう、と小野に提案する。
(山では、宗近は藤尾の兄の甲野に、金時計をくれ、と言っているところだが)
 京都には美人が多いそうじゃありませんか、と小野に尋ねる藤尾。
 そんなことはない、甲野に聞けばわかる、と言うと、兄はそんな話するものですか、と答える藤尾。
 それじゃ宗近君に聞こう、と小野が言うと、糸子は、
 兄からの葉書で、京都は大変美人が多いと書いてあった、と言う。

 隣の琴はお前のより上手い、とか、琴の名手は糸子より別嬪だが藤尾さんより悪い、とも書いてあったという。まあ、いやだこと、と答える藤尾。

 藤尾は、京都の宿で春の雨がしとしと降っていて、隣から琴が聞こえるなら小野的だと言う。兄と一(はじめ)さん(宗近のこと)じゃだめね、と。

 宿の窓から見えるであろう風景を想像してみようと、藤尾が空想の絵を描いていく。糸子が現実に引き戻すような口を挟んだ。藤尾は途端に不機嫌になる。

p.102 小野さんはどうして調停したらよかろうかと考えた。話が京都を離れれば自分には好都合だが、むやみに縁のない離し方をすると、糸子さん同様に軽蔑(けいべつ)を招く。(略)
「小野さん、あなたには分かるでしょう」と藤尾のほうから切って出る。(略)
「分かりますとも。ー詩の命は事実より確かです。しかしそういうことが分からない人が世間にはだいぶありますね」と言った。小野さんは糸子を軽蔑する料簡(りょうけん)ではない、ただ藤尾のご機嫌に重きを置いたまでである。(略)小野さんは詩のために愛のためにはそのくらいの犠牲をあえてする。(略)藤尾の方はようやく胸が隙(す)く。(略)
 人を呪(のろ)わば穴二つという。小野さんはぜひともええと答えなければならぬ。
「ええ」

『虞美人草』 夏目漱石 著 角川文庫 
昭和30年 初版発行

 この部屋で、糸子が探りを入れると、藤尾は、一さん(宗近)に相応しいお嫁さんを見つけましょうとはぐらかした答えを返す。
 糸子の、兄に対する気持ちをうっすらと感じ取っていた藤尾は、あなたは私の姉さんになりたくはないの、と言って糸子の反応を見る。

 また、藤尾の機嫌を害した糸子を救済せず、見捨てた小野は藤尾との共犯関係に足を踏み入れかけている。
 
 やっぱり、煮え切らない男だ、漱石、じゃなかった、小野は…

 先日新しくできた友人とモスでこの小説について話をしていて、漱石の奥さんは(後から出てくる)小夜子さんみたいな人だったのか、それとも藤尾みたいな人だったのか、と聞いたら、藤尾みたいな悪妻で有名だった、とのこと。

なあんだ、そうなんだ…
やるじゃん‼️

 
 

 

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