休職のこと

いろいろあって、実は昨年の十二月から休職している。

十二月初旬のある日の夜、仕事を終えた私は、そのまま社員証兼入館カードと社用携帯を机に置いたまま帰宅した。

そして翌日は無断欠勤してしまった。
人生初。自分自身ちょっとショックだった。

その日は一日中ずっと泣いて過ごした。
自死も考えた。何度も何度も。
その度に踏みとどまろうとするけれど、涙が止まらない。
嗚咽を繰り返し、落ち着くと今度は希死念慮が静かに襲ってくる。
その繰り返しで、まるっと一日を潰した。

精神の不安定さは十二月になって急に起きたことではなく、夏場あたりから徐々に出始めていた。
酒量が増えて、いつしか毎晩のように飲むようになっていた。
飲まないと寝られないようになっていた。
もっとずっと前からすでに限界だったのかもしれないな・・と、今になって振り返ってみるとそのように思う。

無断欠勤したその日は、緊急連絡先として会社へ申請してある個人携帯へ何度か会社から連絡があったようだったけれど、うっかり死んでしまわないように自分をコントロールするのにいっぱいいっぱいで、それに応対する余裕は微塵も無かった。

午後三時過ぎになり、上司たちが私の家を訪問した。
十月頃に一度、精神不安から会社で自死をしてしまいかけたことがあったから、死んでしまったのではないかと思って様子を見に来たのだと思う。

何度もインターフォンを鳴らされたけれど、そのうち諦めて帰るだろうと思って、ずっと布団を被ってやり過ごしていた。
もしも自死しても、あなた方のせいではないよ。
だから放っておいてほしいと思っていた。

いつまで経ってもインターフォンが鳴り止まないから、五回目か六回目で呼び出しに応じた。
やっとの思いで振り絞った酷い声で「大丈夫ですから」とだけ応えた。
連絡がつくようにと社用携帯を持ってきたから顔を見せられないかと尋ねられたけれど、とても無理だからポストに入れておいてほしいとお願いして帰ってもらった。

翌日、心療内科を受診した。
下された診断は適応障害で、ひとまず一ヶ月の療養が必要ということだった。

ネットやnoteで「適応障害」で検索すると、参考になりそうな情報がたくさん拾えた。
まずは、ひたすらひたすら寝て、心が回復するのを待つのがいいと述べられていた。

最初の二週間は、ほとんどの時間を家に引き籠って、一日中寝て過ごした。
ろくに食欲が湧かず、水を飲むだけだったり、パン一切れとかストックしていたビスケットやナッツを齧るくらいで、ほとんど何も口にしないのだけれど、お腹が空いて寝られないということもなく、飲まないと寝られないということもなく。
一日18時間寝ていた日もあった。

ずっと家の中というのも精神衛生上よくない気がして、気晴らしにと思って少し無理して外出することもあったけれど、すぐに疲弊してしまって家に帰りたくなってしまう。
外だと人目が憚られて涙を流すこともできず、突如襲ってくるその発作を抑えるのにもエネルギーが必要だった。

その間、何度か社用携帯にメールやチャットで業務確認の連絡が来て、それに応対するのが思いのほか大変だった。
ろくに引継ぎもせずに突然休職してしまったものだから仕方ないことではあるけれども、一番キツい時期だったから少しのやりとりでも相当疲弊していたと思う。

休職の手続きについては、上司が途中までを代行してくれていた。
私が酷い状況だったこともあり、もしも慮ってくれていたのだとしたら感謝はしているけれど。
ただ、その上司との人間関係が上手くいっていなかったことも主因のひとつだったので、その間のやりとりすら苦痛で仕方なかった。
そんなこんなで、最初の何日かは休めているようで、心からは休めていない感じだったかもしれない。

でも、職場から離れられたことは、私の心の負荷を明らかに下げてくれているようにも思えた。
もう起きてしまったことで、すぐにはどうしようもないことを悟るのにそれほど時間はかからなかった。
これまでどんな状況であっても諦念というものに執拗に抗って生きてきたけれど、今回ばかりは流れに身を任せるしかないことを理解しつつあった。

ちょうど二週間が過ぎたあたりから、何かを考えたり、どこかに出かけたりといったことを、少しづつ能動的にできるようになっていった。
食欲も戻ってきて、食べたいものも思い浮かぶようになっていた。
何も食べたいという気が起きなかった間に、三〜四キロほど痩せてしまっていたから、さすがに少し戻した方がよい気がした。

何もせずにひたすら寝て過ごしていただけなのに、不思議なことに、自然と心が少し回復に向かいつつあるようだった。
それだけ大きなダメージを受けていたのだなとあらためて実感するとともに、人間が本来的に持っている心の自然治癒力に少し驚いたし、ネットやnoteで拾った適応障害になった人たちの体験談どおりだなと身をもって体感したことで、有益な情報を書いてくださっていたその人たちへの感謝の気持ちでいっぱいだった。

その後はどうすればよいかということで、ここでも先人方の教えに素直に従ってみることにしよう。
食べたいものを食べ、やりたいことをやるのがよいと、そのように書かれていた。

自尊心や自己肯定感が著しく下がっているということで、まずは自分自身を甘えさせてあげること、大事にしてあげることが必要だということだった。

この課題はだいぶ前からなんとかしなければならないものであるという自覚があったものの中々改善していないテーマだったけれど。
今回完全に潰れてみて、文字通り身にしみて実感していたことだった。
まだ暫く休みは続くし、じたばたしても何も前に進まないので、とにかく心の思うままにやりたいことをやってみることにした。

引き籠っていた間に段々と寒さを増してきていたから、冬支度を兼ねて、新しいブーツとニットを幾つか買った。
ずっと空けたかった両耳のピアスを空けた。
オフィスメイクを学びたかったので、デパコス売り場にいってBAさんに色々と質問したりタッチアップしてもらったりした。
少しおめかしして、ずっと行きたかったカフェに行った。
しばらく忙しくて会えなかった人たちに会いに行った。

時間が有り余るほどあったにも関わらず、それほどたくさんのことはできなかったけれど、それでもやりたいことを心の赴くままに消化していくにつれて、何か活力みたいなものが自分の内側から少しずつ湧いてくるのを感じていた。

少しだけ前向きに、もうちょっと生きてみようかな・・と思えてきているようだった。

そんな風にして、2020年の最後の月を過ごした。

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